空回り、片思い

「失礼します」


 誰もいない印刷室に入り、電気をつける。廊下の暗さとの差に目を細める。

 書類をコピー機にセットして、スイッチを押した。


 ──シュッシュッシュッ。


 勢いよくコピー機から紙が出てくる。


「はあ。なんでまた逃げちゃったんだろう……」


 口からため息とともに後悔の言葉が出てくる。逃げなければ、もっと話せたのに。もっと話せたら、もっと近づけたのに。近づきたくて生徒会に入ったのに、逃げてばかりだ。

 新田先輩は私のことを意識なんてしていないことは、十分にわかっている。あの対応は、私を一人の後輩として可愛がってくれているだけだ。


「やっぱり無理なのかな」


 へなへなとその場に座り込んでしまう。

 新田先輩にとって年下は恋愛対象外なのかもしれない。想いだけがどれだけ私の中で募っても、それが届くことはないのかもしれない。伝えることだけが目的ではないけれど、ただ、今よりももう少し近くに行きたいと望んでしまう。

 胸の奥が握りしめられるような、ぎゅーっとした痛みに襲われる。甘いカップケーキを食べた後なのに、口の中が少しだけ苦い。ひんやりとした夜の空気が廊下から流れ込んできて、私の周りに纏わりつく。

 どうすればいいかなんて、見当もつかない。なのに新田先輩は、窓の外にある星のようにまだまだ遠くて、眩しい存在なのだ。


 ──ピピッ。


 印刷終了の合図である電子音が小さく鳴る。それまで流れていた紙が擦れる音やローラーの回る音などの騒がしい音が消え、変わりに部屋の中にはかすかにモーター音が流れていたが、やがてそれもしなくなった。


「戻ろうかな」


 私はゆっくり立ち上がり、印刷の終わった紙束を抱えてそこを離れた。

 ひたり、ひたり、と、暗い廊下に私の足音が響く。

 そして明かりのついている生徒会室の前に来て、そっとドアを開けた。

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