『冒険幻想イマジナリウム』作者:龍ヶ崎理史/イラスト:My☆You

 前回の『ねむたべ』のレビュー、たくさんの人に読んでもらえたみたいで嬉しいです。ありがとうございます。こうやって書くのって楽しいですね。

 『ねむたべ』はすごく良い作品なので、ぜひ読んでください。


 それで、友人がアドバイスくれました。以前にネタバレの件で俺を怒ってきた友人です。

 俺の好きな作品の傾向は、前回と前々回のレビューを読んだ人にはもう伝わってそうな気がするんですが、


・ヒロインが可愛い(これが一番大事)

・主人公とヒロインの関係性と心情が話のメイン

・主人公とヒロインのラブコメ(恋愛未満でも良い)

・できれば not ハーレム(主人公とヒロインに集中したい)

・日常系、ほのぼの


 以上のようなものが多いと思います。もちろん、これ以外の作品も読みますし、好きな作品が全部これに当てはまる訳ではないですが、好みとしてはなんとなくこの辺りに偏ると思います。

 で、友人には、そういう作品ばっかり紹介するのも需要はあると思うけど、違う系統の作品紹介も見たい、日常ほのぼの以外も書け、と言われました。


 ちょうど次はどの本にしようかなと迷っていたところだったので、友人のアドバイスを参考に選んだのが、龍ヶ崎りゅうがさき理史まさふみさんの『冒険幻想イマジナリウム』です。


 タイトルにもなっている「イマジナリウム」というのは、現実と重なるようにして存在する夢世界のことです。

 主人公の明日川アスカワ夢叶ユメトは、ある日、その夢世界「イマジナリウム」に迷い込んでしまう。そこで、「ナイトメア」という、名前の通り悪夢のような見た目のモンスターに襲われ、美少女に助けられる。この美少女が、この物語のヒロイン空花ソラハナ雪葉ユキハ

 その戦闘中、雪葉が持っていた結晶「イド」が夢叶と反応して巨大な剣になり、夢叶はその剣で戦い、雪葉と一緒にナイトメアを倒す。

 そこから、夢叶は雪葉と共に「イマジナリウム」を構成する「イド」を巡る戦いに巻き込まれてゆく。

 というのが、この作品のあらすじ。


 物語としては、王道のボーイ・ミーツ・ガールな冒険活劇。ドロドロした人間関係はなく、実は主人公はみたいな裏設定もなく、大どんでん返しというかちゃぶ台返しみたいな展開もなく、純粋にハラハラドキドキするバトルと冒険を最後まで楽しめる、とても気持ちの良い作品です。

 俺がこの作品を好きなのは、王道をまっすぐに照れなくやりきる気持ち良さもあるのですが、そういった全ての要素がヒロインの雪葉を魅力的に見せることに繋がっているところです。


 まず、ヒロインの雪葉がとにかく強くてかっこいい。長いポニーテールをなびかせて戦う、絶対的クール美少女。武器はその華奢な体には不釣り合いなほど大きなハンマー。美少女が大きな武器を振り回すというのがカッコイイ。

 主人公の武器も身長よりも大きな剣だし、作者の龍ヶ崎さんは大きな武器が好きなのかもしれません。巨大武器は浪漫ですよね。

 My☆Youまいゆーさんの挿絵の中にもハンマーを振り回す雪葉のイラストがあるのですが、このイラストがハンマーの重さが伝わってきてすごくカッコイイです。


 雪葉には行方不明の兄がいて、その兄を探すためにイマジナリウムでナイトメアと戦っているのですが、雪葉がそういった事情を自分で夢叶に説明するシーンは物語のかなり後半になります。

 でも物語の最初から、夢叶と読者は雪葉の事情や想いを断片的にだけど知っている。

 どうしてかというと、戦闘で夢叶がイドの力を使う度に、雪葉の記憶や想いが夢叶に流れ込んでくるからです。それが夢世界であるイマジナリウムとイドの設定。

 この設定の何がすごいって、ヒロインは圧倒的に強くてクールという状況はそのまま壊さずに、彼女の弱い面を書くということができるんですよ。

 この設定のおかげで、普段の雪葉が絶対に見せない心の内を夢叶だけが知っているという状況が作り出され、それが普段のクールさとのギャップになってキャラクターに奥行きを与え、雪葉の魅力になっています。

 そして、雪葉の気持ちを知ってしまった夢叶の雪葉に対する言動が、夢叶の強さや弱さも表現していて、これも主人公としての夢叶の魅力に繋がっている。


 雪葉は夢叶を巻き込んでしまったことを失敗だと思っていて、勝手に自分を責めて、勝手に傷付いてゆく。そして、一人で背負う覚悟をする。

 一方の夢叶は、力を使う度に雪葉のことを勝手に一方的に知っていってしまう。そして雪葉の心の奥にある「助けて」という声を聞いてしまった夢叶は、勝手に雪葉を守ると決意してしまう。

 お互いすれ違ったまま共闘する夢叶と雪葉。

 戦闘シーンは爽快感もあって、きちんと敵を倒すカタルシスもあります。でもその中にちょっとずつ噛み合わない二人の様子が描写されていきます。ちょっとの違和感はあるものの「でも、ちゃんと倒せてる、大丈夫」だと夢叶と雪葉は思ってしまう。


 そのすれ違いが、物語の後半で大きな失敗に繋がります。ナイトメアに取り込まれてしまう雪葉。その雪葉を助けようと、自分もナイトメアの中に飛び込む夢叶。

 悪夢の中で再会した二人がお互いの気持ちを自分の口で言葉にして伝え合う場面は、本当に良いシーンです。

 雪葉が「巻き込んでごめんなさい」「自分がなんとかしないと」「本当は助けてほしい」「でも一緒に戦いたい」と自分の中にある気持ちをぐちゃぐちゃしたまま全部吐き出して、夢叶がそれに向き合ってその矛盾ごと全部受け止めることで、雪葉はようやく自分の中にある気持ちを認めることができるようになる。

 自分の気持ちを自覚することで、雪葉は本当の意味で強くなるし、夢叶は自分勝手に守ろうとするのではなく、雪葉の気持ちを尊重しながら共に戦えるようになる。

 この、すごくまっすぐな展開をまっすぐにぶつけてくるところが、すごく気持ち良いし、それがこの作品の良さだし、それが全部ヒロイン雪葉の魅力に繋がっているのがすごく良いんですよ。


 そしてラストバトルでは二人の強い想いが大きな力になる。ここまで二人の気持ちだとか想いだとか願いだとかの描写を重ねてきた上での主人公とヒロインの力を合わせた最終進化系です。強い想いで強くなるというのは王道展開ですが、ここまでの夢世界の設定と描写のおかげで、この物語ならではという納得感のある演出になってると思います。

 それに、主人公だけじゃなくてヒロインも戦力としてラストバトルに参加しているというのがすごく良かった。それまで共闘しながらも気持ちはすれ違っていた二人が、最後に同じ気持ちを持って本当の意味で共闘するというのがグッとくる。

 雪葉も「一緒に戦いたい」って願っていたわけだし、ここでヒロイン置いてきぼりで主人公一人でラスボスと対峙だと、あのシーンでの夢叶の気付きはなんだったってなってしまう。こういうところで、きちんとここまでの設定や展開の積み重ねを大事にしてくれるのも、この作品の良いところだと思います。

 それに、最後まで一緒に戦うヒロインて、主人公と対等な感じがして、本当にパートナーって感じがあって、すごく良いと思う。雪葉は最初から最後までクールで強い圧倒的戦闘美少女だった。


 ネットの感想を見ると、戦闘のテンポが悪いとか何してるのかわかりにくいっていう人もいるみたいなんですが、それは戦闘中に記憶や想いが流れ込んでくるという設定のせいだと思います。

 でも、この記憶や想いが流れ込んでくるというのがこの世界の大事な部分で、かつ主人公とヒロインの関係性を描くためには必要で、この物語の一番の魅力の元になっているので、これはもうどうしようもないんですよね。ラストバトルでも重要な要素になっているし。

 俺はこの、戦闘シーンの戦いと回想と感情が折り重なって描写されていく感じ、現実世界と夢世界が重なり合うこの物語の世界観そのものだと思ったし、うまい設定だなーって思ったんですけど、ダメな人は本当にダメみたいで、この辺りはもう好みだと思うので、読んで判断して欲しいとしか言えません。

 俺はすごく好きなんですけど。


 隠れた見所としてはナイトメアの造形の描写がすごくキモいです。褒めてます。

 My☆Youさんのイラストもすごくて、リアルな動物に人間ぽい表情や仕草をプラスして不気味にして、それを機械の部品として寄せ集めた感じ。生理的な気持ち悪さもあって、ヤバイ薬でもやってるか熱があるかする時に見る悪夢のようです。本当に褒めてます。

 My☆Youさんの描く女の子はこんなに可愛くてカッコイイのに、なんでモンスターはこんなにキモいんだ。同じ人が書いてるとは思えない。

 文章での描写もすごくて、特に雪葉がナイトメアに飲み込まれる時の文章はトラウマレベルです。だからこそ、その雪葉を助けようと後を追って飛び込む夢叶がめちゃくちゃかっこいいんですよね。


 あ、そんなナイトメアですが、目次と裏表紙にいるちびキャラのナイトメアはなぜか可愛らしく描かれてます。まるでマスコットキャラみたいな描かれ方をしていますが、そんなマスコットキャラは出てきません。そもそも作中では全く可愛くありません。

 ナイトメアは総じてモンスターだし、総じてキモいです。

 もしかしたら、ナイトメアが受け付けなくて読んでないって人はいそう。そういうレベルです。


 そういえば、コミカライズもされています。ネットで第一話を読んだだけですが、よくまとまっていたし、雰囲気は悪くなかったと思います。俺は追いかけてないんですが、小説より漫画の方が読みやすい人はそちらをどうぞ。

 漫画だと、ナイトメアの造形が多少マイルドになっている気がしたので、ナイトメアが駄目だった人でも読めるかもしれません。


 今度続編が出るらしいんで楽しみでもあるんですが、物語としては一冊で綺麗に終わっているのでどうなるんだろうという不安がかなり大きいです。でも、きっと買って読むと思います。


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冒険幻想イマジナリウム(龍ヶ崎理史、ゼッタイムテキ文庫)

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