封印世界ストゥラトゥム・カルパー・テルミヌス ~妖精遊戯篇~

狂信者の末路

「神よ!私に悪魔を討ち滅ぼさんとする力をお与え下さい!」

 宗教家にとって悪魔とは何か。

 善なる者を堕する存在。

 即ち、自身の宗教とは違う者を信じる存在。

「神よ!ご覧下さい。貴方様がお与え下さった試練、見事超えて見せましょう!」

 周囲に鳴り響くのは轟音とそれに伴い訪れる衝撃。

 それは一つだけでは無く絶え間なく訪れている。

 人の身では到底防ぎきれない暴虐の嵐とも言える驚異的な火力の投射量が唯一人の女性、それも少女と表現出来る程の幼さをその面影に残す只一人に浴びせられている。

「神よ!神よ!」

 この攻勢が行われ始めてどれだけの時間が経ったのだろうか。

 光の防殻の内側で直接的な被害を被らんまでも、長時間に渡り膨大な火力の投射に晒され続けている少女は血涙を流しながら神に懇願をし続けていた。また文字通りに血反吐を吐きながら神へと奏上を繰り返していた。

 神を讃える口上が絶えたのだろう。今は只管に神と呼び続ける少女の限界が見え始めていた。

 彼女は良く耐えた。

 なにせ彼女に投射されている砲弾の中には、洋上に存在する戦艦からの射撃さえ含まれていたのだ。そんな中であってさえ彼女は生存し続けていた。

 どれだけ優秀な魔術士なのだろう。

 それと同時に、それだけ優秀な存在が友軍から一切支援無く、この様な状況に追い込まれるというのは、どれ程の事態なのだろう。

 逆説的に判断すれば、だからこそなのかもしれない。

 優秀だからこそ、ここまで追い込まれた。優秀だからこそ、ここまでして排除されようとしているのだろう。


 と、思うのが一般的だと思う。

 だが実際には違う。彼女は優秀では無かった。いや、魔術士としては優秀だったのだが、如何せん感性が一般人に過ぎた。

 戦場に出て来るべき人間では無かったのだ。

 力を持つべき人間では無かったのだ。

 彼女は頼りにするべき友軍に裏切られ、本来打つべき敵と共闘さえ行われ、ここまで追い詰められた。

 それでも尚、神に縋り付き自身の信仰を拠り所にして耐え続けた。

 だが、それももはや限界だろう。

 どんなに優秀でも、個人の力は圧倒的な数の暴力の前には無力だ。


 光り輝く防殻が砕かれ、その細身に暴力が届く。

 彼女の身は散り散りになる筈だったが、神は彼女を見放さなかった。

 彼女はここでは無いどこか遠くに転移した。

「神よ!私をヴァルハラに導いて戴けるのですね!」

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