第3話

 ハーデスが見つけてきた賭博大会は地域限定のものであるが、賞金額の高さから参加者は多くおり、これはダメ元だなという気持ちで彼等はその日のうちに応募した。


 賭博大会の前夜、ロッジはなかなか寝付けないのか、いつも彼等が遊びに行く公園にいた。


(あーあ、どうすりゃいいんだろーなこりゃあ……)


 ロッジはため息をつき、ベンチに腰掛けて公園内を見やるが辺りには誰もおらず、暗闇の中一人ぼっちという現実がたまらなく怖くなり、早々に帰ろうかとベンチから立ち上がる。


「ロッジ」


「ひ、ひええ!」


 不意に後ろから声を掛けられ、生来の臆病者の気質が顔を出し、情けない声を上げ、恐る恐る後ろを振り返るとサラが立っている。


「何よ、そんなに驚かなくてもいいんじゃない!?」


 サラは自分が変質者に間違えられたのではないかという心外の憤りを感じている。


「いやさ、暗闇で後ろから声を掛けられたら誰でもビビるだろ!? 門限はどうしたんだよ!?」


「あら、寝れない夜に街を散歩したっていいんじゃないの?」


 サラは大人の余裕を醸し出しており、嗚呼俺やっぱりこんなにいい女を好きになっても、絶対に付き合えないんだなとロッジは思い、ポケットから葉巻を取り出して魔法で火をつける。


「ねぇ、ロッジさあ……」


「ん?」


 ロッジは口から煙を吐き出しながら、サラが自分に何を切り出そうとしているのか気になり尋ねる。


「私……あ、いや、何でもない」


 サラは少し深刻な表情を浮かべていたのだが慌てて普段の微笑みのある表情に切り替える。


(何か隠してんのか俺に……?)


 ロッジはサラが何か隠し事をしているのかなとは表情で感じている。


「おいお前ら、門限はとっくに過ぎているんだぞ……!」


 後ろから声が聞こえ、見回りの守衛かと慌てて葉巻を口から外して振り返ると、そこにはハーデスがいる。


「驚かしているんじゃねぇよ、寝ろよ」


「寝れないんだよ。葉巻一本くれよ」


 ロッジはハーデスに葉巻を手渡して魔法で火をつける。


 ハーデスはうまそうに葉巻を吐き出し、少し考えて口を開く。


「なぁよ……サラ、本当は俺達の気持ちに薄々感づいているんだろうが、どっちを選ぶんだ?」


「はぁ!? 気持ちって、俺サラが好きとかって言ったわけじゃ……」


 ロッジは本当はサラを一目惚れしていたのだが、変な噂になるのはまずいし、第一貧困層の人間と上流階級の人間が一緒になる事は無く、自分は安い場末の飲み屋の女の店員を口説いて付き合うのが関の山なんだなと完全に諦めているのである。


「嘘つくなよ。だいたい目からして分かるよ。お前がサラが好きだって事を。俺もサラが好きなんだ、サラ、本当はお前は俺達のことがどちらも好きなはずだ。俺とこいつ、どっちを選ぶんだ?」


 ハーデスはサラを見つめて核心に迫る問いかけをする。


「はぁーあ、あんたって本当に何でもわかっちゃうよね、ここに入る前に軍隊で心理戦を学んできたから当然かー。私、二人とも好きだよ、初めて会った時からさ。でもさぁ、どっちを選んだらいいのか分からなくなっちゃってさあ。三角関係的な? でもこの答えっていつかは出さなければならないけれどもさ……どうすればいいのか、私には分からないんだ」


 サラは自分の奥底にある感情を見透かされて、観念したかのように堰を切って話し出す。


10分程の静寂が流れ、ハーデスは考えがあるのか、葉巻を吸い終えて口を開く。


「明日やる賭博大会で、俺かロッジ、どちらかが勝ったら付き合うってのはどうだ? 運がある方が将来的に幸せになるんじゃないのかなあと俺は思うんだがなー」


「お前そんなちゃらんぽらんな事で決めても、長続きするかどうかわからないぞ……」


「でもこれしか、答えはない気がするんだけどねぇ」


 サラはこの提案をすんなりと受け入れるのにまだ抵抗があるのか、首を縦には振らない。


(俺が身を引けばいいだけのことじゃないのかなぁ……どうせ、貧乏人と金持ちは深い溝があるんだよなぁ)


 ロッジはこの学校に入ってきた時、金がなくつぎはぎだらけでボロボロの服装をしていたのを影でクラスメートに乞食のようだと馬鹿にされていたのがトラウマになっており、卑屈になっている。


 いくばくかの静寂が流れた後、サラは思い切って口を開く。


「いいわよそれで。それで決めましょう、てかもう遅い時間だしバレたら反省文を書かせられるから戻りましょう」


「あぁ、そうだな」


 ハーデスは自分の提案が受け入れられて嬉しかったのか、ロッジの肩をバンと叩き、明日負けねーからなと言って急いで宿舎まで走る。


 満月が彼等の青春のひとときを、暖かく照らしていた。

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