左遷をきっかけに酒に溺れた元英雄の再生の物語。
堅めのハイファンタジーど真ん中の世界観でありつつ、地の文や台詞の端々に垣間見えるユーモアが面白く、読みやすいです。
物語に必要な部分以外をばっさりと排除した描写が、むしろ世界観に奥行を感じさせます。
弱くて人間味のある、けれど肝心なところでは強い。そんな主人公が復活していくさまはかっこいいの一言です。来るぞ来るぞ…と先の展開を思わせて、そうなったときの興奮は言葉にできません。
これだけ練られた設定でありながら、長くは続けずさらっと文庫本一冊ほどの分量でまとめられているので、続編が読みたい!と思いつつもこの読後感を保ちたくもあり、悩ましいところです。
可愛い嫁を貰ったがアル中で勃起不全なの――。
はたして主人公は、男としての尊厳を取り戻し、嫁と素敵な家庭を築くことができるのか!!
という解釈もできますが、主題はそっちじゃない。
世間の悪意と安穏な生活の中で、自分を見失ってしまった男が、嫁を貰ったのを期に自分を見つめ直し立ち直っていく、再生の物語です。
そこに骨太なファンタジーと、エキサイティングな戦闘描写が加わって、なんとも爽快な英雄譚と仕上がっております。
東征安鎮将軍ジラルド・ルフェ。
救国の英雄にして齢25歳の男盛り――。
しかしながら、辺境の砦に左遷されたショックにより、かつての英雄はすっかりと飲んだくれと化していた。
そんな彼の元に嫁いできたユリーシャは、夫を甲斐甲斐しく支えて立ち直らせようと、あれよこれよと甲斐甲斐しく世話をします。
彼女に支えられ、また養子として引き取ったミーシャと触れ合う内に、徐々に身を持ち直していくジラルド。
しかし彼らが暮らす村に、隣国からの侵略手が迫っていた。
迫りくる大軍を前にかつての英雄ジラルドは、愛する者たちを守るために再び立ち上がるのだった。
とまぁ、こんな壮大なストーリーを、主人公格のジラルドの一人称で濃厚に語られれば、もうたまらないってもんです。
みじめったらしくも、それでもその世界を懸命に生きている、男の生きざまというものがこれでもかと伝わってきます。
そうだ、やれ、ジラルド。
頑張れ、と、思わず応援したくなる快作!!
もはや読んでない人はいないのではないか、というくらいのカクヨムのヒット作ではありますが、あえてここでオススメいたします。
奇抜な設定やぶっ飛んだ世界観がなくとも、確かな実力に裏打ちされたストーリーや描写は圧巻の一言でした。
かつての英雄も今では飲んだくれ、そんなジラルドの前に現れたユリーシャ。『妻』となった彼女や、村人達との交流に心温まり、と思いきや後半からの怒涛の展開に目が離せなくなり……。と、各キャラクター性だけでなく起承転結も高い水準で構築されており、この作品を構成する全ての要素が高いレベルでまとまっていました。
個人的には特にジラルドの決戦シーンが好きです。ファンタジー作品でありながら、そこだけ軍紀物というか壮絶な大河作品のように感じ、ジラルドの必死の形相が目に浮かぶようでした。
小説を書くことも、あるいは武道などを極めようとする時も、まずは『基本』を高めることこそが重要なんだと認識させて貰える作品でした。
綺麗にまとまって読了感も爽やかなので、未読の方には是非とも一度は読んで頂きたい作品でした。