『眠れない俺が作ったおやつを君は夜中に食べてくれる』作者:君島語/イラスト:百々みみみ
前回の『僕たちは光合成する』のレビュー、思いがけずいろんな人に読んでもらえたみたいで、反応ももらえたりして、嬉しいです。こういうの初めてなので。
すごく好きな作品なんですけど、あまり話題にのぼることが少ない作品なので、こうやって見てもらえて本当に嬉しかったです。まだの人は『僕たちは光合成する』を読んでください。
あ、それと俺のレビューは、他の人のレビューを読んでて自分も書きたくなって書いたものなので、もしかしたらそのレビューの人に色々似てしまってるかもしれません。でも、文章はパクリではなくて、きちんと自分で考えたものなので許してください。慣れてないので下手だと思うけど。
その人のレビュー、勝手に紹介とかしても良いのかな、怒られないかな。こういうネットマナー的なものがよくわからないので、連絡くれた人には教えます。知りたい人は連絡ください。
すみません、出だしから話がそれた。
今日は君島
主人公の
作った洋菓子を持って、近所を散歩して、そして公園で食べるのが日課。
そんな主人公の創が夜中の散歩で、お腹を空かせてフラフラ歩いていた同級生、
そうやって二人は時々、深夜に二人だけでおやつを食べるようになる。その二人のそれぞれの事情が少しずつ明かされ、それと共に二人の関係も少しずつ変わっていく。
というのが、この『ねむたべ』のあらすじです。
基本的には、夜の公園で、二人がひっそりとおやつを食べるだけの話です。
その中で眠れなくなったばかりのことやなんでお菓子を作っているのかを創が語り、いつもお腹を空かせている理由や自分を取り巻く環境について真夜が語り、そんな不安定な関係の中で、二人は秘密を共有する者どうし、ゆっくりと心を開いてゆく。
そうやって築かれてゆく二人の関係がすごく繊細で、読者からはすごく危ういものに見える。二人はまるで依存するようにお互いを必要とし始めて、それが壊れる瞬間を思い起こさせるような描写が重ねられていて、一つ一つのシーンはほのぼのしているのに、全体的にはガラスの細工物を取り扱うような緊張感が漂う。
そして、そういう空気感がこの作品の魅力です。
中学生や高校生が持つ危うさというか、生きにくさというか、空気が薄い中で呼吸するような感覚が創の淡々とした語りで伝わってくる。
創の夜眠れないという状況や、真夜が背負っている事情は、多分そういう年代でぶつかる色々なものの象徴で、多かれ少なかれ誰しも経験のあることなんじゃないかと思います。ここまで極端なものでないとしても。
あの頃って多分そういうものだし、実際に読んでいて俺はそういう空気を思い出しました。
できるなら、リアルに高校生の時に読みたかった。高校生の俺はこの作品に救われたかった。この作品の発行年は俺が高校卒業した後なんで、まあどうやっても無理なんですけど。
そんな二人の秘密の時間は、物語終盤に起こるある出来事で終わってしまいそうになります。
これまで、ずっと現状維持を続けてきた創が、今の関係を壊してでも真夜を救いたいと思う。そして、自分たちを取り巻く環境に抗うように、真夜を助けにいく。
実は、このクライマックスでも別に創は何もたいしたことはやってなくて、高校生にできる精一杯のことしかできてない。その、できなさ加減がやけにリアル。
それでもここまでの二人の関係の作り方が丁寧で、なのでそれが創にとってどれだけすごいことなのか、重要なことなのかが納得できる書き方になっています。
だからか、全体で見ると無力感よりも納得感や満足感の方がより大きく感じられるようになっています。
そのクライマックスの後、夜明けの公園で二人でお菓子の材料にするはずだったオレンジピールをそのまま食べるラストシーンは、
朝陽を見ながら、真夜はオレンジピールを食べて、創は真夜に寄りかかって眠ってしまう。文章は創視点で、イラストは創が眠ってしまった後の二人の姿で、なので文章とイラストが相互に補完し合ってて、すごいんですよ、ここ。
二人のそれぞれの事情も、関係も、綺麗さっぱり解決なんてできるわけがないんだけど、それでも夜は明けるんだ、たとえ何かが変わってしまってもこうやって二人の関係は続いていくんだ、と前向きで爽やかな気持ちになれる、本当に良いシーンです。
それからこの作品の見所は、お菓子を食べる真夜の描写です。
お菓子を食べる真夜がとにかくエロくて可愛い。ただお菓子を頬張っているだけなのに、エロい。口をもぐもぐさせて幸せそうに笑う姿が可愛い。たまにうまく飲み込めなくて、むせるのも愛おしい。
エロいエロい言ってますけど、俺が勝手に幻覚を見ているだけではないです。読むとわかると思うんですが、お菓子を食べるシーンは明らかに性的な意図を持って書かれています。
つまり、真夜が創のお菓子を食べるという構図が、擬似的な性行為として表現されているわけです。なので、この作品にはわかりやすい脱衣とかのあからさまなサービスシーンはないのに、すごくエロく感じる。
夜中の公園で、自分が作ったお菓子を頬張ってくれる女の子。どう考えてもエロでしょこんなの。
真夜がお菓子を食べる描写だけでも、読む価値があると思います。
創のお菓子作りの描写も良いです。
最初は、ただ時間があるからと機械的にお菓子を作っていた創が、だんだんと真夜の好みを考えたり、真夜の喜ぶ表情を想像するようになるのが、ベタではあるんですがとても良くて、このお菓子作りの描写があるから食べる真夜の描写がただエロいだけにならずに、ほのぼのと幸せなシーンになっているというのはあると思います。
それに、真夜に出会う前はお菓子は出来上がりの味もそんなに気にしてなかったし見た目も適当だったのに、気付けばトッピングとか仕上がりを気にするようになってきて、特に中盤のシーン、焼きあがるまでの間にそわそわと「綺麗な色で焼けてくれ」って念じてしまうシーンでは、もうお前がヒロインだよという可愛さでした。主人公に対して可愛いって思ってしまうとは思っていなかった。
章ごとにおまけで、作中に出てきたお菓子のレシピが乗っていますが、俺には作れなさそうでした。実際に作ってみたって言ってる人はいるので、きちんとしたレシピみたいです。
作ってみた報告は、「ねむたべ 作ってみた」とかで検索すると結構見付かります。みんな再現度合いが半端ないし、中には創や真夜のコスプレで制作過程や食べるところの写真を撮ってる人もいたりして、見てるだけでも楽しいです。
あと、どのレシピにも百々みみみさんの描くチビキャラが添えられていて、しかもレシピ毎に全部違うイラストで、どのチビキャラもすごく可愛いので、このレシピの存在が作品の完成度を高めていると思います。
特にアップルパイのレシピで、創にリンゴを渡している真夜が可愛いし、その林檎を切っている創も可愛い。
アップルパイは、真夜が創のアップルパイを食べながら「焼きたてアツアツのアップルパイが食べたい。バニラアイスと一緒に食べると美味しいんだって」と言い出して、いつか一緒に作って一緒に焼きたてを食べるという約束をするのですが、実は作中ではその約束は果たされていません。この約束は、作中では届くかどうかわからない不確かな未来としてしか書かれていません。
けれど、このアップルパイのレシピで真夜が創にリンゴを渡して創がそれを切っているということは、二人でアップルパイを作っているということで、つまりあの約束がいつか果たされる日が来るということで、最後のあのシーンの後にこのレシピを見ると、その先も二人が幸せに生きているんだなと思えてきて、ここでこんなイラストを添えてくる百々みみみさんがもうさすがとしか言いようがないです。
俺はこの作品を読んだ後、コンビニまで行ってアップルパイとバニラアイスを買ってきて、アップルパイをレンジで温めてアイスを添えて食べました。アップルパイって温めると美味しいんですね。
そんな、読むとお菓子が食べたくなる作品です。そして、創と真夜が、この先も幸せにお菓子を食べてくれると良いなと思える作品です。
========
眠れない俺が作ったおやつを君は夜中に食べてくれる(君島語、コネクト宙ノベルス)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます