異世界帰りの人、また異世界に戻る
え、勇者様が帰ってきた?
勇者様ってあの大魔王を倒した異世界人の? マジですか?
だって勇者様は財宝にも王座にも王女との結婚にも興味を示さず、とにかく元の世界に帰りたいって言ってた人ですよね? なんで戻ってきたし?
へー、こちらがその出戻り勇者様です、って、とんでもねぇテンションでとんでもねぇ人連れてきましたねあなた!!
あ、あ、あのぉ~勇者様。どうしてこの世界に戻ってきちゃったんですか?
大魔王を倒して、女神との約束通りこの世界に来たときの姿と所持品を返してもらって、やっと元の世界に帰った、と。ふむふむ。
しかしこの世界と元の世界では時間の流れが違ったんですか。ほうほう。それは興味深い話ですね。
あ、申し遅れましたが私は王立魔法院の第一事業部課長ヴァイン・バインです。あはは、おっぱいバインバインだからこの名前なんじゃないですからね? とりあえずそこで私のおっぱいについて詳細に説明を始めている若いのが助手のチョロビッチです。お見知りおきはしなくていいんで、一発ぶん殴って黙らせておいてください。
で、時間の流れが違うとは?
ふむふむ。こちらの世界で過ごした一日があちらの世界で一ヶ月に相当したのですか。それはそれは。
あれ。勇者様がこちらで過ごした時間って、転生なされて大魔王を討伐するまでに28年でしたっけ。
計算は得意ではなくて……。勇者様が開発して世に広めてくださった「ソロヴァン」を使いますね。
えーと、ねがいましては……勇者様がこの世界で過ごした日数28年かける、えーと、この世界は1年500日ですから、えーと、14000日ってことですね。
で、それを勇者様のいた世界の時間に換算すると……420000日……840年も過ぎてたってことですか!?
え、あちらの世界では1年365日? あら、それは計算がややこしい。えーと。420000日を365日で割ると……1150年? わお。
ふむふむ、親兄弟も知り合いもその子孫も世代交代しまくっていて知り合いが皆無。さらに勇者様が生きていた時代とは国名も違い、近隣国家もまったく違う国名になっていた挙げ句に、言葉もだいぶ変わっていたのですか。そりゃ千年も経てば同じ国だったとしてもそうなるかもですねぇ。
紙幣も様変わりしていて持っていたものは使えず。たとえ紙幣があったとしても技術進歩についていけなくて買い物一つできない不審者っぷり。
伝書鳩しか知らない戦国時代の人間にすまほやぶいあーるが理解できるか、ですか。よくわかりませんが勇者様は戻った世界の文化文明を理解できなかったのですね?
こら、こちらの世界でもそんなに頭がよろしい方ではなかったとか言うんじゃないですよチョロビッチ! こちらは勇者様ですよ! 例えこの勇者様が村娘から王女まで手当たり次第に女を孕ませまくって認知を迫られたから元の世界に逃げたんだと噂されていたとしても、ここは黙ってお話を聞いておくべきなのです!
そしてケイサツカンとかいう輩に捕まって調べられても、身につけていた身分証明書は千年前の骨董品だし戸籍がないので身分が保証されもしなかった、と。
で、数ヶ月抑留されていたら歴史学者が現れて、カタコトでも通じる言葉で会話が成立して、本物の古代人だと鑑定されたと。
あらぁ、うふふ。古代人ですかぁ。
私も千年も前も古い言葉しか話せない者が現れたら古代人だと言っちゃうかもしれませんねぇ。
それからどうしたんです?
こんな知らない世界にはいられないってことで、大きな鉄馬車に轢き殺されてこちらの世界に戻ろうとしたけれど、こちらの世界で身につけたスキルや強化肉体がそのまま活かされていたので、鉄馬車のほうが壊れた、と。
あらぁ……。そりゃ大陸を消滅させる大魔王にも打ち勝った勇者様の力がそのままなら鉄馬車なんて指先一つでダウンですよねぇ。
あちらの世界の人々は驚いたのでは? そうでしょうねぇ。きっとあちらの世界でも勇者様のように空を飛ぶことはできないでしょうし? 原子分解されたら一巻の終わりでしょうからねぇ……。断っておきますがこちらの世界すでも勇者様のようにオートで蘇ったりしませんからね。
そして連日様々なメディアで「古代人の恐るべき力。人類は昔はスーパーマンだった!?」とか「彼が所持していた千年前の骨董品の品質は国宝級」とかで、パンツまで剥がされてチンゲ一本にも高値がつく始末……いいではないですか。人類憧れの的。こちらの世界にいたときと変わらない英雄っぷりですよ?
え、最終的には勇者の遺伝子を巡って隣国と戦争が勃発? もはや勇者様の知らない国同士が勇者様を巡って戦ったのですか。
それで人類の半数以上が死滅……なんと罪深い。
それに耐えられなくなった勇者様は全魔力を使って自ら異世界転移してきた、と。それはご苦労さまです。
ところで魔法院の外で「認知しろ」ってプラカードを持った女性がひしめいてますけど、どうするおつもりで?
え、人里離れた山奥で暮らす? どこの世界に行っても世捨て人なんですねぇ。
あぁ、そうそう。そういえば西の大陸で邪神が蘇ったとかで、もしかしたら勇者様の力を必要としているかもしれませんよ?
え、私も同行? チョロビッチも? ご冗談を! ちょ、まっ、強制転移魔法陣とか出さないで! マジで連れて行くつもりですか!?
(了)
勢いだけで短編書きました。 紅蓮士 @arahawi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。勢いだけで短編書きました。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます