溺れる僕にキスをください
藤咲 沙久
酸素の在処
体温に勝る熱が全身を包む。炎天下は、水中に似ている。
「
頭上から聞こえた
通う高校の違う、塾が同じ女の子。結城と僕の関係といえばただそれだけ。
「かもって、なんだよ。曖昧だな」
「好きな人に好きな人がいる……みたい。たぶんだけど。そんな話してるの、聞いちゃって」
いつまでも屈んでいるわけにもいかず立ち上がる。見下ろした結城の肩には汗で制服のシャツが張り付いていて、僕は胸の辺りがチリリと焦れるのを感じた。理由はわかっている。
「アタシの好きな人っていっても、そんな親しいわけじゃないんだけど」
「へえ、そう」
「でもその人は……」
結城の声が少し遠く感じる。好きな人に好きな人がいる、なんて。それはまさに今、僕が陥っている状況そのものだ。
──炎天下って、水中に似てるね。
いつだったか、そう言ったのは結城だ。酸素を求めて口を開いても、摂取できるのは熱せられた空気だけ。取り込めば取り込むほど体温が上がる錯覚さえある。暑さが肺を
あの日の、短い毛先がわずかにかかった彼女の
(僕も今……息が出来ない)
熱い。苦しい。冷たくて新鮮な酸素が欲しい。そう思ううちに、僕は結城の唇を見つめていた。そこに求めているものがある気がして。触れあわせて吸い込めば、なにかが身体を満たしてくれる気がして。
強く、強く見つめた。
「その人は、いつも。……
結城がそう言った時、まだ口元を見ていた僕は、彼女がどんな表情をしていたのかわからなかった。視線ひとつで彼女の気持ちを惹き付けたのはどんな男だろう。焦げ付く想いを押さえつけながら、僕はもう一度「へえ、そう」とだけ返事をした。
太陽に焼かれ酸素不足の駐輪場。僕たちは、それ以上言葉を交わさなかった。
溺れる僕にキスをください 藤咲 沙久 @saku_fujisaki
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