10年は夢のよう

烏川 ハル

10年は夢のよう

   

「……?」

 目が覚めた時、僕は妙にボーッとしていた。

 まるで10時間くらい寝ていたような、眠り過ぎな感覚。なんだか朦朧として、うまく頭が回らない。今日は平日だっけ、それとも、学校なんてない日だっけ……?

 そこまで考えたところで、ハッとする。そもそも、目の前に見える天井は、僕の部屋のものではない! 学校のような公共施設にありがちな、無機質なタイル張りの天井だった。

「……えっ、ここはどこ?」

 叫んで起き上がろうとして、腕を動かしたら小さな痛み。見れば、右腕にも左腕にも針が刺さっていて、そこから管が延びている。

 そんな僕の動きや声に反応して、

「患者さんが目覚めました!」

 という言葉も聞こえてきた。どうやら、ここは病室だったらしい。


 続いて、医者やら看護師さんやらが訪れて。

 ようやく僕は、事故で10年も昏睡状態だったと知らされる。

 ああ、なんということだ! まだ10代の少年だったはずなのに、一眠りしたら、もう20代後半だなんて!


 もしも10年前の僕にメッセージを届けられるならば、これだけは伝えたい。

 自転車には気をつけろ、と。

 避ける時は右ではなく左へ避けろ、と。

 そうしないと車道に飛び出して、キミは青春時代を失うぞ、と。




(「10年は夢のよう」完)

   

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10年は夢のよう 烏川 ハル @haru_karasugawa

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