第3話 遠征
卵から孵化したばかりの彼らにはまだ名前はない。
発見順の通し番号の数字で呼ばれるだけだ。
そして訓練を重ね、適性を見つけて、然るべき名前を与えられて鎮守府に着任する。
巡洋艦のテンリュウやハグロの着任に合わせて、より強力な装備も開発された。
初の空母、ショウホウが配属された時は、お祝いに食堂のオバちゃんたちが奮発して赤飯を炊いてくれたものだった。
何しろ複数のドローンで遠方から海賊船を発見し、爆撃、雷撃が遠隔で出来るようになったのだ。
砲撃の距離が長い巡洋艦と合わせて、戦法も変わっていった。
具体的には、最初期のようにイチかバチかのような命がけの接近戦をする回数が減ったのだ。
幸いにして未だ部隊の損耗はなかったけれど、これはありがたいことだった。
部隊が充実してくると、より火力の高い者の出撃頻度が高くなり、相対的に火力が低く耐久性も低い者――そういう者たちには睦月型駆逐艦の名前がよくつけられていた――は出撃機会が少なくなり、場数を踏むこともままならず、「遠征」と言う名の資材調達任務に出されることが多くなっていた。
「資材調達」とは言うものの、実際には弾頭に込める「体液」を搾り取る作業であり、もっとあからさまに言うならば、敷地外にある建物に行って「おーでぃおびじゅある」を鑑賞したり、時にはゴム製品を身に着けて人間の女の子とイチャイチャしたりする、そんな戦闘とはかけ離れた業務であった。
もっとも彼らは皆美少年であったため、AV鑑賞よりももっぱらイチャイチャしていたようである。
蛇足ながらこの「遠征」によって、オカモトや相模ゴムの株価が上がったことも付け加えておく。
もちろん、隠語としての「遠征」の他に、哨戒や輸送船の護衛としての遠征もあった。
こちらも主に出撃したのは、後に「黒服たち」と呼ばれるようになる「睦月型」駆逐艦たちだった。
何しろ彼らは相対的に燃費――高速機動装置に使う燃料のことだ――がよかったのだ。
とはいえ、会うか会わないかわからない索敵任務や護衛任務だから、燃費のよい彼らに出てもらい、海賊船を発見したら逃さないよう巡洋艦が来るまで引きつけておく、あくまで縁の下の力持ち的な任務だった。
いざとなれば、某海兵隊員がやったように通常爆薬でも駆逐艦級ならなんとか破壊できる。
だがしかし、できるだけ安全に、こちら側の損耗が無いように戦うためには、体液を弾頭にした兵装で海賊船の足を止め、女海賊の胸部装甲を破壊しなければならない。ここは通常兵器では如何ともし難いところだ。
また、通常兵器(爆薬)では万一誘爆や誤作動をすると自分が殉職しかねないため、基本的に彼らは特効兵装で出撃するが、弾薬を節約する習慣がすっかり身に染み付いていたようで、護衛任務中に海賊船と遭遇戦になると、相変わらず最低限の砲撃で肉薄して敵艦船に乗り込んでは、ツバを吐いたり汗をなすりつけたりして女海賊の胸部装甲を破壊、然る後に肉弾戦で「R-18」することがしばしばあったという。
その一部始終を目撃した輸送船の乗組員たちは、長い航海でのモヤモヤから羨ましさ半分と、あまりにもアレな「R-18」にげんなり半分で、箝口令を敷かれるまでもなく、陸に上がってもその事実を口にするものはいなかったと言う。
蒼き乱舞のこれくしょん @kuronekoya
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