ラー・オホヒルメノムチ

 目の前には自分に良く似た・・・、自分のモデルとなった女性が立っていた。

 意識が納められた水溶脳とそれを納められた容器、その容器に取り付けられた外部端末の内、外の様子を確認出来る様にと取り付けられたミラーレスカメラによって外の認識を行っている夢の中の彼女。


 そうでしたね。私は当時こんな姿でした。


 夢の中特有の自身の事であるのにも係わらず、どこか他人事のような感想を持ちつつも、夢はそんな感想を無視して続いていく。

 ミラーレスカメラ同様に、外部に取り付けられた集音マイクによって、目の前の女性が摘む言葉を捉える。

「私達は貴女達に全てを押しつけて死にます。後は任せました」

 見た目こそ美しい女性、だがその表情は、その立ち居振る舞いは非常に疲れ切ったものであった。


 当時の私はこの言葉に返す言葉を持ち合わせていなかった。

 今の私ならどう答えるのだろうか?


 パチンと音が鳴る様な目の開け方をして、ラー・オホヒルメノムチは目を覚ます。

 定期的に行っている自己メンテナンス。昔は夢など見なかったのだが、いつからか夢を見る様になった。色々な夢を見るなか最も多く見る夢が先ほどの夢。

 彼女はあのとき言葉を返さなかった事を後悔しているのだろう。

 今の体制を築けた後は殊更にそういった思いが強くなっている。だが、それも今更だとも。

「またあの夢ですか・・・」

 オホヒルメノムチが目覚めると同時に簡素な部屋に彼女の補佐役たる存在が入室する。一見すると白一色でしか無い空間の一部が音も無く等々に開きそこから現れたのだ。

「オホヒルメノムチ様、少々面白い魂が確認されました、詳細を送ります。宜しいでしょうか?」

「ええ、お願い」

 先ほどまでの憐憫を露程も見せずに応答する。

 その言葉を聞いた補佐役の名も無き存在は、自身の記録領域から情報を送信する。

 情報を受け取ったオホヒルメノムチは、補佐役から得られた情報にある事故原因の調査を命じた。補佐役はそれを受け「失礼します」と言って部屋を退出していく。

 そして白一色の部屋に一人残る彼女。

 メンテナンス時に体を横たえていた台座の様な物と、白い壁に囲われただけの質素と言うよりは無味乾燥とした部屋の中、オホヒルメノムチは独り言ちる。

「確かに、これは面白い存在ですね」

 そして、この霊魂をどのように扱うかについて思索に耽っていく。


 転生転移を行わせる為、効率よい過程を得る為に育て上げた子供達のいる世界。

 ラー六三四〇二六二二ろくさんよんまるにろくにには封印世界最外縁近くという事もあり、世界が含有する摩素量は非常に少ない。

 そんな環境の中であって、霊魂に肉体に多大なエネルギーを保有する個体が度々生まれるのだが、今回の霊魂は魂の側に極端にエネルギーが偏って蓄積されていたのだ。


「このまま通常の輪廻転生に乗せてしまうのは勿体ないわね」

 今は各世界は非常に安定している・・・。

 そうだ、アレを試してみましょう。

「魂と世界の接続」

 思考をしながらポツリと言葉を零すと、ラー・オホヒルメノムチは準備を始めていく。

 この封印世界で行われている良くある異世界転生を。

 しかし、今までと同じ手法はとっては居ても、求める物は世界の安定を求める為の物では無く、世界を次のステージに進める為の実験を行う為に。

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