『大須さんは卓上遊戯同好会所属!』作者:国津ライナ/イラスト:あぶりカツヲ

 前回のレビューも読んでもらえて、反応とかももらえて嬉しかったです。

 続編がどうなるかわからないですが、『イマジナリウム』一冊で満足できる作品だと思うので、読んでもらえると嬉しいです。


 今回は、本当は『公園でライダーごっこするお姉さんが仲間になりたそうにこっちを見ている』の紹介を書こうと思っていて、実際書き始めていたんですけど、書いてる途中でラノベの話をしてるのか仮面ライダー剣の話をしてるのかわからなくなってしまって、やめました。

 そのうちまた書いてみて、うまく書けたら紹介します。でも、この作品自体がそういう作品なので、難しいのかもしれない。


 改めて今日選んだのは、国津くにつライナさんの『大須だいすさんは卓上遊戯同好会ボドゲ部所属!』です。

 部活モノっぽいタイトルですが、活動内容は単に遊んでいるだけなので、ほのぼの日常ラブコメです。


 主人公の加斗かど八降やつふるは、携帯型ゲーム機をいつも持ち歩いて、空いた時間はずっとゲームをしている高校一年生。

 入学してからずっと部活動に興味なく過ごしていたけれど、ある日同じクラスの地味な眼鏡女子大須だいす瑠々るるに声を掛けられる。連れていかれた旧校舎の端っこの小さい教室、そこはボードゲームで遊ぶ「卓上遊戯同好会」通称「ボドゲ部」だった。


 というのが、物語の導入です。

 ボードゲーム(略してボドゲ)、最近流行ってるみたいですね。少し前にもボドゲを題材にしたアニメがあったし、漫画もいくつか出ているみたいです。

 ラノベ原作でも、キャラクターがボドゲ好きとか、アニメ化の際に背景にボドゲが置かれたりとかしてるのもあったような。ちょっと、その時はボドゲというのをちゃんと認識してなかったんであやふやですけど。


 この作品では、ボードゲームを前面に押し出しています。登場するボードゲームは実在するもので、ルールについてもある程度らしいですが、物語中に解説されています。

 中には、ルール説明だけで三十分以上かかるゲームもあるらしく、さすがにそのゲームについては細かなルールはすっ飛ばされてました。小説としては妥当な判断だと思います。

 それでも、主人公がだんだんとボードゲームにハマっていく過程を見ていくと、楽しそうだなとかちょっと遊んでみたいなと思えるので、作者の国津ライナさんのルール説明と遊んでいる風景のバランスがうまいのかな、と思います。

 国津ライナさんはもともとボードゲームが大好きで(ペンネームも関連のものらしいです)、それでボドゲをもっと広めたい、もっと遊んでくれる人を増やしたい、と思ったのがこの作品が生まれるきっかけだったとか。


 作者さんもそうですが、この作品に出てくるボードゲーム好きな人は、みんなすごく仲間を作りたがります。

 作中では、瑠々の兄の伊加瑠いかるが「プレイヤーこそ、ボードゲームを構成する最も重要なパーツ」「プレイヤーがいないとゲームが成り立たないから、プレイヤーになってくれる人を常に求めてるんだ」と言っていますが、一人でも遊べる電子機器ゲーム(まわりくどい言い方ですが、ややこしいので伊加瑠兄さんの言い方を真似てます)と違ってボードゲームはまずプレイヤーを集めるところからなので、大変そうですね。ただ、最近はマルチプレイ前提の電子機器ゲームも多いので、そう単純に比較できたものでもないらしいです、という辺りも伊加瑠兄さんの受け売りです。

 最近はボードゲームの電子機器ゲーム版も発売されているし、ネット上で遊べたりもする、というのは作中でも説明されていますが、瑠々は「でも、やっぱりわたしは、目の前に実際にあるっていうのが好きだし、自分で触りたいなって思っちゃうんだよね。箱を開けて準備をする時間も好き」と話します。

 実際、落とした駒を拾い集めるために二人で机の下に潜って、うっかり指先が触れちゃったり、顔の近さにドキドキしたりと、そういうラブコメに必要なイベントは目の前に本人がいてこそだよな、なんて思いました。

 そして、そんなタイミングで伊加瑠兄さんが部室に入ってきて、慌てて机に頭をぶつけるまでがお約束。


 ちょっと、ボードゲームの話が長くなりすぎました。テーマもののレビューって難しいですね、そのテーマについてどこまで話せば良いのかわからなくなってしまう。


 で、ラブコメとしての魅力ですが、瑠々がとにかく良い子ということに尽きるかなと思います。

 ゲームを開始するときには「よろしくお願いします」終わったときには「ありがとうございました」って必ず言う。自分が勝っても負けても。

 勝つと素直に「やったー」と喜び、負ければ悔しがってしょんぼりする。その上で、相手の良いプレイを褒めて、自分のプレイを反省する。

 幸運については自分のも相手のも一緒に喜び、誰の不運も笑わない。

 そして心の底から「すごく楽しかったです、また遊んでください」と笑う。


 なんだこの良い子。女神か。可愛い。

 ボードゲーム好きな人のレビューも見かけたんですが、そういう人にも評判良いみたいです。主人公の立場が、ボードゲーム沼にハマるのに非常に理想的らしく、うらやましがっている人もいました。

 ボードゲームに誘われたけど自分以外全員上級者で、いきなり複雑なルールのゲームを遊ばされて、なんだかよくわからないまま負けて、その上プレイにダメ出しをされてトラウマになった、という人もいるみたいで。

 こういうのって、ボードゲームに限らずどこにでもあるなあと思っていて、自分はそういうのが嫌であんまりマルチプレイのゲームはしないんですけど、でもその中でも一緒に遊んでいて楽しい人たちはいるし、ラノベの感想だって、ただダメ出ししたいだけなのかなって人もいるし、だからボードゲームもそういう感じなのかなと思ったりしました。

 瑠々が「わたしは楽しむのが目的で、勝利は目的を達成するための条件。勝ちたいし本気で勝ちにいくけど、それはそうした方が楽しいから。それに、楽しいって、一緒に遊んでるプレイヤーみんなが楽しくないと、達成できないから」と話すシーンがあるのですが、それを読んで、自分がこうやってラノベレビューを書いてるのも楽しいからだよな、それを読んでもらって楽しんでもらえる方が良いよな、なんてことも考えたりしました。

 本当にこのヒロインは良い子すぎる。天使か。


 瑠々に話を戻すと、普段は引っ込み思案で大人しいのに、ゲーム中は口数が増えるし、思考がダダ漏れで変な独り言を言う、というのも可愛い。

 クラスでは大人しくて物静かな地味な子なのに、ボドゲカフェというボードゲームを遊べる場所に出掛けた時は、年齢がかなり上の人たちに囲まれても臆せずに、ボードゲームの話で盛り上がっている。

 で、そういうところでも、連れてきた八降への気遣いを忘れない。

 知らない場所で堂々としている瑠々に気後れして、ただ隣で突っ立っている八降の代わりに「念願の新入部員なんです」と紹介して、「これ、この前遊んだんですよ。八降くんは面白かった?」と話を振り、主人公がそれに頷くと、他の人たちも「ああ、じゃあ、これも面白いかもね」「こっちは同じ作者のゲームだよ」と八降を迎え入れてくれる。

 優しい世界だ。


 そんな感じで、とにかく瑠々が八降に対して終始優しい。その優しさは「八降くんを沼に引き摺り込むため」「本当はそんなに優しくないし良い子でもない」「負けず嫌いだから負けるとすごく悔しい」と本人は言ってますが、その自覚であの言動っていうのがとにかく素で良い子なんだろうなと思います。

 それでいて、ゲームの勝ち負けについてはシビアだし、手加減もしないので、普段の良い子さに嫌味がないんですよね。

 で、八降に対して恋愛的に意識してるだろうって描写はあるし、読者から見ると割とそれはもうあからさまにそうだろうって思うんですが、八降視点だと「ボードゲームが好きだから」「一緒にボードゲームを遊んでくれる自分に優しいだけかも」って見えてしまう。

 そんなだから八降は瑠々のことを好ましく思ってるんだけど、「ボードゲームが好きなんじゃなくて瑠々が好きだから一緒に遊んでると思われて幻滅されたらどうしよう」と悩んで、何も言い出せない。

 何この甘酸っぱい両片思い。八降はお前ヘタレか。

 そして、八降がちょっと頑張ったりちょっと良い雰囲気になったりしても、必ず良いタイミングで登場して場をぶち壊す伊加瑠兄さん。もうお前絶対狙ってやってるだろ、面白がってるだろ、黙って妹の恋を進展させてやれよ。


 この伊加瑠兄さんも不思議なキャラで、普通のラノベだと、兄じゃなくて姉に設定されててもおかしくないんですよね。巨乳の先輩とかになってそう。

 でも、それが女の先輩だと、ボドゲ部が部員が足りないってことに説得力がなくなってしまうので、ここは兄で良かったんだと思います。だって、そんな女子と密室でゲームが遊べるってなったら、普通に誘われる男子はいるでしょ。

 同じ部活内に兄妹がいることによって、物語序盤から自然と「名字だとややこしいから名前で」「こっちだけ名字呼びも変だからお互い名前で」と、自然と名前呼びに移行したのもうまいと思います。あと、ヒロインの兄なので、恋のライバルにはならないというのも良いポイントです。これはただの先輩だとそうはいかないところですね。

 メインの女子キャラがいない代わりに、大須兄妹の幼馴染の女子は出てきます。活発で元気なタイプでボードゲームに興味はないけど、頼まれて名前だけ在籍してるという女子生徒。でも、一回一緒にゲームを遊んだのと、あとは時々名前が登場するくらいです。

 このあたり、主人公とヒロインの関係に集中できるので、俺はめちゃくちゃ好みだしすごく好きなんですが、複数のパターンの可愛い女の子を配置しなくてこの話大丈夫かな、と余計な心配をしてしまいます。

 多分、そのせいだと思うんですが、ボドゲショップの店員さんが無駄に巨乳なキャラデザでイラスト化されていたり、ボドゲカフェで同じテーブルになった店の常連の人も巨乳で可愛いお姉さんだったりします。

 あ、でも、その常連さん、瑠々の嫉妬を引き出すという役割があって、そのための造形になっているので、全く意味がない訳ではないんですよ。

 ボドゲショップの店員さんの方は、完全に意味がないように見えますけど。文中にも特に巨乳って描写がないので、もしかしたらこの店員さんに関しては、イラストのあぶりカツヲさんの独断かもしれません。あぶりカツヲさんは巨乳キャラ好きみたいなので。この店員さん、巨乳エプロンのせいで、ただのモブなのに変に人気が高いみたいです。


 それと、常連さんの方も補足しておくと、別に普通に良い人です。一緒に楽しく遊んで「また一緒に遊べぼうね」って爽やかに別れる。ボドゲの知識も豊富で、説明も上手で、楽しそうに遊んで、一緒に遊んだ人を楽しませることができる。

 社会人な大人のお姉さんで、みんなちょっとずつ瑠々よりもよくできる、という人で、そこが瑠々の気持ちをうまく刺激する形になっています。瑠々は常連さんに憧れつつも、嫉妬している。

 相手が普通に良い人だと、自分がすごく駄目に思えて、かえって凹むよね。わかる。


 そんな天使のような瑠々と、ヘタレな八降の恋愛は、直接的にはあまり進展しません。でも、なんかもう、二人とも想いが通じ合ってるみたいな雰囲気になります、最後には。

 八降がボドゲ部に来て初めて遊ぶゲームが、ガイスターというオバケの駒を取り合うという、チェスに心理戦を足したような二人用のゲームなのですが、物語の最後でもガイスターで遊びます。

 最初に遊んだときは、瑠々と何度も対戦して最後に一回ようやく勝てた八降が、物語の最後にはほぼ互角になってる。それは八降がゲームに慣れてうまくなったということでもあるんですが、それよりもゲームを遊ぶ時の瑠々の思考とか、考えとかがわかるようになってきたから。

 瑠々をずっと見ていたから、こんな時はこうするだろうな、というのがわかるようになってきて、だから互角に遊べる。

 二人で何度も勝ったり負けたりを繰り返すけれど、自分が負けても瑠々が自分の思考を読んでくれて、自分のことを理解してくれているからだと気付いて、それが嬉しくなる。そして、お互いにそう思っていることが、ゲームを通して伝わり合う。

 そんな時にとっておきの笑顔で「八降くんと遊ぶの、すごく楽しい」って、そんなのもう、それ、愛の告白でしょ。なにこの空間、甘酸っぱい。


 まあ、最後の最後まで伊加瑠兄さんが雰囲気ぶち壊しにくるんですけど。だからお前は自重しろ。妹の恋を進展させてやれ。

 それでも、二人の距離が少しずつ縮まって、このままくっつきそうでくっつかない感じで、この先も一緒にボードゲームを遊んでいくんだろうなと思えて、永遠に爆発しやがれって気分です。好きですよ、こういうもどかしい感じ。大好物です。


 あと、これは大事なことなんで書いておきますが、瑠々は最後まで眼鏡っ娘です。

 それと、瑠々は胸が大きめでもあります。この胸の大きさも、あぶりカツヲさんのせいだと思うんですが、俺は良い仕事してると思いました。

 ボドゲカフェに入って上着を脱いだら「長考しがち」って書いてあるTシャツを着てる、というシーンがイラスト付きであるのですが、そのシーンの破壊力がすごいです。そんな胸が大きめの女の子が文字が書いてあるTシャツなんか着ていたら、みんな胸見ちゃうでしょ。にこにこしながら「これ、受けるんですよ、ボドゲカフェだと」とかって言ってる場合じゃないでしょ。

 主人公の「伊加瑠兄さん、ちゃんと教育しといて!」という心の中でのツッコミに、全力で同意するところです。

 ちなみに「長考」っていうのは、自分のターンでずっと考え込んでなかなか自分の行動を決められずにゲーム進行をストップさせてしまうことを言うらしいです。

 作中でも瑠々が独り言(「待って、これ絶対赤だと思う、どう考えても赤だよね、でも取らないわけにいかないよね」「え、なんですか、そのカード。なんで今出ちゃうの、待って、予定が変わった、どうしよう、そんなの出たらそれ使うしかないじゃないですか」「だから次は、こっちに行って、あ、口に出てた、ごめんなさい聞かなかったことにして」)を言いながら、なかなか行動を決められずにいる様子が描写されますが、そういうことみたいです。


 俺もこの作品を読んで少し興味が出たので、どこかで遊べるのかなと思って、作中で八降と瑠々が遊びに行くボドゲカフェのモデルになったという店に行こうかなと思ったりしたんですけど、いきなり一人で行くのは怖いというか大丈夫かなと思って結局行ってません。

 なんか、この作品とのコラボイベントとかもあったんですけど、どうしようかなと思っている間に定員になっていたので結局それっきりです。

 作中に登場したボドゲを買うのも、別に遊ぶ予定もないのにハードルが高い。

 なるほど、ボードゲーム好きな人たちはこのハードルを越えさせようとしてるのか、と思いつつ、俺はまだ越えてません。すみません。


 でも、ボードゲームをよく知らなくても、ヒロインの魅力だけでもじゅうぶん楽しめる作品です。


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大須さんは卓上遊戯同好会所属!(国津ライナ、RRRブックス)

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