きっと届かない

「戻りましたよ」


 と、声をかけたが返事がない。机の上を見ると新田先輩が顔を突っ伏して寝ている。


「仕事のやりすぎなんですよ」


 いや、私が集まることの出来るメンバーを帰してしまっていたから、掛からなくていいはずだった分の負担までかけてしまっていたのだ。

 ああ、悪いことをしてしまっていたな。自分の気持ちしか考えていなかった。そんなんじゃ、近づくなんてやっぱり無理だ。私は、新田先輩の迷惑になってしまう。副会長だとか、補佐だとか、名ばかり、口ばかりだ。

 ズン、と、なにか重いものが体のなかで下へ下へと重力をかける。ちょっぴり悔しくて、泣きそうになる。

 手に持っていた印刷済みの書類をケースに仕舞う。机の上に散らかっていた資料も、元の場所にファイルし直す。新田先輩を起こさないようにそっとパソコンを自分の方に持ってきて開く。中のファイルをチェックしながら、黒板に書いてある仕事の進行表を書き換える。


「こんなにたくさんのこと、一人でするのやっぱり大変でしたよね。ごめんなさい」


「すー……すー……」


 返ってくるのは寝息だけだ。


「私、新田先輩に近づきたかったんです。だって、新田先輩のこと、好きになっちゃったんです」


 寝ているから言える言葉をそっと言う。こんなもの、ただの自己満足だ。だって、返事がないってわかりきっていて告白しているんだもの。

 でもこれで、もう諦めをつけなくっちゃ。

 涙が溢れそうで、慌てて上を向いた。


「俺も須藤のこと好きだよ」


「えっ……」


 驚きのあまり、溢れそうになっていたが引っ込む。体がかちんこちんに固まってしまってうまく動かない。それでも状況を理解しようと、ロボットみたいなカクカクした動きで視線を下にずらすと、ぱっちりと目の開いている新田先輩と目があった。


「やっと言ってくれた」


 ニヤッと笑って新田先輩は言う。


 「やっと」ってことは、つまりは、つまりは……。


 すべてを理解した私がゆでダコみたいに真っ赤になったということは、言うまでもないだろう。

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完全犯罪 天野蒼空 @soranoiro-777

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