眼鏡の女子が好きなので
烏川 ハル
眼鏡の女子が好きなので
「飯田さん、俺と付き合ってください!」
そう言って、香川くんが右手を差し出してきた。
握手を求めるポーズだが、発言と合わせて考えたら、ただの『握手』ではないだろう。交際OKなら手を握る、というやつだ。
同じ学部の男の子に呼び出されて、何だろうと思いながら出向いてきたら、この有様。高校時代から「地味な眼鏡っ
大学の授業は選択制だけど、香川くんは同じ学部だから、一緒になることが多い。だからといって、親しく話をする間柄ではなかったが……。
一部の女の子グループが、
「香川くん、ちょっとかっこいいよね」
「今フリーかなあ?」
「どうだろうね。好きな人くらい、いるんじゃない?」
などと噂していたのを覚えている。
まさか、その香川くんが、私に惚れていたなんて!
「あ、あの……」
男の子に告白されること自体、私の人生では初イベント。舞い上がってしまうけれど、それでも心を落ち着けて、尋ねてみる。
「……どうして私? 香川くんとは、休み時間に何度か話をした程度だよね?」
「一目惚れだったのさ」
ニカッと笑って、白い歯を輝かせながら答える香川くん。
「……一目惚れ? こんな地味メガネな私に?」
「その眼鏡がチャーミングなんじゃないか!」
興奮したのだろうか。彼の声のトーンが、一段アップした。
ああ!
大学生になったらコンタクトにしよう、と考えていた時期もあったのに。
眼鏡をやめないでよかった! おかげで、彼氏をゲットできるなんて!
……心の中で眼鏡に感謝しながら、彼の右手に向かって、私が手を伸ばそうとしたところで。
交際OKという意思が早くも伝わったらしい。照れ笑いを浮かべながら、香川くんがペラペラしゃべり始めた。
「いやあ、本当に素敵だよ。眼鏡の飯田さん、俺の元カノにそっくりでさあ。あいつと付き合って以来、すっかり俺、眼鏡フェチになっちゃったから……」
バチン!
私の右手は、彼の手を握らなかった。
そこを素通りして、自分でも意識しないまま、彼の頬を引っ
「……え?」
唖然とする香川くんを、その場に残して。
くるりと背を向けた私は、足早に立ち去った。
元カノの代わりにされることが嫌だったのか。
ああいう言い方をする彼のデリカシーの無さに腹が立ったのか。
自分でもよくわからなかったけれど。
なぜだか無性に悲しくなって、涙が止まらなかった。
(「眼鏡の女子が好きなので」完)
眼鏡の女子が好きなので 烏川 ハル @haru_karasugawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
カクヨムを使い始めて思うこと ――六年目の手習い――/烏川 ハル
★209 エッセイ・ノンフィクション 連載中 298話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます