良くある異世界転生

魔法と科学の国ジェグ

 数多の銀河を股に掛け存在し、様々な異星の種族によって成り立っている国家があった。

 様々な種族が存在するという事は、様々な考え方が存在するという事。そんな国家文明であるが、その治世は非常に穏やかで平和的である。

 過去には確かに戦争というものもあったが、そういった苦難を乗り越える事によって、この文明は一つの国家として纏まる事が出来たのだ。

 そんな超文明とも呼べる国家だが、現状に甘んじる事無く更なる発展を目指し様々な研究開発が行われている。

 国という規模、会社組織という規模、その規模は様々なれど開発競争が行われ続ける中、とある科学者が画期的な発表を科学世界に於いて行った。

 その研究者の名はクラウド・レヴィ=スタラウス。

 彼が発表したのは、静止電位と活動電位を外部へと放出する事によって発生する、今まで確認されているエネルギー・物質とは全く以て異なる性質を持つ、摩訶不思議な物質エネルギー発成の成功例であった。

 これは頭蓋内に投与したナノマシンにより造られる特殊な臓器によって、生成する事が出来るエネルギー発生技術だ。

 一個人辺りで出力出来る物質エネルギーの量はそれほど多くはないものの、複数の銀河を股に掛けて存在するこの文明の人口は正に天文学的数値。故に、自分達をエネルギー源とする事に多少の反発はあったが、最終的には自らをエネルギー源とする事になる。

 そして、安全面と効率双方を考慮した設計思想で新たに造られたナノマシンによって、より効率よく頭蓋内の脳表皮部分での臓器作成技術の確立が、実験レベルから普及レベルにまで引き上げられる。


 摩臓。

 新しく知的種が獲得した臓器は、静的電位と動的電位を効率よく出力し、摩訶不思議な物質エネルギー「摩素」の安定供給を齎した。


 この希代の発表を行ったクラウド・レヴィ=スタラウスという名が、教育機関が使用する教科書に載り、歴史変革の一ページとして認識されるだけの時間が流れると、ナノマシンの投与無しの状態で摩臓を獲得し、摩素を放出する子供達が生まれる事になる。

 そんな子供達の中には、成長と共に放出した摩素を自在に操れる様になる存在も、極一部ではあるが確認される様になる。

 この子供達のナノマシンの投与無しでの摩臓発生のメカニズムと、摩素操作のメカニズムの解明は困難を極めたが、それを解明したものが現れる。

 だが、その者の名が賞賛される事は無く、解明者は投獄される事になった。

 それは何故か。それは子供達を文字通り物と同様な扱いをして実験を行った為である。

 この人体実験を行った者はセンロ・イクーロと言うのだが、そのイクーロの研究成果はセンロ・イクーロの名と、その非人道的な実験内容を秘匿されつつ公開される。

 それは何故か。この数多の犠牲の上での研究内容が非常に有益であったからだ。

 またこの研究の被検体となり保護された子供達は、自然に能力を獲得していた今までの子供達以上の能力を獲得していた。

 その能力の拡張によって子供達が得ていた物は、正に魔法の如き・・・いや、魔法の力だったのだ。

 このあまりにも現実離れした子供達の能力を、イクーロという暴虐な実験をしたという理由で、歴史の陰に葬り去る事が出来なかった国の指導者達は、先にも記した通りに成果だけを公表。これにより魔法の力を手に入れた文明は、更なる飛躍を遂げる事になる。


 世界に子供達の思念が残留した。


 そして無尽蔵に人の意思から漏れ出るエネルギーは世界を蝕む事になる。

 人の飽くなき繁栄への渇望は、摩素になってもそこにこびりつき、残留思念となって空間を漂い始める。子供達の絶望、飽くなき渇望。渇ききり絶たれた望みが空間を漂う。

 しかし、文明の更なる発展に沸き起こる文明人は、誰一人としてこれに気づく事は無かった。

 そして時は流れ、致命的な、戻れないラインを超えてしまう。

 望む心の顕在化。

 この文明の人々は、事ここに至り問題を認識した。

 

 人の飽くなき渇望は、人の子供達の絶望は先を望み、安寧を求め、周囲のあらゆる物を拒絶。物質の分解をし摩素化し吸収する存在へと成り下がり成り上がった。


 初まりは、エネルギー生命体とも呼べるナニカと、そのナニカとの不毛な摩素の奪い合いだった。

 文明側が非接触型の摩素集積機で、ナニカから摩素を奪う事に成功するも、これは多少膨張の遅滞に成功する程度。

 文明側は、この事態を収束させる為に様々な事を模索する中で、致命的な事にやっと気付く。

 自分達が存在する限り、このナニカ得体の知れない物は存在し続けるという事実に。

 そう、今自分達を脅かしている物の正体が、自分達の望みのなれの果てだという事に。


 何もかもを分解し、吸収し、膨張するナニカは得体の知れない物でも何でも無く、自分達自身であるという事に絶望した彼らは、自分達を消去する事を選択する。

 勿論、これに反対する者達が現れるが、これを武力を持って殲滅。


 そして、ナニカ・・・いや、自分達の望みのなれの果ての、望みを叶え続ける為。

 なれの果てを封印する為の術式が開発される。


 封印術式「ストゥラトゥム・カルパー・テルミヌス」。

 これは多階層型封印世界だ。

 そして、これを管理・維持する人造の神。デアエ・エクス・マーキニース。


 封印術式を施し、デアエ・エクス・マーキニースを生み出し管理を任せると、魔法科学国家ジェグの生き残り達は、自らをストゥラトゥム・カルパー・テルミヌスの世界とするべくその身を分解させる。

 こうして、超文明と呼べる魔法と科学によって繁栄した文明は、絶望に打ちひしがれ、渇望に押しつぶされ、その長い歴史の幕を自らの手で下ろしたのだった。


 そこに残されたのは、世界を生み出し続ける封印世界と、それを見守るデアエ・エクス・マーキニース。

 そして、そんな世界を貪り食らう、知的生物の残滓が凝り固まったエネルギー意識体だけだった。

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