異世界賭博覇王伝

第1話

 ここは同じ地球なのだが、多次元の平行世界に、そいつらは住んでいた。


「またあいつだ」


 木製のような無機質なもので作られたドーム型の建物の中は、コロシアムであり、観客席にいる青い髪をして耳が長いピンク色の瞳をしたエルフ族の青年が、金銭的なものをかけていたのだろうか、既に不要の産物と化した紙製のようなものをぐしゃぐしゃに握りつぶした。


「強すぎだよあいつ、誰かあいつを倒してくれる奴って存在しないのかよ……」


 緑色の肌を持ち、中肉中背、筋骨隆々の禍々しいゴブリンのそいつは、コロシアムの中心にいる金髪で長髪の鷲鼻を持つ25.6歳ぐらいの青年を憎たらしい瞳でジロリと見やり、深いため息をつく。


「これであいつ、500連勝だよ、賭けが成り立たねぇ……」


「あぁ、何てったって5年間負け無しだからなぁ、強力な運でも付いてるんじゃねぇか?」


 ゴブリンのそいつは、深いため息をつき、自分の運の悪さを呪いながら、コロシアム中心部にいる男を羨望の眼差しで見やる。


「イカサマでもしてるんじゃねえの? あいつ……魔法使ってるとか」


「いやねえだろそれは。ん? 次の試合が始まるぞ!」


「試合ったってさ、どうせまたあいつの勝ちだべ」


「いやその対戦相手ってのがよ、この大会に出て今まで圧勝してるんだとよ!」


「マジか! どうせでも残りの金は少ねーしな、ダメ元で賭けてみるか。オッズは何倍なんだ?」


「100倍だ」


「ならばやってみるわ」


「俺も賭けるわそいつに」


 彼等は観客席から立ち上がり、残り少なくなった小遣いを手にして、オッズ券を買いに足を進めた。


 💰💰💰💰


 地球とは多次元世界にあたる世界、アルザス大陸の中央に位置する、ワバ帝国では賭博が合法化されており、年に一度、大規模な賭博大会が開かれる。


 賭博と言えば、屑人間がやるもので、大抵どこの世界でも響きは悪いのだが、この世界ではれっきとした頭脳スポーツとして公認であり、賭博の収入は公費として納められており、国の発展に繋がっているのである。


 運に左右される特殊な技能のいるスポーツ故に毎年違う人間が賞を納めているのだが、5年前から同じ人間が一位に食い込んでいた。


 コロシアムの控室、そいつはタバコのような草を紙で巻いたものをふかしている。


 傍には、ピンク色の髪をしたエルフ族の女性が憂鬱な表情で座っている。


「……誰だ?」


「……」


 そいつは、鉄製のような頑丈な金属でできた扉の向こうにいる人物に気がつき、尋ねる。


「入ってきていいぞ……!」


 扉が、ギイという蝶番が錆びついた音を立てて開くと、そこには緑色の髪をした25.6歳ぐらいの青年が立っている。


「ハーデス……!」


 その青年は、タバコのようなものを吸う金髪の青年の名前を言い、睨みつける。


「久しぶりだな、ロッジ……!」


 ハーデスは、緑色の髪をした青年の名前を言い、灰皿を模した石の皿に咥えている紙を押しつけて火を消し、ゆらりと立ち上がる。


「会いたかったぜこの野郎……!」


 ロッジは眉間に皺を寄せてハーデスを思い切り睨みつける。


「なんだお前、まだ5年前の事を根に持ってるのか?」


「……」


「あれは、賭けに負けたお前が悪い、俺は運を味方につけた、それだけだ」


「てめえ!」


 ロッジは怒りに身を任せハーデスの胸ぐらを掴み殴りかかろうとする。


「やめて」


 ハーデスの隣にある女性はそう言って悲しそうな瞳でロッジを見やる。


「サラ……」


「おい離せよ」


 ハーデスはロッジの手を突き放す。


「人の女を奪いやがって……!」


「はぁ? 始めからサラはお前の女じゃねーんだけど」


「お前、昔の約束は忘れてないよなぁ?」


「あぁ、覚えてるさ、この大会でお前が勝ったら、サラはお前のものだと。だがな、口約束は、契約に成り立たないんだがなー」


「証文はあるんだよ、書いたのを忘れてないよなぁ?」


 ロッジはオレンジ色のバッグから、ボロボロの紙切れを取り出すと、紺色のインクで波線状の文字が書いてある。


「あぁ、これか……お前まだ持ってたんだな、これ」


 ハーデスは鼻で笑い飛ばし、喉が渇いたのか、飲料の入っている銀製のコップの形をした金属製の入れ物に口をつける。


「だが、仮にそうだとしてもだ、俺に勝てるのか?」


「……」


「俺は5年間、どこの賭博でも負けなしだ。幸運の女神がついている、貴様がここまで来れたのは単にビギナーズラックだ……俺に勝てるもんなら勝ってみろ……!」


「……上等だ!」


 ロッジは後ろに気配を感じ、振り返ると、二人の鬼気迫る雰囲気に物おじしている係員が顔を引き攣らせてカクカクと不自然な動作をして立っている。


「何だ……?」


「そろそろ、試合が始まりますので、会場の方へと足を進めて……」


 ロッジはハーデスをジロリと睨みつけて、会場へと続く道をゆっくりと歩いていく。


 その様子は、サラには一筋の希望の光に映った。

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