バーミリオンキャタピラー
高橋末期
バーミリオンキャタピラー
数社の外資系企業が入っている古いオフィスビル、あまり日の当たらない薄暗いホールの一角に、不思議な絵が飾ってあった。このビルのホールで受付事務の仕事をしているわたしは、嫌でも一日中、その絵を眺める事になるのだが、その絵は一面、やや黄を帯びた真っ赤な色に塗られた抽象画なのであった。
もちろんマーク・ロスコという、抽象画家の事は知っていて、この絵も見るのではなく、その絵を見て、何を感じて、その色によって己自身が何を見るのかという、強いて言うなら、人間の内なる深い意識の方に訴えかけてくる、一種の魔術的な絵画である事は承知している。
「ほらあの人……また見にきてる」
同僚が指をさす方向に、休憩時間と思しき清掃員の恰好をした老人が、足元に清掃用具を置いて、美術館にも置いてあるような平たいソファに腰かけ、三十分ぐらいその絵をジッと眺めていた。神出鬼没に現れては、長時間あの絵を眺めているもんだから、よほどあの絵を気に入っているのだろうか。
「美術ばあさん」と同僚内で、そういうあだ名で呼ばれたが。以前、このビルの所有者である社長と、軽い会釈をしていたのを見たことがあり、ますますあの老人の素性が謎に包まれている。
十月末の深夜。受付カウンターに電話を忘れた事に気が付いたわたしは、急いで戻ってみたら、「ヒッ」と小さな悲鳴をあげてしまった。
外の街灯の明かりと、非常口の誘導灯だけの薄暗いホールに、あの「美術ばあさん」が、昼間と同じように、いつも通りにジッとあの絵を眺めていたのだ。
「ああ……脅かせてごめんね」
見た目のわりに、随分と声が若いような気がした。
「一応、このビルの管理者にはちゃんと許可は貰っているから、安心して。そんなことより、知り合いからハニーブッシュの新茶を頂いてね、よかったら一緒にいかがかしら」
ほのかに、蜂蜜のような甘い香りが漂ってきて、急に食欲がわいてきた。
「それに焼きたてのスコーンもあるわよ」
夕飯がまだだったわたしには、それを断る理由などは無かった。
「いつも、ここでこの絵を見ていますけど――」
「聞きたい?」
お茶をすすりながら、わたしがその質問をするのが分かっていたかのように、老人は身を乗り出して、薄暗い中でも分かるように蒼い瞳をキラキラさせていた。その瞳を見つめながら、わたしは思わず、首をゆっくりと縦に振った。
「実はね……この絵を描いたのは……わたしなの」
夕焼けの日差しの朱が妙に強い日だった。小学三年生の頃、放課後の掃除当番中、いつまでもゴミ出しに行った双子の姉が帰ってこないと思っていたら、箒を片手に持ちながら、三階の窓の外に姉が浮いていた。
「藍もおいでよ!」
姉……秦菜は手を伸ばして、一緒に浮こうよと誘うが、わたしは怖くて手を伸ばせなかった。
「ごめんお姉ちゃん」
わたしは、浮くことを拒んだ姉の顔を忘れない。魔法使いになる事を拒んだわたしを。それ以来、姉がわたしに対する態度が一変したのだ。
あの時、あの場所で、わたしが手を伸ばしていたら、姉とわたしは今でも、仲良くしていたのだろうかと、あの強い夕焼けの朱と一緒に、今でも夢に見る。
「ごめんお姉ちゃん」
姉の身体の一部を、小さなノミとハンマーを使って削り取る。それをステンレス製の乳鉢に放り込み、細かく砕き、次にめのうの乳鉢へそれを移して、更に細かく磨り潰していく。粉末状になったら、水で三倍に薄めた
「彼岸花の球根には、リコリンをはじめとする二十種類以上の有毒アルカロイドを持っていて、食べたら激しい下痢や嘔吐、呼吸困難に陥る。美しい花—―赤には、毒がある。お姉ちゃんと一緒だよね」
わたしが振り向くと、アトリエの片隅に、巨大な岩塊が転がっていた。ポンペイ遺跡で火山灰に覆われた遺体のように、体育座りのまま、白と赤の斑点を持つ彫像のような物体……それはわたしの姉だったものだ。
「おまえ臭いんだよ! いっつもゲロばっか吐きやがって!」
姉がわたしのことを名前で呼ばなくなったのはいつからだろうか、中学校に上がる頃まで、姉はわたしの食べる弁当や夕飯に、毒を持つ花や草を混ぜてわたしを実験台にしていた。「魔法使い」の家系であるわたしの家には、毒の知識についての本が、そこら中に積まれていて、姉はわたしに、その効能をよく試していた。
「お姉ちゃん……止めて」
「ふん。おまえも出来損ないの魔法使いなら、解毒の作用ぐらい調べてみなさい」
姉のお気に入りは、彼岸花の毒を食べ物に混ぜる事で、小学校高学年の頃は、吐くか、お腹が痛いか、意識を失うかの思い出しかない。「ゲロ女」と、よく同級生に言われからかわれ、イジメられていた。
姉の言う通り、その手の毒に対する作用や知識はかなり強くなったが、ますますわたしの家系である「魔法使い」の血筋に対する不信感が強くなっていく。
「生きてるんですか?」
「ええ、僅かですが脳波があります」
姉の関係者と思しき魔法使いの人物が、硫黄の臭いを纏った瞬間移動魔法を駆使して、姉と共にわたしのアトリエに突然と現れた。
「彼女は強い魔法を使った代わりに、自らを鉱物化しました。いえ……なってしまったと言うべきですかね」
「……どうして……ここまで」
「代償行為ですよ。ご存じでしょ? 恐らく『向こう側』のモノに触れたのか、つまらない魔法使い同士の抗争に巻き込まれたんです」
「ああ……」
姉の事だから、思い当たる節はかなりあった。姉はわたしも含めて、人に恨まれる事が得意だったから。
「それじゃあ、確かに渡しましたからね」
さっきよりも、倍近い硫黄の香りを発しながら、姉を送り届けた魔法使いは、煙のように消えていなくなった。アトリエに籠った硫黄の臭いに我慢できなくなり、閉めっ放しだったガラス戸を換気の為にわたしは開け放つ。
姉同様、魔法使いという奴はいつも自分勝手な奴らだ。結局の所、魔法使いと呼ばれる奴らは、「魔法」が使えるからという理由で、選民思想が凝り固まった差別主義者の集まりに過ぎない。早い時期に親が亡くなり、親戚もいない、わたしの家族の事だから、順序的に「魔法使いの成り損ない」である妹のわたしへ、一方的に押し付けた形になったのであろう。
差し込んだ太陽の光が、姉だったモノを照らし、表面の母岩と共にキラキラと輝き続ける。その輝きを見ながら、わたしは大きな溜息を吐く。
中学校の頃、姉のイジメは苛烈を極めた。何かを隠されたり、刃物のようなもので危害を加えられるのは序の口で、一種の魔法のようなものを送られた時には本当に困った。その魔法というのも、わたしの正気を奪い、誰かを襲ったり、自害をしたりする禁忌に近い呪術のようなものであり、お昼の弁当に毒を盛られていた方が、まだ可愛いと感じるくらいだ。正気を失ったわたしが、人気のない山奥で首を吊ろうとしたり、防護マスク無しで、雲の上の高さから自由落下していた時は、さすがに自分の命の危険を感じた。
独学で、魔法の返し方を学び、実践したのも状況を更に悪化させた。魔法の基礎でもあるのだが、「呪い」というのはエントロピーの保存則同様、自然に消えたり、対処すれば綿菓子のように、溶けて無くなる訳でもない。「呪い」は、言霊のガスが滞留し続けるものである。
輪ゴムが「呪い」そのものと例えて、ぶつける時に、威力を大きくさせようと伸ばし続けていたら、その輪ゴムが切れて、自分に向かってくる感じだ。ある日を境に、その滞留させた「呪い」が、一気に姉へと反って行ったのだ。
病院のベッドで、包帯とチューブにグルグル巻きにされた姉が、恨めしく真っ赤な眼差しで、わたしの事を睨んでいたのを忘れられない。
そして、その眼を見ながら、わたしは魔法使いには絶対にならないと、心に誓うのであった。
「そう……この眼だ。この瞳」
姉だったものの、眼球のあった辺りに、微かな振動を感じた。もしかしたら、脳波がまだあるなら、この姉はまだ、わたしの事を見ているのかもしれない。そう思い、わたしは鉱物となった姉の構造について調べ始めた。
簡単な鑑別を行ったところ、姉はシンナバー……この国ではかつて、「
例の呪い返しの一件以来、わたしと姉は、母親によって引き離され、学校も別々のものへと転校された。魔法使いを志す姉は、その専門機関へ。わたしはというと、魔法使いの道は諦めて、画家を目指すようになった。一人で無から何かを産み出す事に関しては、魔法使いよりも大分マシな存在だからと思ったからだ。
高校生の時、姉と出会う機会もだいぶ減り、お正月ぐらいにしか顔を見せ合う事しかなくなっていた。むしろ、家族や親戚らにとっては、わたしたち姉妹が、別々の道を進学した事はむしろ都合が良かったのかもしれない。
「死ね」
それが高校生活で姉に言われた、唯一の言葉であった。
幸いなことに、わたしは画家を営み、姉の肉体が「辰砂」ならば、試さずにいられなかった。
よく安っぽいホラー映画には、自分の血液を使って、絵を描いたり文字を書いたりしているが、動物や人間の血液を顔料として使っても、茶色か黒ずむだけであり、あまり映えない。実際に、本気で人間の血で絵を描きたければ、血を粉末状にして、酸化鉄とアルカリなどを加えて、かの高名な錬金術師、ヨハン=コンラート・ディッペルが産み出したプルシアンブルーにさせる。動物の血液にはタンパク質から窒素を含んだ有機化合物、赤血球に由来する鉄分が含まれていて、これをアルカリと共に熱分解させると、黄血塩というものができる。これが、同時に混合された酸化鉄と反応し青くなるのだ。つまり、血液の顔料は、赤ではなく青色になるのである。
ある意味、辰砂へと相転移した姉の身体を使えば、血の青ではなく、肉体から得られる天然の赤色顔料を手に入れられるようなものであった。花々や果実、夕陽の空に、抽象的な光源、鮮血……わたしは次々と姉を削り、粉末にしながら、キャンバスを染めていく。
「ここに並んでいるものを全て頂こう」
長年、売れない画家を続けていたもんだから、本当にそんな台詞があるのものかと愕然とした。姉を砕いて塗ったものを用いた絵画は飛ぶように売れたのだ。わたしの画家としての力なのか、姉の辰砂が持つ魔的なものの魅力なのか、わたしにはよく分からなかった。
画廊やアートイベントで、わたしが描いた絵画は軒並み売れ続け、会社の待合室用の絵画を描いて欲しいというぐらいにまで、職業としての画家を名乗れる程のレベルまでになっていた。
大学の夏休みの事だ。姉がいないと事前に確認を取って、実家へ帰った日の夜。突然、強い金縛りに襲われた。脳がもたらす睡眠麻痺の金縛りではなく、物理的な金縛りだ。手足が、ダ・ヴィンチのウィトルウィウス的人体図のように、大の字になっていて、枕元に、血まみれの姉がわたしを見下ろしていた。
魔法だ。姉は寝ているわたしに魔法をかけて、このような無様な姿にさせていたのだ。魔法を返そうとしたが、身動きも、口を開くのもままならない、わたしにはどうしようもなくて、万事休すだと思っていた。
「見てよ藍、この姿……」
姉は血まみれの服を脱ぎだすと、本来、乳房がある右胸の場所に巨大な……巨大な赤い鉱物のようなものが、淡いベッドランプの明かりによって照らされていた。
代償行為。
わたしの一族は――いや、魔法使いという存在そのものには、自然の摂理を度外視させる「魔法」の行為そのものに対して、それなりの代償をもたらすと言われている。姉は血まみれのその姿から想像するに、巨大で強力な魔法でも唱えたのだろうか、その代わりに、右胸がそのまま、鉱物へと相転移してしまったのだ。
「藍……わたし怖いの」
姉はわたしの着るパジャマを脱がし、獣のように裸のわたしの身体をペロペロと舐め回した。血に濡れた髪がわたしの顔に当たり、姉の涙と一緒に、わたしの頬を伝っていく。
「どうして、どうして……藍……あんたも、わたしと一緒に……そうしたら、怖くはなかったのに……こんな身体になっても……決して! 憎い! 柔らかいこの肌がとても! 藍! どうして!?」
ごめんね、お姉ちゃん。
そう言おうと思ったが、口は動かなかった。「憎い」と、姉はわたしを犯しながら、そう連呼している。そんな姉を抱きしめようと思ったが、わたしの腕は動かすことは出来ず、小学生の頃、どうしてあの時……姉の手を取らなかった、己の右手を呪っていた。
「やっとこれで抱きしめれるね」
さすがに数十枚も描き続ければ、姉の身体はだいぶ擦り減ってきた。手足の先から順番に削っていったので、今の姉の姿はダルマというか、芋虫に近い状態だったのだ。
股の根本の辺りまで削り取った時、わたしは今まで姉にされた、ささやかな仕返しというか、悪戯を画策していた。
「魔法使いのお姉ちゃんなら知っていると思うけど、女性用の性具……男性のペニスを模倣した張形の歴史はとても古くてね、二万八千年前のドイツで発見されたシルトストーンから作られた処女膜を破る張型が有名だよね。まるで、今のお姉ちゃんみたいにさ」
芋虫のような姉の股下から、巨大な張形が飛び出していた。毎日、姉を削る度に、磨き続けていた姉の張形……薄々、性欲というものが無かったわたしだったが、姉からそそり立つそのイチモツを見た瞬間、わたしにも性欲というものがあったのだと、やっと安心できた。
「お姉ちゃん……お姉ちゃん! 秦菜! 秦菜!」
一生でこんなに姉の名前を言った事があっただろうか。毎晩、毎晩……わたしは姉を犯し続けた。辰砂とはいえ、元は猛毒である水銀の鉱物である。いつ自分が水銀中毒になるのかというスリル、まだ意識があるかもしれない姉を犯し続ける背徳感、そして虐げられてきた姉への報復、復讐……止められる訳が無く、わたしは腰を振り続ける。
とあるバリの美術展で、ランダを描いたものを見たことがある。ランダというのはバリの神話に出くる魔女ランダの事であり、災いを防ぐ聖獣バロンと災いをもたらす存在として、終わりなき闘争を繰り返す神だ。陰と陽。生と死。善と悪などの二つの終わりなき概念の闘争は、我々、人間そのもののメタファーである。そして、その姿を見ていたら、わたしと姉の事を思い出さずにいられなかった。
ランダとバロンが舞踊っているその絵画には、至る所に、辰砂によって塗られた紅い血しぶきが、散りばめられ、わたしの網膜から離れる事はなかった。
その美術展の帰り、わたしのアトリエがあるマンションに、姉がいた。思わず、わたしは身構えるが、姉は手を横に振り、地元の土産がギッシリ入った紙袋をわたしに手渡す。
「もうすぐ、大きな仕事があるから……ね、挨拶だけでも」
恥ずかしそうに……いや、気まずそうに、姉は首筋をポリポリとかく。鶏血石に似ている白い波紋を持つ真っ赤な鉱物が、首筋から伸びていた。
姉の態度が一変したのは、去年、唯一の肉親であった母親が亡くなったことにあるだろう。高名な魔法使いである母親は、あろうことか、交通事故によって他界してしまったのだ。親しい友人や親戚付き合いを嫌っていた母のせいか、家族と呼べるものも、わたしと姉、秦菜だけとなり、それから急に、姉はわたしに対する態度をやっと姉らしくするように、振る舞っていた……が、今更、そんな態度をしようとも、もう全てが遅い。
「出て行って」
「……そう……分かった」
わたしは姉を冷たくあしらい、姉はベランダから飛び降りようとした。
「……でも、ありがとね。お姉ちゃん」
姉が飛び降りて、姿を消す直前、わたしはそう彼女に言い放った。姉はそんなわたしを見ながら、ニコッと微笑んでいた。それが、姉がわたしに見せる最後の笑顔だった。
そんな姉の笑顔を思い出していたら、売るのものではなく、個人的な大作に取り掛かっていた。F100号の大きさに、小学生の頃のわたしと姉が一緒に、純粋な笑顔で箒を跨いで空を飛んでいる絵だ。背景の夕焼けの景色の朱を姉の辰砂で塗り、奥の方からやってくる夜の帳の青をわたしの血液から採取し、精製したプルシアンブルーによって徐々に染めていく。陰と陽、赤と青……これによってわたしと姉との時間が、魂が、永久にこの絵に宿り続けていくとわたしは確信した。
「藍もおいでよ」
わたしの名前を呼ぶ、姉の声がした。振り返ると、姉の亡骸が無くなっていた。辺りを見回して、換気の為に、開けっぱなしだったベランダの方を見ると、辰砂色の姉の亡骸が宙を舞っていたのだ。夕焼けに照らされて、姉の朱い肉体が、キラキラと反射していたのだ。
ベランダに向かって手を伸ばす。あの時のように、この絵のように、今度はわたしが、わたしの意思で、姉に向かって手を伸ばしていた。そして、わたしは……今度はわたしも姉と一緒に……空を――。
姉の身体に触れた瞬間だった。ふと力が急に無くなったように、姉はマンションのベランダから、真下の駐車場に真っ逆さまに落ちて――。
「ごめん……お姉ちゃん」
粉々になった姉を見つめながら、わたしはそう小さく呟いた。
「……作り話ですよね?」
わたしは目の前の老人が言っていることはにわかに信じられなかった。だって、今時、魔法使いだなんて、そんな話……それに、これがこの老人の姉が、魔法の代償で辰砂になった証拠などどこにもない。
「ええ、そう……単なる作り話よ。だから、作り話だと思って続きを聞いて欲しいけど、その粉々に砕けた残りの姉を使ってね、わたしたちを描いた肖像画に思いっきり、塗り潰したのよ。誰かにずっと見てもらったほうが、姉にとっても幸せだと思ったからね」
「信じられません……そんなこと」
「信じなくていいのよ。どうせ、誰も知る必要もない物語だから。赤外線写真でも撮れば、多少は若い頃のわたしと姉が見えるかもしれないけど、それをやる意味なんて、今更ないからね」
お茶菓子を片付ける藍と呼ばれる老人は「よっこいしょ」と、モップを持ちながら、重い腰を上げた。
「お茶菓子、ご馳走様でした。それにしても……どうしてその話をわたしにしたんですか?」
「そんなの決まってるでしょ、寂しいからよ。わたしも、姉もね」
わたしが振り返ると、老人は忽然と消え失せていた。思わず天窓の方を見上げてみたら、窓の端っこの方に、さっき老人が持っていたモップの先のようなものが宙を舞っていたように見えたが、気のせいだと思いたい。
藍と呼ぶ老人が語っていた辰砂に成り果てた、秦菜と呼ぶ姉の肉体で塗った絵画は、今でもあのビルの一角に飾られていて、きっと誰かにあの色を見続けられているだろう。
この先、ずっと……彼女たちは――。
バーミリオンキャタピラー 高橋末期 @takamaki-f4
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