転生したらゴブリンだった件!アマ~ネとユキ~ネの大冒険!

白狐姫と白狐隊

第1話 転生したらゴブリンだった件!アマ~ネとユキ~ネの大冒険!

私、如月天音【きさらぎあまね】は死んだ。姉の雪音と一緒にだ。

私達ふたりは帰宅の途中、暴走して来たトラックに曳かれたのだ。

激しい衝撃と痛み、それまでの人生が走馬灯となって再生される…。


ふと気が付くとそこは深い森の中である。

【ここはどこ?私は…】

あたりを見回すと、緑色をした小さな生命体がいくつか眼に入る。

【何これ、もしかして、異世界物に出て来るゴブリン?】

いや、良く見なくてもゴブリンだ。

「嫌~!私、異世界転生するなりゴブリンに襲われる運命なの~!」

私は悲鳴を上げた。

「アマ~ネ、眼は覚めた?何馬鹿言ってんの?あなたもゴブリンでしょ?」

私の悲鳴を聞いて、すぐ傍にいる雌のゴブリンが言った。

それを聞いた私は自分の手足や体を見回す。

緑色…どう見ても深い緑色…

「嫌~~~~~~~~~~~~~~~~!」

私は再び大きな悲鳴を上げた!


それから半年が過ぎた。

私、ゴブリンのアマ~ネは、姉のユキ~ネと共に

深い森の中を歩いていた。

人間どもから身を守る為、ゴブリンの守護神を復活させるのだ!

その為にはゴブリンの巫女である私達が行かなくてはならない。


大体人間どもこそこの世界の諸悪の根源、いや悪魔そのものだ。

ゴブリンを人間に仇なす下等生物と一方的に決めつけ、

見つけ次第、情け容赦なく殺す。

冒険者になりたての初心者は特にたちが悪い。

自分達の経験値稼ぎに、弱い無実のゴブリンを殺す上に、

腕が悪いから一撃では仕留められず、

何度も何度も斬り付けては惨殺する。

殺される立場になってみろってんだ。

私達がいったい何をしたと言うのだ。

ほとんどのゴブリンは人間どもに住処を追われ、

森の中で忍ぶように生きているだけではないか。


ゴブリン村の長老の話では、深い森の中には

ゴブリンの神殿があり、そこにある神戦車、T-72神を

復活させれば、人間どもから身を守れると言う。

急がねばならない。

人間どもは勇者を召喚し、魔王を滅ぼそうとしている。

魔王が住む城はゴブリンの住む森の更に奥にある。

魔王討伐の狼煙として、森に住むゴブリンは

一番最初に討滅されてしまうに違いない。


神殿を目指して何日かが過ぎた。

体の弱い姉のゴブリン、ユキ~ネは疲労困憊している。

こんな小さくて可愛い女の子のゴブリンでも、人間どもは平気で殺す。

酷い人間の男だと慰みものにした上で殺したりする。

そして大して価値はねぇ~けどなぁ~とか言いながら、

魔核をギルドで換金しやがる。

こんなことは絶対に許されない。

私、アマ~ネは、姉のユキ~ネを励ましながら、

森の奥のゴブリンの神殿に辿り着いた。


神殿の中に入ると、私は長老に貰った粗末な木の皮を取出し、

そこに書かれた呪文をユキ~ネと一緒に声を合わせて読み上げる。


「T-72ネ申は偉大なる同志スターリンのソヴィエト連邦が生み出した、

最強にして神聖かつ革命的な唯一絶対の神戦車であり、

この世に存在するすべての陸戦兵器の頂点に君臨する存在である。オブイェークト 。

ありとあらゆる陸戦兵器はT-72によって撃破され、

逆にT-72に対して有効な火力を持つ兵器は存在しない。オブイェークト 。

その姿は神聖かつ優美で、車体は低く、被弾経始を考慮した曲線的な砲塔と、

1門の125mm滑腔砲、そして若干の小口径火器を装備している。オブイェークト 。

また一部には爆発反応装甲を全身にまとっているものもある。オブイェークト 。


T-72神は仰られました。目に見えるものには縋って(すがって)はならない。

あなた方の心の中に神殿を築きなさい。そしてあたな方が築いた

神殿の中に私は住まう。T-72神に祈りましょう…オブイェークト 。

同志スターリン万歳!

敵は全員シベリア送りだ!

ウラ~~~~~~~~~~~~~~~~!!」


その瞬間、神殿中央にある台座が光り輝き、その光の中から、

巨大かつ優美な大型戦車…T-72ネ申の姿が現れた。


「よし、T-72神の復活に成功したわ。ユキ~ネ姉様、村に帰るわよ」

そうして村に帰った私達は、早速定員4名のT-72神の追加乗員として、

男のゴブリン、助さんと角さんを指名し、

戦闘準備と射撃訓練を行った。


「よし、準備は万端!人間どもめ、いつでも来やがれです!」

私は右手の中指を虚空に突き上げていた。


数日後、千人以上はいるであろう、

武装した冒険者の大軍がゴブリンの村に押し寄せてくるとの報告が入った。

どうやら勇者は冒険者の中央後方で指揮を取っているらしい。

200匹程しかいないこのゴブリン村を攻撃するには、オーバーキルも良い所だ。

ゴブリン全員を凜辱し、皆殺しにして魔核を換金するつもりに違いない。

戦いを決意した私とユキ~ネは、

ゴブリンの巫女としてT-72神に最後の祈りを捧げる。


「T-72神は言われた。我々にかたどり、我々に似せて、戦車を造ろう。

そして海の船、空の戦闘機、戦車、自走砲、地を這う歩兵すべてを支配させよう。


神はご自身にかたどってT-72を創造された。

神にかたどって創造された。

T-72とチハタンを創造された。

神は彼等を祝福して言われた。


戦え!アメリカ製M1エイブラムスを従わせよ。

海の船、空の戦闘機、地を這う歩兵のすべてを支配するのだ!」


祈りを終えた私達は、助さんと角さんを加えた4人で、

T-72神に搭乗する。「戦車、前へ!」

私、戦車長アマ~ネの号令で、T-72神のディーゼルエンジンは

轟音をたてて始動、冒険者どもの集団に向けて前進する。


戦車が森の前の開けた草原まで進出すると、

遠目に冒険者の集団が見えた。報告の通りかなりの数だ。

勇者を倒す為には、まず前衛にいる冒険者どもを排除しなくてはならない。

「目標、敵、前方の冒険者集団。距離1,500メートル、

弾種榴弾。主砲、発射用意!」

私の指示で乗員がきびきびと動き始める。

「榴弾、装填良し!」「装填良し!」

確認の復唱が心地よい。

「照準!」「照準良し。主砲、発射準備完了!」

それを聞いた私は叫んだ!

「テ~~~~~!」

その瞬間、ドン!と戦車が振動する。

T-72神の125mm滑空砲が発射されたのだ!

125mm榴弾は狙い違わず冒険者集団の先頭中央付近に着弾し、

激しく炸裂すると同時に大きな黒煙を上げた。

数十人の冒険者が宙に舞う姿が戦車長用スコープから遠望出来る。

「ふっふっふ、思い知ったか冒険者ども!積年の恨み今こそ晴らしてくれよう!」

私は思わず笑みを漏らしながら、次なる指示を下す。


「次弾、敵冒険者集団の左舷側より右舷側に向け斉射!薙ぎ払え!」

私の指示を聞いた副長のユキ~ネが詳細な指示を出す。

「了解!敵冒険者集団まで距離1,300メートル、

主砲、弾種榴弾。左舷側より右舷側へ連続斉射!」

「装填よし!」「照準よし!」

「撃ち方始め!」

「テ~~~~~~~!」

車内で号令が飛び交うと同時に、T-72神の125mm滑空砲弾が

数秒おきに連続して発射される。

ドン!ドン!という主砲発射音とグワ~ンという着弾音が

連続して鳴り響く。その度に数十人の冒険者が宙に舞った。


「いったい何なのだ、これは!」

勇者、高杉晋作は目の前の光景が信じられなかった。

今回の目的は魔王城の攻略。

その前哨戦のゴブリン村の討伐など、鎧袖一触、

赤子の手をひねる様なもののはずだった。

それが何だ、見た事もない鉄で出来た大きな馬車の様なものが現れたかと思うと、

その馬車は真龍のものかと思える恐るべき火の矢を吹き出し、

冒険者達を次々と屠った。


「これはいかん、魔法師たち、遠距離魔法攻撃だ!」

このままではあの鉄の馬車に到達する前に、冒険者部隊が壊滅しかねない。

高杉の指示で魔法隊が一斉に遠距離攻撃を始める。

しかし魔法がいくら命中しても、敵は一向にひるむ様子がない。

まったく効果が出ていない様である。

しかもジリジリとこちらに向かって距離を詰めて来る。

「くっ、あの化け物、魔法は効かないというのか?」

高杉は暫く考えると続いて指示を出す。

「損害の大きい徒歩の冒険者部隊を下がらせよ、

スピードの出る騎兵隊で包囲攻撃するのだ!」

「応!」高杉の指示で貴族を中心に編成された騎兵隊が突撃を開始した。

高杉はその様子を見守る事にした。弓隊では距離が遠すぎる。

敵の射程内での攻撃は自殺行為だ…。

「いったい何なのだあれは…」高杉は臍を噛んだ。


「ふっふ~ん。T-72神の分厚い傾斜複合装甲に魔法なんか効く訳ないでしょ?

圧延鋼板換算で410mm厚の防御力。この世界においてはまさに無敵よ!」


人間どもはさっきから魔法攻撃を仕掛けてきている。

無論、まったく効果はない。

私は思わずほくそ笑んだ。

「どうやら敵は騎兵攻撃をするつもりの様ね」

戦車長用のスコープを覗きながら私は言った。

「動きの速い騎兵だと、主砲でダメージを与えるのは困難かもしれません」

ユキ~ネの声に私は答える。

「その為の機銃があるじゃない!」

T-72神には車体前面に口径12.7mmの重機関銃、

砲塔上部に旋回式の7.62mm機銃が装備されている。

両方とも基本的に装甲車両相手の重機関銃であり、

一発でも当たれば人間は即ミンチになる。


「角さん!前部12.7mm銃で前面の敵騎兵を掃射しなさい。

私は戦車砲の周囲の敵を掃射するわ!」

私は戦車砲上部のハッチを開けると上半身を乗り出し、7.62mm銃を構えた。

敵騎兵は一番近い者で200メートルくらいまで近づいてきている。

旋回包囲攻撃をするつもりらしい。

そんな攻撃をされてもこのT-72神はびくともしないが、

そのまま進まれて村を攻撃されるわけにはいかない。

騎兵はここで全て叩き潰す。

私は機銃の引き金を引いた。

タンタンタンタンタン………………

軽快な発射音を響かせて機銃弾が次々と撃ち出される。

「ヒャッハー!!汚物は全て消毒よ!」


こうして勇者高杉が命じた騎兵突撃は頓挫し、騎兵隊は壊滅した。

それを見た高杉は言った。「こうなったら俺が出る!」

本来なら対魔王用にとっておくはずだった、聖剣 龍王斬鉄剣による

必殺技、【神技 一刀両断】を使うしかない。

「各隊、俺を援護しろ。魔法師、防御魔法を俺に最大付与だ!」

高杉はそう言うと、聖馬、ダンシングクィ~ンに跨り突撃する。


「敵勇者ラシキモノ、騎乗して一直線に突っ込んできます!」

助さんより報告がはいる。

角さんが重機関銃で掃射しているが、命中しても弾かれている様だ。

【12.7mmの重機関銃弾を弾くなんて、さすがは勇者。

これは最大級の特殊防御魔法を使っているわね。

ふっふ~ん、でも、これならどうかしら?】

そう思った私は、ユキ~ネ姉様に言った。

「目標、前方突進中の敵勇者。主砲発射用意、弾種APFSDS弾!」

「了解!目標、前方敵勇者。距離600メートル、敵速27ノット、

弾種APFSDS、赤外線照準、照射開始!」ユキ~ネが詳細な指示を出す。

「装填よし!」「照準よし!」

「テ~~~~~!」

ドン!強い振動と共にAPFSDS弾が発射される。

(※APFSDS弾=命中すると高温高圧のガスを噴出し、

戦車の装甲を溶解させる特殊な砲弾)

次の瞬間、APFSDS弾が勇者に命中したかと思うと、

勇者の姿がピカッと光った。

そしてそれがその勇者を見た最後になった。

彼は跡形もなく蒸発したのだ。


勇者が蒸発したのを目の当たりにした人間どもは総崩れとなり、

算を乱して我先に逃げてゆく。

「ヒャッハー!!汚物は全て消毒よ!貴様ら全員シベリア送りだ!

ウラ~~~~~~~~!」

その後の我がT-72神による神追撃は、

人間どもを恐怖のどん底に陥れたのだった…。


戦いは終わった。私アマ~ネは勝利の余韻にひたりつつ、

ユキ~ネと固く握手をする。

「ふっふ~ん!正義は必ず勝つ!これでゴブリン村の平和は保たれた!

しかし、狡賢い人間どもは、またその内ゴブリンの村を攻めに来るであろう。

しかしその時は降りかかる火の粉を払うまでじゃ。

では助さん、角さん、帰るとするかの…」


めでたし!めでたし!



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