『禍津祓サービス年中無休営業中』作者:建部タケル/イラスト:ななつぼしゆう

 お久しぶりです。

 前回紹介した『大須だいすさんは卓上遊戯同好会ボドゲ部所属!』のコラボボドゲが出るというので、予約してしまいました。

 あぶりカツヲさんの書き下ろしイラストのカードと、ルール説明をする書き下ろし漫画が付いていて、さらには予約特典で国津ライナさんの書き下ろし短編まで付いてくるという豪華仕様です。

 ボードゲームを買うつもりはなかったのですが、グッズだったら買ってしまう。

 ただ、届いても遊ぶ予定は今のところないです。


 そしてまた『公園でライダーごっこするお姉さんが仲間になりたそうにこっちを見ている』のレビューは書けませんでした。

 好きなんですけど、この話について書こうとすると、気付くと仮面ライダーの話になってしまってるんですよ。本当に好きなんですけど。うまく書けない。

 仮面ライダー、特に仮面ライダー剣から仮面ライダー電王くらい世代の人は好きだと思うんで、読んでください。RRRブックス、南英雄さんの『公園でライダーごっこするお姉さんが仲間になりたそうにこっちを見ている』です。


 前置きが長くなりすぎました。

 気を取り直して、今日紹介するのは建部たけるべタケルさんの『禍津祓まがつはらいサービス年中無休営業中』です。


 舞台は多分、現代日本。禍津神という、もののけ姫の祟り神のようなものがいて、その禍津神を祓う、つまりは退治する組織「禍津祓サービス」に所属する人たちの日々の仕事を書いた話です。

 所属メンバーは大きく二種類に別れていて、一つは「ナオビ」と呼ばれるはらいを行う戦闘メンバー、もう一つは「イズノメ」と呼ばれるオペレーションやサポート、事務作業を行うメンバー。

 話としてはイズノメである松居まついしゅうを中心に進んでいきます。


 松居まついしゅうは「禍津祓サービス」に所属して五年目。

 やりがいがないわけじゃないし、労務環境もブラックというほどではない。たまに深夜労働はあるけど、その分の手当ももらっている。

 仕事は安定してできるようになってきている。後輩の面倒を見たりもする。大きな祓のサポートを任されることだってある。

 それでもなんとなく、転職しようかなと頭を過ぎることがある。でも、自分に他にできる仕事なんかあるのか。自分は何がやりたいのか。

 そんな悩める二十八歳。


 そんな中、新人ナオビの雨原あまばら香子かこ二十二歳が所属され、柊は香子の面倒を見るように言われる。そして、そんな香子の初めての祓が冒頭シーンになっています。


 この「禍津祓サービス」、設定だけ見ると物々しいのですが、作中の描写は害虫害獣駆除のような雰囲気です。

 現場に到着してからのはらい(駆除)は戦闘なのですが、なんというか全体的な雰囲気のサラリーマンぽさというか、「すみませーん、家の裏に蜂の巣できちゃったんですけど」「はい、じゃあ、専門家手配しますね」みたいなノリで禍津神を祓いに行く人たち。


 そんな雰囲気もあって、バトル小説というよりは、完全にお仕事小説です。

 祓というちょっと変わった仕事をしている人たちの日常を、柊と香子の両方の視点から書き出しています。


 柊の仕事に対するなんとなくの悩みと、香子の新人ゆえの力みやそのせいでの失敗、そんな光景が交互に描写されます。

 頑張りたいから無茶をしがちな新人と、間違いなく仕事をこなすためには無茶はダメだと知っている先輩の話は、なかなか噛み合いません。


 そして、クライマックスで香子は祓の途中で怪我をした上、通信が途絶えてしまう。サポートのナオビメンバーの到着まで、まだ時間がかかる。待ちきれずに、柊は一人で現場に向かってしまう。

 香子を探しながら、柊は自分の指示ミスや準備不足を悔やむ。もっとこうだったら、もっとこうしていたら、と考えてしまう。

 柊はこれまでだって、仕事の手を抜いていたつもりはなかったけれど、でもどこかに慣れからくる慢心があったんじゃないか、仕事ができてるなんて思い上がっていたんじゃないか、と自分を責める。

 少し前に、香子に対して「仕事は一人でやってるんじゃないんだぞ」なんて偉そうに言ったことを思い出して、それが自分へのブーメランになっていることにも思い至る。


 その後の、基本的には前線に出ないデスクワーカーの柊と怪我をしてあまり動けない香子が、二人で協力してサポートメンバーが到着するまでの時間をしのぐ展開は、すごく熱かったです。

 二人がきちんと、それぞれの仕事をできる範囲で最大限こなす。

 柊は仕事仲間として香子を信頼して「俺は実行はできない。だから雨原に託す」と作戦を預ける。それに対して香子は「それがわたしの仕事ですからっ!」と返す。

 二人がお互いの仕事を信頼できるようになったんだな、と思う瞬間です。


 そして、祓中の香子が格好良いんですよね。

 香子は武器を持たずに格闘で禍津神を倒す戦闘スタイル。手首と足首につけた鈴が鳴って、その音が香子の祓の力になります。

 戦闘装束も白拍子のような感じで、見た目は可憐なのに格闘パワー型のように戦うそのギャップが良いです。

 ななつぼしゆうさんのイラストも、すごく綺麗で良い。特にカラー口絵のイラストが華やかです。

 あ、関係ないんですが、ななつぼしゆうさん、ずっと「ななつぼ・しゆう」さんだと思ってたんですが、最近ツイッターで見てようやく「ななつぼし・ゆう」さんだと気付きました。すみません。

 ななつぼしゆうさんのイラストは線が筆で書いたみたいに独特で、それがこの話のちょっと和風な要素が入った世界観によく合っていると思います。


 あと、ラブコメ要素はほとんどありません。

 柊と香子は、恋愛になるような、ならないような、どうなんでしょうね。今のところは、あくまで仕事仲間としてしか書かれていませんでした。

 それっぽい会話は、傷を作って帰ってきた香子に対して柊が「傷とか作ったら、彼氏が気にしたりしないのか」って聞いて「そういうのセクハラですよ」って返した、くらい。いや、今さっと見返してびっくりしたんですが、本当にそういった話がほとんど出てきてない。

 強いてあげるなら、あとは柊が実家の母親からの電話で「結婚とかどうなの?」って聞かれて「予定なんかカケラもねえよ」って言ってたくらい、か。

 恋愛を絡めずにパートナーとしての関係を書いて、それがきちんと面白い、というのはこの話の面白いところだと思います。


 まあ、個人的には、この二人が付き合ったりするのも楽しそうなので、そういう場面をにやにや眺めたりしたい、という気持ちもあったりします。

 あるいは、香子が学生時代の友人に呼ばれて合コンに参加とかして、なんとなく面白くないと思ってしまう柊とか、もしあるなら見てみたい気持ちもありますね。否定はできない。

 そういうのは、二次創作とかに求めたら良いのかもしれないですが。軽く見た感じ、二人が付き合ったら、みたいな設定の二次創作はあるようなので、ラブコメ要素が欲しい場合は、その辺りで補うのが良いかもしれません。

 年齢制限がある作品なのでここで作者名とタイトルを出すのは控えますが、香子が柊に対して「柊さんは、体の傷とか気にするんですか」って聞く二次創作作品があって、それの二人の会話がすごく良いので十八歳以上でそういう作品が平気な方はぜひ探して読んでもらえたらと思います。


 二巻が出ることは決まっているみたいですね。

 メインの二人以外のキャラクターもまだ掘り下げられそうな雰囲気ですし、続きも多分買うと思います。


========


禍津祓サービス年中無休営業中(建部タケル、ICHIHARA文庫)

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