個性豊かな庭園主たちの物語! わくわく愉快な世界の一員に私もなりたい。

 主人公のキッパータックは、大庭の管理を副業に、本業の清掃の仕事に勤しむ善良な働き者です。大切にしている蜘蛛たちは、人の気持ちを読んで色々なものに変身できる芸達者。物語は彼と、彼を取り巻く個性豊かな庭園主たちを中心に、にぎやかに進んでいきます。登場人物すべてのキャラが立っているからでしょう。彼らにまつわる愉快なエピソードに笑ったり、突然降りかかるとんでもない災難にドキドキしたり。私は読み始めてすぐ、作品世界に入り込むことができました。
 
 それにしても、彼らの宿敵・庭荒らしの大泥棒、タム・ゼブラスソーン! エレベーターのなかにシュールストレミング(殺人的臭いを発する缶詰)を放置する凶悪ぶり! なんてことを! と怒りつつも、彼の活躍(?)をまだまだ追いかけたい、私は悪い読者です~。

 もし、この物語が本になったなら、時々ご褒美みたいに入るイラストは、アニメ風や漫画っぽいのは似合わない。たとえば『不思議の国のアリス』や『あしながおじさん』や『ムーミン』や……。外国文学の原書に描かれているような雰囲気の絵柄がぴったりだと思うのです。
 というのも、なんと言ったらいいのかな。私はこの作品に物語の面白さのほかにもうひとつ━━翻訳ものの文章を思わせる、素敵な味わいを感じました。作者の崇期さんは、地の文には特に力を入れているということですが、見事に成功しているのではないでしょうか。私はその表現にハッと心をつかまれ、思わず読み返してしまうことが、何度かありました。

 大人も読めるけれど、読書の楽しみを知ったばかりの子供たちにも読ませたい。そんなお話の続きが楽しみです。
 
 
 
 
 

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