マスコットが自由意志を持ってた、って、それはラノベじゃなくてSFかホラー

@HasumiChouji

マスコットが自由意志を持ってた、って、それはラノベじゃなくてSFかホラー

「これ、何なんですか?」

 俺は、スマホの画面を、先輩ラノベ作家……と言ってもデビューは1〜2年違いだが……の鱶乃リョウに見せながらそう聞いた。

 スマホの画面に表示されているのは、つい最近、設立された「ラノベ作家クラブ」から送られてきたメールだ。

 内容は「ラノベ作家の為のポリティカル・コレクトネス勉強会」の案内。出席するかは各自の自由だが……講師を見ると……むしろポリコレ肯定派の面々だ。

「会長の方針だって」

「えっ? あの、クソフェミだったの?」

 ラノベ作家協会の初代会長は、まだ二〇代の女性作家。容姿は「萌え系アニメから抜け出てきたような」と評されていて、ついでに声やしゃべり方もいわゆる「アニメ声」だ。

「そう云う事らしいよ……。看板娘のつもりで会長に据えたヤツに、組織を乗っ取られかけてるみたい。事務員なんかも、会長がどっからか引っ張って来た訳の判んない連中ばっかりらしい」

「ええ……そ……そんな……」


 ラノベ作家クラブは設立された早々に内紛でエラい事になった。

 当初の目標であった一般社団法人化や職能団体化は後回しになり、2年以上の壮絶な戦いの後、初代会長・初代会長が連れて来た職員・初代会長派の作家達は、ラノベ作家クラブから追い出される事になった。


「あの……何で、初代会長派の職員ばかりなの?」

 数年後、都内の雑居ビルの一室に有るラノベ作家クラブ事務局に、あるクレームを入れに来た俺は、とんでもない光景を目にした。

 追い出した筈の連中が、知らない間に、再びラノベ作家クラブを乗っ取りつつ有ったのだ。

「有能で実務をよく知ってる人達だから仕方ありません」

 対応に出た事務局長は、そう言った。

「はぁ?」

「とりあえず、クレームが有ると言われてましたけど、何ですか?」

「あの……クラブが出来た時に言われてた、国民健康保険じゃなくて、もっと割安な独自の健康保険組合の保険を用意するって話は……」

「はい、あの時の内紛で、実務をやってた人達を追い出したせいで、遅れてましたが、1〜2年以内には目処が……」

「じゃあ、国民年金にプラスされる独自の年金も……」

「それも同じです」

「出版社との原稿料交渉の窓口も……」

「ええ、ついでに、アニメ化された時の権利の交渉窓口もやる予定です」

「あの……まさか……初代会長が返り咲くなんて事は……?」

「知らないんですか?」

「えっ?」

「ラノベ作家クラブは、追い出された初代会長が作った『一般社団法人ラノベ作家協会』に吸収合併される予定です。今、ここで働いてるのはラノベ作家クラブじゃなくて、ラノベ作家協会から出向してきた事務員さん達です」

「あの……まさか、『ラノベ作家の為のポリコレ勉強会』とか『ラノベ作家の為のフェミニズム勉強会』なんてのは……?」

「ああ、強制じゃありませんが、出席を推奨します。WEB会議での配信もやってますので」

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