第4話

 次の日の朝、彼等がまだかまだかと首を長くして待ち望んでいた賭博大会が始まった。


 植物の蔓で覆われた、コンクリートとよく似た成分でつくられた中規模のコロシアムで、その大会は開かれている。


参加する面子は賞金目当ての賭博師等所謂ダメ人間が集っている。


「さあさ! 本日の目玉は100万ドンだ! 20人勝ち抜いた奴にあげるぞ! 強運の持ち主はどいつだ!?」


 道化師の格好をした中年の男は、群衆に向かい大声で捲し立てる。


(こんな連中の中で勝ち残るのは、こりゃ無理だろ……!)


 ロッジは歴戦の賭博師達を見ながら、これは遊びとは違うと戦意を喪失している。


(ん……?)


 ふとハーデスを見ると、自信に満ち溢れた表情をしている。


 💰💰💰💰


 賭博大会は順調に進み、決勝戦となった。


(ひええ、何で俺こんなに勝ち上がってるんだ!?)


 ロッジは何故か順調にどんどん勝ち上がっていき、決勝戦はハーデスとの一騎打ちになった。


 決勝戦前の休憩で控室にロッジとハーデスはおり、ロッジは気を鎮めようと葉巻を取り出して火をつけようとすると、ハーデスは革製のバッグから一枚の紙切れを取り出す。


「ん……?」


 その紙には、ハーデスの名前の他にこう書かれている。


『この勝負にどちらかが勝ち、サラを自分のものにした場合、必ず幸せにする事。もし不幸にしてしまったらもう一度勝負をして、勝った人間が改めてサラと付き合うこと』


 ハーデスは、全て全勝で勝っており、ロッジに勝つのは楽勝だと舐めきっている。


「はぁ!? 上等だ!」


 ロッジは自分の名前を力強い文字で書き、控室を一足先に出て行った。


 💰💰💰💰


 覚悟を決め、再度コロシアムに入ったロッジは、自分と同じく、強運で勝ち上がってきたハーデスとの一騎打ちを毅然とした態度で受ける。


「さあて、最終戦の始まりだぜぇ! みんな盛り上がってるかあ〜?」


 陽気な進行役が観客に向かって、大声で捲し立てる。


勝負は3本制であり、2勝した方が勝ちである。


 アフロヘアーの痩せ型のエルフ族の男は、サイコロを取り出して金属製の箱の中に入れる。


「勝負はいいか? いざ、勝負! 丁か半か!?」


(うわー、とうとう始まっちまったよ……!)


 ロッジは心拍数が上がりバクバク言っている心臓に手をやりながら、サイコロを見やる。


「は……」


「丁だ」


 ロッジが言い終える前、ハーデスは即答で答え、ニヤリと笑いながらロッジを見やる。


 箱が開くと、サイコロは2の目を指している。


「一勝目、ハーデス!」


 進行役はハーデスの手を掴み高々と天に挙げ、喝采が上がる。


「次、いざ勝負!」


 再度、サイコロは箱の中で回る。


「丁か半……」


「半だ!」


 ロッジは覚悟を決めたのか、ハーデスが口を開く前に、大声で叫ぶ。


 サイコロはテーブルの上にゴロンと転がり、出た目は6であり、喝采が観客席から巻き起こる。


「んん〜一対一だね。次がラストだー!」


 進行役はコロシアム内に響き渡る声で叫び、サイコロが再度箱の中でコロコロと回る。


「丁か半か!?」


「半だ!」


 ロッジは喉をカラカラにして、目を血走らせて叫ぶ。


 ハーデスはまだ心に余裕がある。


「さーて、ラストだ! 結末は如何に!」


 進行役は観客席に向けて最後の勝負だと思い切り叫ぶ。


 サイコロは二回転してテーブルに転がると、5の面を出した。


「勝者! ロッジ!」


「え!? 俺勝っちゃったよ!」


 ロッジはいまいち今の状況が信じられないのか、情けない声を上げる。


周囲からは拍手喝采がロッジに送られ、ハーデスはやれやれと立ち上がり、ロッジの手を掴む。


「やったな、ロッジ」


「あ、あぁ……いまいち信じらんねーよ」


「お前さんに運があったってことさ……これ、やるよ」


 ハーデスはロッジの手に何かを無理矢理握らせる。


「……?」


 角ばった小さな物体にロッジは違和感を感じており、それを見たハーデスは下衆た笑みを浮かべる。


「だが、勝負は俺の勝ちだ……! おいこいつさ、イカサマやってたぞ!」


 ハーデスはロッジの手を掴み、掌に握られていたサイコロを観客に見せる。


「何ぃ!」


「この卑怯者!」


(……!?)


 手のひらに握られているサイコロと、周囲からのヤジに、ロッジは唖然として立ち尽くす。


 💰💰💰💰


 ロッジがイカサマをしていた事は瞬く間に町中の噂に広まり、学校長の耳に入り、風紀を乱したとしてロッジは退学になってしまった。


 ハーデスは繰上げで優勝し、優勝資金とサラを手に入れた。


 周囲の悪評でロッジは街にいられなくなり、不本意ながら実家に戻らざるを得なくなった。


 イカサマの一件は両親の耳に入っていたが、勘当せずにロッジを再び家に招き入れた。


 既に家出していた兄達は家に戻ってきており、魔法の才能のあるロッジをこのまま埋まらさせておくのは勿体なく感じ、噂の届かない所にある、大陸の外れの魔法研究所を受ける事を提案した。


 その魔法研究所は、今はもう無くなった時間魔法の研究をしており、魔力が飛び抜けて強いロッジは直ぐに試験に合格し才能を認められ、研究員として働く事になる。


 そして、数年が経ち、若き研究所の所長となり、研究中の時間魔法が後少しで完成となったある日、一通の手紙がロッジの元へと届けられ、内容を見たロッジはハーデスのいる賭博大会へと参加する事を決意したのである。

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