第2話

 魔法、という超法則はこの多次元世界には存在する。


 この世界の住民は、生まれてから間も無くして魔法が使えるようになる。


 魔法による、医療や交通等の生活面への応用は多岐に渡り、当然の事ながら、国家間の戦争にもこの不思議な力は使われ甚大な被害が出た。


 以来、各国の間で停戦協定が結ばれ、平和な世界になったのはいいのだが、血気盛んな若者達は、心の奥底から湧いてくる初期衝動を紛らわせる為に、どうやってこの退屈な時間を考えていた。


 そんな中、ある者がサイコロを使い、出た数によって勝敗を決めようという初歩の賭博を編み出し、それは瞬く間に若者の間に広まった。


 それは国中だけでなく大陸中に広まり、世界公認の競技へと変貌を遂げたのである。


 💰💰💰💰


 あくる日の木漏れ日の下、大陸で一番優秀な人間が通う、国立魔法学院の校庭にロッジとハーデスはいた。


「丁か半か!?」


 ロッジは箱の中に入っている一個のサイコロをガチャガチャと振り、テーブルに置いて、意気揚々とハーデスにどちらを選ぶか迫る。


「丁だね!」


「んなら、俺は半だ!」


 ハーデスは勝つ自信があるのか、自信に満ち溢れた表情をしている。


「さてどうだ!?」


 ロッジは箱を開くと、サイコロは6を示している。


「あー畜生! 勝ってると思ってたんだがなぁ!」


「これで俺の50連勝目だ!」


「でも、50回負けてるじゃねぇか!」


「五分五分だろ!? ん……?」


 彼等がいるところから20メートル程離れた場所に、生徒の群れに交じり、エルフ族の女性が頭が禿げ上がった初老の男性と話している。


「おいあれ、サラじゃねぇか……隣にありゃ、うちの学校の校長がいやがる」


 ハーデスは、サラと呼ばれる女性を見て、青春期特有の性に対して貪欲な視線を浴びせかける。


「あぁ、そうだよな。何だろうな一体……」


 ロッジは何やらよくはない予感がしており、サラを不安な表情で見ている。


 サラは校長と話を終え、ロッジ達に気が付き、手を振って彼等の元へと歩み寄る。


「ねー! 私もそれやるからまぜてー!」


 ロッジ達は微笑みながら、サラが彼等がやっているゲームをやるのを了承した。


 💰💰💰💰


 この世界には、ニロリンチ、という日本でいうチンチロリンによく似たゲームがある。


 ルールは至ってシンプルで、サイコロの出た目により丁か半かと分かれており、単純に運の良し悪しに左右される為、賭博大会では、必ずと言っていい程このゲームは採択される。


 大学構内、M字ハゲで分厚い眼鏡をかけた初老の男は、黒板に方程式を書き、太古の昔に滅んだ魔法について熱弁している。


(退屈だな……早く、あの講義にならないかなあ)


 ロッジは、運について魔法応用を考える講義を退屈そうに聞いており、昼寝や早弁をしている生徒を尻目に、隣の座席で熱心にノートを取るハーデスを見て、こいつこの授業だけは熱心なんだなと感心している。


(俺がここに入れたのは奇跡のようなもんなんだよなー……)


 窓の外では、出稼ぎの労働者が1日の食費を稼ぐために街で肉体労働に従事しているのを見て、ロッジはずっとあのままだったら燻って過ごしていたのに違いないと背筋に冷たいものを感じる。


 💰💰💰💰


 ロッジ・ギルバートは貧しい農家の家系に生まれ、6人兄弟の3男坊として生を受けた。


 農業での稼ぎはたかが知れていた為生活は困窮し、それに嫌気がさした上の兄二人は家出をし、稼ぎ手がいなくなってしまった事で生活は苦しくなってしまった。


 ロッジの下にいる妹達はまだ小さく、ロッジの稼ぎが頼りである。


 出稼ぎでこの学校の清掃をして日銭を稼いでいたある日、校庭に迷い込んできたドラゴンを払い退ける為に近所の魔法使いから習った簡単な落雷呪文を放ったら消し炭になって消えた。


 それを見ていた校長達はすぐさまロッジの魔力を検査すると、魔力が常人の5倍近くある事が分かり、授業料免除の特待生ですぐさま入校を勧めた。


 期待の星だと言わんばかりの視線を浴びせかける教師達の心中を察していたロッジは、すぐさま実家に帰り、ことの顛末を話すと、父親のジミーは少し考え、口を開く。


「俺たちの事は気にせずに、お前には自分の好きな道を選んで欲しい」


 ジミーの意思を汲んだロッジはその日のうちに学校の入校手続きを終え、家族を1日も早く楽にすべく、一人前の魔道士になる為、勉学に勤しむことになった。


 同じ寮で、貴族の息子のハーデスや資産家の娘のサラと知り合い、以来3年間、彼等は長い付き合いの腐れ縁となり、学業では常に首席であり、今は時間魔法について論文を作成しているのである。


 💰💰💰💰


 授業を終えたロッジ達は、売店でドリンクを買い、公園にいる。


「なぁ、凄いいいニュースがあるんだけどよ……」


 ハーデスはニヤニヤと笑い、水牛によく似た生き物の革製のバッグから一枚の紙切れを取り出す。


 ロッジは波線で書かれた文字を見て、目をカッと見開く。


「ええ!? ニロリンチの賭博大会で、賞金が100万ドンって……一年分の学費じゃないか!」


「そうなんだよ! 来月に大会があるんだよ! なぁ、やってみないか!?」 


「あぁ、勿論だ!」


(これで、実家に仕送りができる……!)


 ロッジは授業の合間をぬりバイトをして実家に送金しており、この額に迷わず飛びつく。


 山吹色に輝く太陽がギラギラと、まるで青春群像劇のワンシーンのように彼等を照らしていた。

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