第2旗が立ちました。
男は女の手を固く握り、街の外へと続く一本道を走り続けていた。
後ろからは物々しい雰囲気の二つの集団が追いかけて来ていた。
「もう駄目よ、追いつかれる!」
「クソッ!あと少しなのに!」
男と女、手を繋いで石の街道を走る。
この一本道を抜ければ両家はもう手を出せない。
二つの家の
二人の仲を引き裂くものは無く、幸せを掴める。
「あと少し……あと少しなんだ!」
誰が漏らしたかは解らないが、駆け落ち計画がバレて俺達は逃げていた。
ここで連れ戻されたらもう俺達には自由は無い。
永遠に籠の鳥……いや、虜囚か…………。
互いに互いを憎悪し、傷付け合い、不毛な応酬を永遠繰り返す一生なんて一体何の意味が在る?
もう、俺達はこの檻から出て行く!
自分達で羽ばたくんだ!
「待てコラァ!」「坊ちゃん、早まんないで下せェ!」「アバズレが!坊っちゃんを誑かしやがって…!」「お嬢、考え直して下せェ。」「この野郎、ぶっ殺してやる!」
後ろから父の部下達と、愛しい貴方の家の人達の声が近付いてくる。
こんな時に限って両家は仲良く私達を追い詰める。
何時もこんな風に仲良く出来れば私達は…いえ、皆が苦しまずに済んだというのに。
「あっ!」
急に足がもつれて地面に崩れ落ちてしまった。
「大丈夫か⁉」
肩に手を添えて私を心配してくれる愛しい貴方。
あぁ、でももうお仕舞い。
「足を挫いてしまったみたい。
私は良いから、先に行って!
大丈夫。直ぐに追い付きます。」
愛しい貴方の手を取って逃げる様に促す。
でも、そんな優しい嘘を貴方は許さないでくれる。
「俺達二人で逃げるんだ!
君を置いて逃げるなんて僕にはできない!さぁ、俺に!」
そう言って私を背負い、駆ける貴方。
嗚呼、でももう終わり。終わりなの。
後ろから来ていた追手がもうあんなに近くに居る。
もう…お仕舞いなの。
「走れ若人!
最期まで走り抜け!」
私の絶望を払い除けたのは一本道の先からやって来た一人の人だった。
「花屋のおじさん??」
愛しい貴方がその人を見てそう言った。
精悍で、心優しい顔付きの初老の殿方。
「彼方は?」
「君に渡す花を摘む時にアドバイスをくれた人さ。
おじさん!」
「よう坊っちゃん。駆け落ちとは思い切った事をしたな。」
朗らかに笑いながらこちらにゆっくりと歩んで来る。
「さぁ、若人二人、ここは俺に任せて先に行け。」
「花屋さん…何言って…?」
「少しばかり奴らの相手をしてやるからその隙に逃げろってことだ。」
俺達の後ろ、追手の方へとおじさんは歩んで行く。
「おじさん!」
「甘ったれるな!
男の人生は別れと覚悟だ!
走れ!そして勝ち取れ!」
一喝。そして、親指を突き上げた手を天へと掲げる。
「地獄で会おうぜベイビー。
いや、地獄は不味いか…。」
「おじさん……有り難うッ!」
俺は彼女を背負って走り出す。
後ろは振り返らない。
勝手の解らない花を贈るために相談に乗ってくれたおじさん。
自分の力で花を採ると我が儘を言った時に店を閉めてまで手伝ってくれたおじさん。
最後、背中を押して俺を男にしてくれたおじさん。
「有り難う!」
「お花屋さん!有り難う御座います!このご恩は一生忘れません!」
「おぅ、一生は良いから、良ければ結婚式くらいには呼んでくれ。
両手一杯の花束を持って、必ず行く。」
感謝の思いを胸に、二人は走り抜ける。
花屋と追手が対峙したのは二人が見えなくなった後だった。
死亡フラグ回避大図鑑 黒銘菓(クロメイカ/kuromeika) @kuromeika
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