ほら、さっさと地球のもとを作る作業にもどるんだ!

ちびまるフォイ

よく見て詰め替える

「なにぃ!? このミネラルウォーターが100万円だと!?」


大金おおがねさま、この荒れた環境ではこの水も貴重です。

 それだけに値段も高くなっているのです」


「ええい、貧乏人どもがワシの金をすすろうと金額を釣り上げているのだろう」


「では、もう少しグレードを落とした安いものを……」


「ばかもの! ワシはこの水しか受け付けないんじゃ!!」


大金は札束で使用人をひっぱたいた。


「しかし、このままバカ高い水を買い続けるというのも……」


「ぐむむ……」


大金は祖父の代から続いてきた林業で大きな財産をなしてきた。

けれど、近年では伐採するほどの森もなく不毛で荒れた砂漠が続くばかり。


すでに継いできた財産も毎日の豪遊生活で使い潰してしまっていた。


「こんな状態になったのもおろかな貧民共が、

 しょうもないことをして地球環境を汚しワシの仕事を奪ったからだ!」


「でもこれからどうするんです?」


「もとの環境に戻すしかなかろう!!」


大金は今の状況を甘んじて受け入れるでもなく、

自分の生活をグレードダウンさせるでもなく。


復活をかけて地球詰め替え計画を実施した。


「失った地球環境を注ぎ直して、地球の資産を取り戻すのだ!!」


大金は金の匂いにつられた人間を確保して強制労働をおこなった。

地球の木々は育ちきるまで100年はかかるが、人間は数十年でOK。

人間はいくら使い潰しても次が作りやすい。


そうして人為的に作り上げた地球環境資源の液体はパックに詰められた。


「貸せ! ワシが注ぐぞ!」


大金は地球の表面にある注ぎ口のフタを外し、

あまたの犠牲で作られた地球詰め替え液を宇宙から注いだ。


地球詰め替えをそそがれた地球はみるみる緑が戻ってゆく。


「ようしもう少し……ああ!?」


大金が油断したときだった。


詰替え用のパックと地球との注ぎ口がわずかにズレて、

詰め替えの液体が外へ漏れてしまった。


漏れた液体は宇宙の中で球体状になり漂っている。


「全部は注げなかったが……まあいいか」


大金は地球に戻った。

その後は家業の森林伐採をしまくってまた生計をたて、

趣味のハンティングで動物を楽しく殺しまくっていた。


そうこうしていると、また地球環境が荒れていった。


「なに!? またこの水が100万円もするのか!?」


「はい。なにぶん水が非常に手に入りにくい状況でして……」


「こないだ詰め替えをしたばかりだろう!!

 貧民どもめ、ちょっと地球環境が回復したら節制を忘れやがって!」


大金はふたたび地球詰め替えパックを何個も作らせた。

地球のフタを抜いてふたたび詰替をはじめていく。


「……あっ」


そうして今回もやらかしてしまった。

詰め替えの注ぎ口から出る地球のもとは宇宙環境に飛び散ってしまう。


けれど今度は複数の詰め替えを用意している。

6割しか注げなくても、2つ目の詰替パックで残り4割を注げばいい。


地球の資源を原始時代レベルまで回復させることができた。


「あまった地球の詰替えはどうするか……」


大金は追加で詰め替えしたパックの残りが気になった。

わざわざ持ち帰るのも面倒なので宇宙にポイ捨てした。


「さて、これでしばらくは地球環境に悩まされずにすむぞ」


大金が安心して地球に戻ると、詰め替えた直後にも関わらず

地球は全面核戦争でも終えたかのような荒れ放題でした。


「なんだこれは!? どうなってる!?」


「大金さま!」


「ワシはちゃんと詰め替えたぞ! なのにどうして環境が再生されていない!?」


「実は地球外生命体からの攻撃があったんです!」


「なんだと!? どこのどいつだ!」


大金財閥の巨大モニターに映されたのは宇宙に浮かぶ地球によく似た惑星。

けれど大陸の形からは見ても地球ではない。


「これは……なんて惑星だ……?」


「大金さま、覚えていませんか。最初に地球の詰め替えをしたときのことを」


「まさか、ワシが注ぎこぼしたあの液体が惑星になったのか?」


「はい。そうして新たな生命が誕生し、大金様が注いで回復させた地球資源を狙って襲ってきているのです」


「それじゃワシが地球外生命体を作ったみたいじゃないか!」


「今回はなんとか撃退できましたが次はどうなるか……」


使用人の言葉に大金は嫌な予感がした。


「待て。前の詰替えでワシはめっちゃこぼしたうえ、

 あまった詰め替え分を宇宙に放り出してしまったぞ……?」


「な、なんてことを! 今こうしているあいだにも

 そこから新しい生命が作られて地球に押し寄せるかもしれません!」


「ワシは悪くないぞ! 悪いのは注ぎにくい形にしたやつらだ!」


「そいつらも宇宙戦争でみんな死んじゃってますよ!」


詰め替えて地球の資源を復活させればまた格好の標的にされてしまう。

けれど詰め替えなければ地球資源は失われたままで、生活していけない。


「ワシはどうすればいいんだ……どうすれば……」


大金は頭をかかえてしまった。

そのとき祖父の言葉が脳裏をよぎった。


"困ったときは発想を逆転させるのじゃ"



「そうだ! 詰め替えるんじゃなくて、新しく移住しよう」


「お、大金さま……? いったいなにを?」


「地球はすでにたくさんの敵から狙われている。

 バカで資源をくいつぶすいやしい貧民も多い。

 だから、詰め替えで作った地球のもとをベースに新しい移住先を作るんだ!」


「なるほど! 地球の資源量と同じだけの詰め替えを宇宙に放出すれば地球コピーができますね!」


「そうとも。そこにはワシのような選ばれた人間だけが住める場所。

 ドブネズミのゴミクズ下民どもは廃れる地球に残せばよい!」


「しかし大金さま。以前に地球の詰め替えを作った技術者はみな死亡していませんよ」


「だったら新しい人間を使えばいいだろう!

 新しい地球への永住権などちらつかせればいくらでも集まる!!」


大金は多くのエサで釣って労働者を駆り立てた。

次の地球外生命体からの襲撃よりも早くに地球コピーを作る必要があった。


「大金さま! ついに地球のもとが完成しました!」


「ようし! では宇宙へ放出するんだ!」


地球のもとは誰にも気づかれない場所にまかれると、新しい地球を形成した。

入っていた地球のもとのパックはそこらへんに捨てられる。


大金と使用人は自家用ロケットで宇宙に上がり出来上がったばかりの新地球へと向かった。


「見ろ、あの汚れていない大地を。美しい水を。

 まさにワシらのような人間のための地球からの恵みにちがいない!」


「そうですね、大金さま!」


ロケットを寄せて、大金は窓からジャンプ。

新地球への第一歩を誰よりも早く踏みしめた。


「この地球はワシのもの……うわっ!?」


踏みしめたはずの大地は感触がなく、雲のようにすり抜けてしまった。

大金も、使用人もみるみる大地の中へと埋もれてゆく。


「どういうことだ!? これは……うぷっ……どうなって……!」


「わかりませんっ……いったい……どうして……っ!」


首から下がすべて埋もれてしまい身動きが取れない。

なおもズブズブと勢いよく飲み込まれてしまう。


「お……おい! あれを! あれを見ろ!!」


大金は指さそうとしたがもう体は動かせなかった。

その言葉を最後にふたりとも地面に飲み込まれた。


二人が最後に見たのは新しい地球のために作った詰め替えパックの文字だった。





地球のもと(泡で出てくるタイプ)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ほら、さっさと地球のもとを作る作業にもどるんだ! ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ