最初は、ファンタジー版『おれがあいつで、あいつがおれで』みたいな話かと思っていたのですが……。
勇者の体に乗り移ってしまった魔王。自らの体と魔力を取り戻すために魔族の総本部へ向かう……?
というストーリーなんですが、設定や伏線が細かくて、読みながら様々なポイントで「おっ」とさせてくれるので常に新鮮な、ワクワクした気持ちで読み進めることができます。
魔王としての矜持、己を取り戻す使命、そこに混ざる仲間への信頼や恋心なんかも混ざり……?
終始徹底して「オレサマ」な魔王テネブリスがとにかくかっこよくて、「人の上に立つにはこれくらいの器が必要なんだな」と感心してしまいました。多分ですが口調を除けば理想の上司。配下が慕うのも分かる気がします。
登場するキャラクターも色濃いです。なかなかの数出てくるのですが、どれもしっかりと特徴があって、設定を細かく練ったんだろうなぁ、と作者の思い入れを感じました。
理想のボスに出会いたいあなた。
テネブリス様に惚れ込んでみては?
【物語は】
勇者と魔王の一騎打ちにより始まる。
本編に入ると、戦いの結果が徐々に解明されていく。そして、主人公は驚愕する、自分の置かれている状況に。名前を告げて周りに信じて貰えず、記憶喪失と勘違いされてしまう。しかしそれは、彼にとって吉となるのだった。
【登場人物の魅力】
主人公だけがいつも通りの振る舞いをする。それに対し、周りは勘違い状態で進んでゆくのだが、そのすれ違い方が絶妙。
主人公の考えていることは周りにはわからないので、勝手に彼らが誤解し、主人公に振り回されていく。だが、彼にはそんなつもりは毛頭ない。
特に三話の辺りでは、おかしくて腹筋が崩壊しそうになった。
しかしこの後、ターニングポイントが訪れるのである。
主人公が我が道をひた歩く性格なのが面白く、物語にマッチしている。語が進むと、勇者ついてのプライベート部分が明かされていく。勇者に魂が入ってしまった主人公も驚くが、読者もびっくりな内容である。
ここで思うのは主人公が元魔王なだけあって、頭の回転が速いということ。しかし自分らしく振舞うと、周りの者たちから厨二病と勘違いされる。それはそれで面白いと感じた。
【物語の魅力】
物語の流れと展開が上手くできている。
戦いから一転、その結果を主人公は現状で理解する。そこにあったのは信じがたい現実。主人公は戸惑いながらも、自分を取り戻すため模索していく物語なのだ。
そして、その一歩は幸運にも直ぐに訪れる。
ここの展開も面白い。主人公と周りのズレが笑いに繋がる物語だ。しかも主人公を含め、周りの人物も皆が真面目である。真面目なのに、笑ってしまう。いや、真面目だから面白いということなのか。
魔力を失ってしまった主人公。見た目は勇者なので、勇者として戦うことしかできない。周りは主人公が、魔王であることを全く信じていないのに、”あるもの”はどうやら勇者でないことを知っているかのようだ。
そのせいで、戦闘中にピンチに陥るが、ある思い付きでピンチをラッキーに変える。このことが、更なる幸運を呼ぶ。もし、ここで思い付きを実行していなかったなら、自身の変化にも気づかない可能性があっただろう。
ここまで物語が必然性で展開されているのが、凄いと感じた。
【物語のみどころ】
魔法の詠唱が凝っているところも見どころの一つ。
冒頭ではチラッとしか出てこない、主人公の仲間の三人は個性的で、それぞれがツッコみ役も担っているのが面白い。誰一人として、主人公が魔王であることを信じない。それが魔族も同じであるという。まるで世界に独りぼっちのような状況だが、果たしてどうなっていくのだろうか?
あらすじには”いずれ世界を救う事になる”とある。
知らず知らずのうちに世界を救ったその後に、魔王としての居場所はあるのだろうか?いろいろと想像や心配をしてしまう物語である。それは、主人公に愛着の沸きやすい物語でもあるということだ。
あなたも是非、お手に取られてみませんか?
主人公は力を取り戻した後、どんな選択をするのだろうか。
その目で確かめてみてくださいね。おススメです。
最初の10話程度まで、これはコメディなのか?と思わせる部分が多々あり、仲間たちのやり取りが大真面目過ぎて、それがなまじコミカルに見えるため、勇者の皮をかぶった魔王と愉快な仲間たち、という進行するのかなと思わせておいて、実は重厚ファンタジー。
国と勇者、魔物と勇者、勇者と勇者…という感じで、勇者に対する色々な出来事が、中身が魔王という事により、良い意味でのアンバランスさ、かつ、意外性のあるシーンを構築しております。先が読めない点、どのように進行しているかも、どんどん想像がつかなくなっていくという。
仲間たちもただのテンプレキャラかと思わせておいて、深い人間性と過去をもっていたり、かなり厚みあり。
また魔王も、勇者とのギャップのせいで、最初はコミカルにさえ見えたその凄惨さが、魔王らしさを帯びてきて、迫力を増していきます。
通常は魔王VS勇者というのが王道路線ですが、魔王+勇者VS〇〇、となっており、その相手は人間であり、魔物であり…?一番世界を、ダメにしているのは?という所まで考えさせられていく。本物のルクルースの人間性や性格は、周囲の反応からしか推し量れませんが、中身がテネブリスでなければ解決できなかった事もあるようにも思え、彼が勇者の中にある意味すら考えてしまいます。
彼らの冒険に、どのような結末が待つのか。一味違う、勇者一行の物語をぜひご堪能ください。
上記に書きましたが、文字通り、【爆誕】が相応しい。
『世間を騒がせるような衝撃を伴って生まれる』
正に、それに相応しい物語と言って過言ではない。これぞ、ダークファンタジーの金字塔と言える作品。転生&転移物に飽きた方、この作者の物語を読むべき、と断言できる。
魔王の魂が、本来敵対する憎むべき勇者の器に移った発想だけでも逸脱なのに、魔王が失った力を取り戻すべく、勇者の肉体で、かつての支配していた魔族を私利私欲で屠っている事が、結果として人間側に益をもたらしている、と云う展開と展望は見事としか言えない。
話が進むに連れて明かされるであろう『魂の転移』を含めて、全く新しい勇者伝記を読みたい方は必読書だと思います、この作品は。
今後に益々の期待が持てる物語です‼
魔王テネブリスと勇者ルクルースの
一騎討ちから始まる物語。彼らが迎えた運命は──?
最初からクライマックスかと思われる激しい戦い。死闘の末に目覚めた魔王、テネブリスは、自身の意識が勇者ルクルースの体に入っていることに気付く。なんと、勇者と魔王は中身が入れ替わっていたのだ!!
体が入れ替わる物語である場合、通常は体の持ち主のフリをして行動したり、体が入れ替わっていることを仲間に伝える展開が多いと思いますが、魔王テネブリス様は勇者の体でありながら「私は魔王だ 」と自分を偽ることがありません。
前半は、突然「私は魔王だ」と言い出した勇者を「チュウニビョウ」にかかったのかと勘違いする勇者一行とのコミカルなやり取りが続き、ダークな世界観の中でもクスッと笑える面白さがあります。
後半に行くにつれて物語は重厚さを増していき、展開もシリアスになっていきます。
ネタバレになるので伏せますが、自身の魔力の取り戻し方を知った彼は、やがてひとつの目的を定めます。
前半は少しコメディ寄り、でも中盤辺りから爆発的に面白くなっていきますので、ぜひ最後まで読んでほしい一作です。
また、注目すべきは、主人公である魔王テネブリスのかっこよさ。勇者と中身が入れ替わろうが、自分は魔王だ!と、勇者一行に迎合することなく我が道をいきます。
お互いの勘違いにより、時たま笑えるやり取りがある中でも、魔王としての彼の恐ろしさ、かっこよさが全く損なわれない所に、作者の力量を感じます。
勇者と魔王。昔からある対立関係のイメージを逆手にとった、全く新しい異世界ファンタジー。
伏線回収も見事で読んで絶対に損はしない物語です。ぜひ、この雄々しく魅力的でかっこいい魔王様が生きている世界にどっぷり浸ってください。