第10話 深夜  黒風白雨

 ***



 ――― 寝入ってしばらくした深夜。


 庭木の枝を揺らし吹き荒れる風音が止まない中、サリードは両耳の熱さに目が覚めていた。


 (…熱いな)

 耳たぶを中心に、全体が熱を帯びている。

 そっと触ってみるが、酷く腫れているような感じは無い。まあ、大したことはないのだろう。

 

(少し、水で冷やすか…)

 じつの所、寝る前から疼くような不快な痛みとは違う、妙な熱さを感じていた。

 なにかこう、強い光に当たっている様な鋭い熱感だ。

 

 起き上がった暗闇の中、目が慣れるのを待つと、隣で眠るミカエラを起こさない様に慎重に寝台を降りる。


 先程からガタガタと戸を叩くようなうるさい風音が、外で降り頻る雨と風の強さを物語っている。

 夜半前から急に天候が悪化し、なかなか回復しないのだ。

 まるで、何かに対し怒っている様な天気に、明日の仕事に影響がなければいいがと思わず窓の方を見つめた。

 

 そして、ひんやりとした壁に手をつきながら扉まで近づくと、ふと隙間からぼんやりと明かりが漏れている事に気がついた。


 (……ん?)

 小さな異変に、どきりと動きが止まる。



(…まさか、誰かいるのか?)


 思わず身体が身構える。


 

 就寝時、二人とも全て明かりは消したはずである。

 夜中、明かりをつける必要があるとすれば、物を探すとき、あるいは用を足しに行く時くらいだ。


 では、誰が明かりをつけたのか。


 疑念に、自然と緊張が走った。

 試しに意識を集中して耳を澄ましてみるが、扉の向こう側にある居間からは、物音は一切聞こえない。

 しかし、この辺りは治安が良くない為、金目の物が盗まれたりする事は頻繁にある。


 サリードも早々に余計な思考を止め、そうだろうと見当をつけた。

 

 だが問題だ。

 

 ここにミカエラがいる分、もし物盗りが数人いたら分が悪い。

 おまけに、剣も玄関だ。

 部屋の窓から出て玄関まで戻ってからだと、彼女に危険が及ぶかもしれない。


 とにかく、扉の下から漏れてくる明かりに人影が横切る様子がないか、きちんと確認した方がよい。

 

 そう考え、気配を潜めながら静かにかがみ、隙間を覗く。


 しかし…。


 (去ったあと、…か?)

 仕事柄、人の気配を察するのは上手いが、今は無い、というか、感じられない。


 明かりをつけっぱなしで去るなんて、気づいてくれと言わんばかりで何かおかしい気もするが、向こう側をきちんと確かめなければどうにもならない。


 もう一度、立ち上がって扉に近づけた耳を澄ます。

 音がしない事を確認すると、意を決してゆっくり扉の取手を掴んだ。

 





 「…サリード?どうしたの?」

 

 ―――その時、ミカエラの声が静まり返っていた空気を裂いた。



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光の聖戦士〜夢幻世界の秘跡と現れた助言者〜 蓮生 @rensei1219

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