第3話 三日目ー花火は見ていたー

 泣いても笑っても今日は夏祭り最終日・三日目。

 なんか夏と冬の逆三角形のイベントみたいな言い回しだな。


 ここに来た時の彼は、やはりまた人助けをしてから来たらしい。


 「ヘイ、そこのアベックのお二人さん、たこ焼きどうだい。」

 カップルらしき二人の方へ目線を向けるとそこにはが浴衣姿の男女が話をしていた。

 二人を見た彼は慌ててしゃがんで姿が見られないようにしていた。


 「ん?どした?」


 顔色の悪くなった彼の姿を見て思いついた。

 この二人、件の学校の奴らか。


 「あぁ、そうか。でもま、買ってくれるなら客は客だしな。」

 それでも商品を買ってくれるならばお客様だ。

 『普通の客』とは思わないけど。


 「おススメはロシアンたこ焼きっス。」

 私は二人に向かって言い放った。


 「せっかくだからそれにしようか。」

 二人はロシアンたこ焼き8個入り300円(ロシアンのため低価格)を購入していった。

 二人の姿が見えなくなると私はニヤリと笑みを浮かべて……


 「ま、普通のたこ焼きは半分しか入ってないけどね。」


 「本当は普通のたこ焼きは1個にする予定だったんだけど、クレームつけられもかなわないしな。」

 それにロシアンの説明には何個の爆弾が入っているかは記載がない。

 嘘はついていないので裁判でも負けはないはずだと私は説明した。


 「うちのバイト君に嫌なトラウマを植え付けたのだからバチは当たらないっしょ。」

 そういえば彼の名前知らない。

 そのためバイト君なんて言い方になってしまった。


 そろそろ花火の時間だな、周囲を見渡せば祭りに来ていた人たちの半数は花火の見やすいところへと移動していくのが見える。


 ふと、隣の彼を見てみると、せつなそうに花火を見上げていた

 きっと本当なら例の幼馴染の彼女と……見に来ていたんだろうな。


 でももしそうだったとしたら……私のこの三日間はこんなにも満ち足りたものだっただろうか。


 ドーーーン、ぱららりらっ


 「あー花火が始まっちゃうと人がごっそり減るなー。」

 周辺の屋台も見てわかる程度には閑散としていた。


 ドドーーーーーン、ぱぱぱららっ


 夜空に咲いた花からは


 「ふぁいとっ」

 「だよ」


 という文字が表示されていた。


 この花火大会の面白いところは、花火師の趣味でこうした文字が咲く花火をいくつか打ち上げる。

 何年か前は「う〇こ」とかも上がり、流石に準備委員会からお叱りを受けたらしいけど、客受けはよかったとHPに掲載されていた。

 

 なんだよ、ふぁいとっだよって。

 私を勇気付けようとしているのか?

 花火の癖に生意気なっ


 自嘲染みた笑みを浮かべて私は作業に戻る。

 自分のこの胸の奥にある熱い感情を、鉄板の熱で誤魔化すかのように。


 父があんな事になり、私の不安だった心は、この三日で融解し砕けた。

 彼を見るとドキドキとした鼓動が強くなる。

 あぁ、もう認めよう。

 私はきっと彼に惹かれている。

 

 彼がたこ焼きを食べて美味しいと言った時には

 彼が到着する度に人助けをしたという話を聞いた時には

 やはり彼は……


 ほとんどの人が夜空に視線が移る中、彼が話始める。


 「俺の名前は大宮真紘。」

 突然彼の自己紹介が始まった。

 

 「あ、あぁ。私は八重樫忍。」

 思わず返す言葉で私も自己紹介。


 あぁ、やはり、やはり彼だった。

 4月5月しか学校に行ってない私だったけど。


 ヤンキーだった私の周りに誰も寄り付かない中

 たった一人声を掛けてくれた人。


 きっと彼には私が困って見えたのだろう。

 ここに来るまでの間に助けた人達と同じように。


 なぁんだ。

 本当はあの頃から気になっていたんじゃないか私。


 「この三日間、凄く満たされた。また頑張っていこうと思った。そう思わせてくれたのは、君が、忍さんがいたから。忍さんの事が好きです、付き合ってください。」

 彼が私を真っ直ぐに見つめ、真っ赤な顔で想いを口にしてくれた。

 もう幼馴染の事はどうでも良いのかな。


 そんな事を考えていたから少し不安が表に出てしまっていた。

 でも、多分私も真っ赤になって

 

 「ふ、不束者ですがよろしくお願いします。」

 もう少しマシな返事はなかったのだろうか。

 でも仕方がない、言葉のセンスがないのは父譲りだ。


 続いて連発で打ちあがった花火からは


 「おめでとう!」

 「すえながく」

 「いちゃコラ」

 「がんばれ!」


 ピンポイントだなオイ。

 誰か連絡を取ってどの言葉を打ち上げるか決めてないか?


 でもありがとうと言いたい。

 ふぁいとの時と同じように、私を後押ししてくれたし祝福もしてくれた。


 隣の屋台から祝福の声があがる。


 「「おめでとー忍」」

 ぱちぱちぱちと拍手を送られる。

 関係のない他の屋台や、偶然近くにいたお客さんからも祝福の拍手の嵐が巻き起こった。



 「あ、あぁ。ありがと。恵さん、七虹さんと……」

 最後にもう2発上がった花火の音で彼氏の名前は掻き消えてしまった。

 あれ?彼氏ではないんだっけ?

 

 ドドーーーン、パッ

 その最後の花火からは


 「ゴム」「わすれるな」



 気が早ぇよ、と花火と花火師にツッコミを入れた。


 私も真紘も隣の恵さんも七虹さんもみんな真っ赤だった。


 片付けも終わり祭りの余韻に浸ってると私はいたづら心で爆弾を投下した。

 「そういえば、クラスメイトだよ。二学期から楽しみだな。」

 私の言葉に、クラスに殆ど出席していない女子のがいた事を思い出したようだった。



 「ま、2ヶ月しか学校行ってなかったし、あの頃はバリバリヤンキーだったし、髪は真っ赤だったしな。」


 「私だと結び付ける方が難しいよな。あははー、改めて2学期から余炉師躯!」

 彼、真紘としっかり握手をした。

 伝わる温もりは暖かかった。

 そして汗の交換をして二人とも悶絶してしまい、恵さん達に爆笑された。



 一方河川敷では。


 「ふぅ~、めぐにゃんの人使いは荒いにゃ~。指定された言葉の花火を打ち上げるのも大変だったにゃ。」

 忍の先輩である恵のバイト先、ねこみみメイド喫茶「アニスミア」オーナーであるカレンは一仕事終えて良い汗かいたにゃと額を袖で拭っていた。

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花火の祝砲―あの花火はやはり彼女の仕業だった― 琉水 魅希 @mikirun14

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