この作品を、美しい、と思う理由は、それで充分だろう

 簡素で、無機質、冷たく、固い、そんな近未来、退廃したSF的世界——ディストピア——は、容易く読み取れる。

 思想、行動、そして愛さえも制限された中、淡々と流れる夫婦の時間は、感情に乏しく平坦ではあり、世界と生活、大小を対比しつつも包括しているようだ。
 服務、という言葉ひとつにも、この世界観が閉じ込められているように思える。

 タイトルでもある『新しい妻』は、きっと間違えず、正確で、完璧であろうとするのだろう。

 しかし、料理のレシピにアレンジを加えるような。
 正しくもなく、曖昧で、何者でもない存在感は、人が持つ温かみの残滓だ。
 人工物ではない、生の温度、それを集約するのが、最後、呟かれた彼女の名に違いない。
 美しい、と思う理由は、それで充分だろう。