Epi100 最終話 二人で歩む道

 高校三年生になった。

 この四月からは俺の家に明穂がひと月、ずっと一緒に生活し、次の五月は明穂の家で一緒に生活する。互いの家の往復が無い分、勉強を一緒にするのも効率がいい。

 でも、夜も激しい。


「大貴。萎んでる。なんで?」

「なんでじゃないってば。いくら休みだからって、これだと俺の体持たないって」

「まだ鍛え方足りないのかな」

「じゃなくて……」


 性獣明穂に際限なし。


 文芸部の新たな部長は満場一致で俺。コンクールの実績が大きかったみたい。

 とは言え部員六人。新入生を確保できないと、さらに弱小部へとなりかねない。でも、今年はある出来事からかなりの人員増を見込んでるそうで。


「先輩。ほんとにすごいんですね。抱いてください」


 後輩の津島さんは相変わらずだ。もう人目を憚らず明穂も苦笑する程に、俺に対するモーションが半端ない。

 これまでは部活のある日以外は接触も無かった。今は普段も接触しようとして、教室に顔出すし帰りの時間も合わせて、できる限り一緒に居ようとして。


「大貴は津島に興味無いんだけど、まだ理解できないみたいだね」

「卒業までに落として見せるんです。どんな手段も使いますよ」


 明穂の睨みが通用しない、超絶鈍感少女だった。


 今年の入部希望者は八人も居て、みんな驚いてるし、でもそれも当然なのかと納得してたり。


「八人居てもまじめに創作活動するのは、たぶん二人か三人。あとはただの憧れでしょ」

「そうなの?」

「高い知名度に惹かれて来ただけの、ただのファンだし。小説書く気なんて無いから」


 明穂に言われるとそうなのかと。

 確かに知名度は上がった。


「文芸作家大貴だからね」

「なんか痒いんだけど」


 実は、元々書いてた奴をワンチャンもらって、読んでもらったら採用された。

 まだ書店に本は並んでないけど、校内で宣伝されて要約版を図書室に置いて、生徒たちが自由に読めるようにしてたら、入部希望者が集まったってわけで。

 さらに学校案内でもコンクールでの快挙とか宣伝されてて。


「高校生で文芸作家なんてすごいんだよ。自信付いたでしょ」

「いやあの、背中が痒すぎて」

「大貴は相変わらずだなあ」

「だって、俺だよ? 急に自信満々なんて無理だし」


 家に帰ると陽和の猛攻が激しい。


「お兄ちゃん。抱かないの?」

「妹を抱く趣味無いし」

「抱けばいいのに」

「明穂がいくら言ってもそれは無理だから」


 でも、明穂と共闘されて、たぶんそろそろヤバい。この前は一歩手前まで行って、辛うじて逃れたけど抗うのも限界が来てる。


 それともうひとつ。


「大貴兄ちゃん!」


 そう。従妹の菜乃葉ちゃんが本当にうちの高校受けて、合格して春から住み込んでる。こっちの猛攻もあって早く明穂の家で生活したい。

 従妹だから俺の精神的抵抗感が少ないのがヤバすぎ。

 かなり遊ばれてなんか扱い方が上手くなってるし。明穂仕込みだってのはわかってるけど。


「これ以上は無いから」

「大貴兄ちゃん。でも反応すごいよ」

「これは、あの、男だから」

「いつでもできるのに」


 こんな調子で俺の家はカオスだ。

 母さんにも先日元気な姿をしっかり見られた。


「ちゃんと成長してて嬉しいし、それくれないの?」

「無いから」

「ゴム無しでいいんだけど?」

「無いから」


 ゴム無しとか恐怖でしかない。って言うかそれ以前に母親が相手なんてあり得ない。


 学校ではクラスが変わって。

 成績順で割り振られて長山さんも田坂さんも別になった。なんか寂しいと思う部分もあるけど。

 でも、実は明穂と一緒。


「大貴と一緒!」

「俺も嬉しい」


 クラス内の反応はもう「見てらんねえ」だけど、みんな普通に話し掛けてくるし、クラス内でぼっちの状態じゃなくなった。明穂が居るからかクラスの纏まりが良くて、俺も積極的に輪の中に引き摺り込むから、自然とみんなとの会話も増える。


「浅尾の小説、出たら買うから」


 こんな嬉しいことを言ってくれる人も居る。

 でも、こんな人も。


「出たら図書室に置くんだろ? そうしたら読んでみるよ」


 いや、できたら買ってください。


 長山さんだけど。

 時々教室に来て話し掛けてくる。


「あーちゃんと離れ離れ……寂しい。あたしも文芸部入ろうかな」

「本読まないじゃん」

「あーちゃんのだけは読む。だから出たら貸して」


 この人も買ってくれないんだ。

 田坂さんも時々来る。


「あのね、本出たら買うから、それでね、買う時付き合ってくれるかな?」


 やっぱ癒されるし、その言葉に乗りそうになって、明穂も一緒に行くからとか、田坂さんに対する明穂の警戒感がすごい。

 俺を唯一奪い取る相手って認識してるみたい。確かに雰囲気とかすごく好きだけど、俺を支えられるのは明穂しか居ないのは、ずっと同じだし。


「大貴の周りに女子が増殖し過ぎた」

「なんか一年前からしたら考えられない」

「一度全部排除した方がいいかも」

「えっと、強制排除だと印象悪くなるし」


 女子比率が高いのも次々結果を出したことで、見る目が変わったのが大きいんだとか。

 体育会系の脳筋に憧れる女子が多いのは普通で、文系なら軽音部や吹奏楽部に人気が集まる。でも、小説家の肩書はやっぱ大きいみたいだ。

 身近にそんな存在が居れば、少しお近付きになろうなんて、そんな子も居るみたい。


「印税目当ての浅ましい連中が集まるんだよ」

「そんなこと無いと思うけど」

「大貴。女なんて所詮現実的だからね。金稼げる男に惹かれるんだよ」


 身も蓋も無いことを言われてる女子って。

 前評判で俺の小説は売れると予測されてるらしい。高校生作家ってことも後押しして、注目を浴びてるんだって。


「金の匂いがする所に女が集まるんだよ」

「えっと……」

「あたしが居るから容易に手出しできないけど、田坂みたいのが居るから気が抜けない」


 なんか、田坂さんが可哀想になって来た。完全にライバル視されてるし。

 明穂は金目当てじゃ無いって、当然だけど。もしそうなら一年前の俺を支えるのなんて無理だし。あの頃の情けないばかりの後ろ向きの俺だよ。なにもかもマイナスに見て背中丸めていじめもあって。

 全部跳ね除けてここまでにした明穂は、本気で俺を愛してくれてる。


「明穂」

「なに?」

「田坂さんは確かに気になるけど、明穂以外とは付き合ったりしない」

「結婚しよう」


 あの、まだできません。


「形だけでも」

「どうするの?」

「結婚指輪を最初の印税で買ってくれればいい。値段なんていくらでもいい。プチプラでもいい。証を手に入れれば安心できそうだから」


 プロポーズも明穂から。普通は男がするんだよね?

 結婚指輪って一生ものだよね。プチプラは無いよなあ。印税いくら入るかわかんないけど、やっぱちゃんとしたものがいい。それと婚約指輪ももっといいものにしよう。

 前回買った奴は一万円程度だったし、それでも小遣い前借りして買った奴だけど。


「明穂の婚約指輪だけど」

「あるから要らないよ」

「でも、やっぱ明穂に相応しいものがいいと思うから」

「要らないんだけどな。大貴が居ればそれでいいんだし」


 要らないと言ってるけど、ちゃんと考えておこう。


「大貴兄ちゃんの本、なんか感動する」


 そうそう。菜乃葉ちゃんも文芸部。

 もともと本は読まなかったらしいけど、俺の小説を読んで嵌ったんだって。


「一年生で有望株は二人くらいかなあ」

「他は?」

「そのうち相手にされなくなったら辞めるでしょ」


 それも寂しい。

 退部されるならなんとか引き留めておきたいし。


「枯れ木も山の賑わいなんて要らない」

「そうかもだけど」


 十四人もの大所帯になって、文芸部の予算は大幅に増えた。

 予算が増えて活動も活発化してくるから、活動内容も充実させる必要がある。

 無駄に使わず済むように明穂と一緒に、活動内容を考えて、部員たちとも相談しながらやることを決める。

 みんな俺の言うことを真面目に聞くんだよね。明穂じゃ無いのに。


「部長って肩書以上に実績があるからだよ」

「まだ本出てない」

「大丈夫。担当編集者が見込んで、わざわざ社内会議に掛けて出版に漕ぎ着けた。期待されてるんだよ」

「結果が出ないと」


 まだそんなこと言ってる、と明穂に呆れられるけど「だからこそ大貴なんだよね」だってさ。


「そんな大貴だから愛せるんだよ」


    ―― おしまい ――


 最後までお付き合い頂いた方にはお礼申し上げます。

 応援やコメント、評価を頂いた方にも厚くお礼申し上げます。

 ありがとうございました。

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「無理です。ごめんなさい」から始まる俺と彼女のラブコメな日々 鎔ゆう @Birman

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