第5話

 ロッジとハーデスの戦いが始まり、ハーデスが先制した。


「ヘイどうしたんだよロッジちゃん、俺に勝つんじゃなかったっけ?」


 ハーデスは凹んでいるロッジを見下しているのか、終始余裕の表情でいる。


「次!」


 進行役のアフロヘアーの男は、係員の耳の長い男に次をやるようにと促し、サイコロは箱に入り、カタカタと鳴り、テーブルにバンと置かれる。


「丁か半かどっちだ!?」


「おい、お前が先に選んでいいぞ、どうせ俺の勝ちなんだがな!」


 ハーデスはロッジを完全に舐めきり、煽っている。


「丁だ!」


「んなら、俺は半だね!」


「さあ……」


 係員の男が箱を開くと、凍てついたかのような、静かで物音ひとつなく、その場にいる生命体や物体が活動や時間が止まった空間が流れる。


 ロッジは微動だにしないハーデスの卑しい表情を尻目に、開かれた箱に入っているサイコロを手に取り、やはり丁だったのかと溜息をつき、すぐさま半に変える。


 数秒後、何事もなかったかのようにして、ロッジの周辺の時間が流れ始める。


「……て、んん?」


 進行役の男は、自分自身の体に違和感があるような、目の前の時間が止まっていたのかという錯覚に囚われているが、どうせ気のせいか何かだろうなと進行を始める。


「半だ!」


 サイコロは2の目を出しており、ハーデスは思わず二度見してしまう。


「んな、そんな……?」


 ロッジは焦っているハーデスを見て、ニヤリと笑う。


(ハーデス、お前が運の魔法を実用化したのはサラからの手紙で知っている。その力を悪用して、賭場で荒稼ぎをしているのも。運に勝てる魔法は今の所は存在はしない、今の所は、だ……。だが、時間を止める魔法があればどうなる? 俺はそれを数年かけて完成させた。ただ、10秒ほどが限界で、連発はできないがな。後一回使えば、俺の勝ちだ……!)


「おいどうした、次早くやってくれ」


「……」


 ハーデスは自分が使えている運魔法が無敵だと信じていたが、いやどうせこれは単にまだ不完全なんだろうなと頭の中でバイアスが働き、深呼吸をしてサイコロを振っている係員を見つめる。


「丁か半かどちらだ!?」


 進行役がノリのいい声で彼らに聞き、ロッジはニヤリと笑う。


「半だ」


「んなよ、丁だろやっぱよ!」


 ハーデスは崩れかけの自信を精一杯集めて大声で叫ぶ。


 サイコロの入った箱がテーブルに置かれ、再度、時が止まり、周囲の物体が彫刻のように動かなくなり、静寂の支配する空間がロッジの目の前に広がる。


「さてと、俺の勝ちだ……!」


 ロッジはサイコロを変えようと箱へと手を伸ばそうとし、ふと観客席の方を見やると、サラが祈りを捧げている。


「……よく考えたらこれはイカサマだ! あの時と変わらねー! 俺の運だけで勝負だ!」


 時間が動き始め、ハーデスは妙な違和感を感じたが、気のせいだろうなと気を取り直してサイコロを見やる。


 サイコロは2の目を指している。


「く……! 畜生!」


 ハーデスは唇から血が出るばかりに唇をかみしめて、テーブルを思い切り叩く。


「勝者! ロッジ!」


 進行役の男は、ロッジの手を高々と天に挙げた。


 💰💰💰💰


 大会での祝勝フィーバーが終わり、ロッジ達は人気がいない公園にいる。


「ロッジ……」


 サラは、複雑な心境でロッジを見やる。


「なぁ、ロッジ。お前が勝ったんならば、サラはお前のものだ。証文通りにお前が勝ったんだ、自らの運で。俺は運の魔法がお前の時間魔法に打ち破られた。無敵だったんだがな……」


 ハーデスは溜息をついて頭をぽりぽりとかく。


 ロッジはハーデスをじっと見つめており、少しの沈黙が流れた後に口を開く。


「お前が、あの大会で勝った賞金を、サラの学費に充てたのは知っている。サラから聞いたんだ、サラの親父さんの会社が潰れて学費が払えず、あの時の賞金が欲しかったと。……何故俺に話してくれなかったんだ?」


 ハーデスは、溜息をついて、口を開く。


「だってさ、お前の家も金にヤバかったろ? 俺の家も実は事業に失敗しててよ、サラに金銭的な支援ができなかったんだよ、ただ、あんな噂になってしまったのはこちらとしては申し訳なかった……それと、サラには何もしてねーよ」


「いや、いい。どちらにせよ俺は学校を出たら実家に戻ってただろうからな。サラ、お前は俺とこいつ、どっちが良いんだ? いまさら証文なんざどうでもいい。俺はお前に任せる」


 ロッジはじっとサラを見つめる。


「うーんとそうねぇ、これで決めようかしら」


 サラは布袋から一枚の銀貨を取り出し、同じ銀貨が幾つか入っている噴水に投げ入れる。


「これが、表だったら、ロッジと付き合う、これが裏だったら、ハーデスと付き合う」


「いやいやいや、みんな同じやつばっかだし、こりゃ俺の魔法でもわからねー!」


「時間の止めようがない!」


 彼等が口々にそう言うと、サラは微笑みながら颯爽と立ち去って行った。

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異世界賭博覇王伝 @zero52

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