第10話

 朝の病院。看護師と医師が慌ただしく廊下を入ったり来たりする中、とある病室の前にイサキ・パディランドの姿があった。


「おはようジュージ、ハーブさんはまだよくならないの?」


「ええ…ハーブ神父にはイサキお嬢様が心配しているとお伝えしておきます」


「そう…でもジュージがちゃんと介抱してあげるのよ?」


「もちろんです」


「うん。それじゃあ、学校行ってくるね!」


 病室の前で聞こえる二人の会話にベッドに横たわるハーブ神父は舌打ちを一つ加えた。


「…クソッタレ…なんでワイが入院しとるのに当のトカゲはピンピンしとんねん…」


「ふふ…いい気味ですわハーブ神父」


 同じくベッドに横たわるシスター・チヒロ。こちらは火傷もあったらしく全身包帯まみれだった。


「いや…包帯でぐるぐる巻きのお前が言うなや…ぶえっくしょんあ痛っだアアア!?」


お大事にブレス・ユー


 ハーブ神父の寝転がる病室でジュージは果物ナイフでリンゴの皮をさりさりと取りながらしれっと言った。


「ざっけんな!?お前の折ったアバラやろ!?殺すで!?」


「…あなたが無暗に喧嘩を売ってくるからでしょうが」


「クソッタレ!お前まだ根に持っとるやろ!性格悪いと皆に嫌われるんやで!陰湿トカゲ!バーカバーカ!」


「口が悪くても皆に嫌われると思いますが」


「誰が口の悪い破戒僧じゃボケカス!?やっぱお前殺すあ痛っだアアアアア!?」


「なんか二人とも仲良いっすね…」


『誰がや!?/誰がですか!?』


 キツネの一言への二人の反応にウィステリオは、ははと誤魔化すように笑って言った。


「だって本気で殺し合いしてた二人がこんな風に顔を突き合わせてること自体が奇跡ですよ…それにしてもよくサニーフィールド神父も入信を了承しましたね?」


 傍らに座って本を読んでいたサニーフィールド神父は本を閉じると穏やかな笑みを浮かべていった。


「はは、まあうちも腕の立つ人間は大歓迎だからね。イサキくんを守りたいという信念が変わらなければ今後しばらくは利害相反することもないだろうし」


 チッとハーブ神父は舌打ちをして言った。


「ワイは仕事で殺人トカゲと組まされるなんて真っ平御免やで」


「まだ不貞腐れてるのかハーブ、君らしくもない」


「まあ本人がそう言うのであれば私も願い下げ致したく」


「はっ!トカゲが小さい口でよういいよるわ!イサキお嬢に後でチクッたるから覚悟せいや!」


 と、そこでハーブはようやく病室の端でひたすらに目を輝かせながらペンを走らせるコトリの存在にハッと気が付いた。


「…ちょお待て…お嬢なにしとるんや」


「あ、大丈夫です。そういうのいいですから。どうぞ続けてください」


「…あ?」


「推しカップルの関係性は二人だけの世界…私の存在は不要なんです。私は壁。私は植木。わかりますよね?」


「…いやなんもわからん…」


 コトリはきっぱりと言い切ってから再び目を輝かせながら手帳にペンを走らせた。


「かつて憎み合った二人同士のクソデカ感情…ツンとデレの応酬…!なんて美味しいのかしら…無限にごはんがおかわりが出来るわ?!どうしましょうウィステリオ!」


「どうしましょうって…」


 一瞬コトリの手帳の中身が見えたウィステリオは青ざめた。


「おい…ちょお待てや?…なんや…?お前一体何をみたんやウィステリオ?」


「な、なななななななにも見てないですよ?こ、コトリ!早くそれしまって!お願いだから!?」


「えー!?なんで殿方たちはこの素晴らしさが分からないのかしら…」


「おいトカゲ!?そのお嬢止めろや!?なんか嫌な予感がするんや…!!」


「で、ですが…イサキお嬢様のご学友に手出しをするわけには…」


「誰が息の音を止めろゆうた!?やっぱあぶないわお前!?」


 と、まあすったもんだと色々とあった訳だけれど…しばらくは平和に過ごせそうです。

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ガンズ・オン・グレイブ 藤原埼玉 @saitamafujiwara

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