【悲報】勇者さん、災厄扱いされてしまう
『人間以外を絶対殺すウィルス』
『クリエイト能力』でつくり出した、
最凶最悪のウィルス兵器。
殺傷力の高い猛毒性がありながら、
空気感染ですぐに広まり、生命力も強い。
人間世界に存在するウィルスでは
まず考えられない極悪な性質。
このウィルスによって、
天我が居る異世界では
もう人間以外の種族は残っていなかった。
あの魔王ですら
既に亡き者となっているのだ。
ミッションクリアを確信する勇者天我。
「これでやっと
元の人間世界に帰れるな
いろいろあったけど、
これはこれで、まぁ
面白かった、かもしれない」
もうそんな感慨にふけっている。
だが、ウィルスは
それほど甘いものではなかった……。
-
勇者天我の前で、
突然人が一人倒れた。
まるでそれが合図であったかのように、
その人間を中心に
円を描いて行くかのように、
人間達が次々と倒れて行く。
「クソッ、なんでだっ!?」
天我自身には抗体はあった。
何故なら『クリエイト能力』で
自らの体からウィルスをつくり出した
張本人であるのだから。
ついには町中の人間達が倒れ、息絶え、
隣町や周辺地域へと広がって行く。
それはあっという間のことで、
天我の『クリエイト能力』で
ワクチンを開発し、
供給する時間さえ与えてはくれない。
ウィルスはすぐに国中の人間に感染し、
さらに隣国へと広がり、
やがて世界中へと広がって行く。
「クソッ、なんでだっ!
人間には絶対感染しなかったはずだっ!」
そう、最初は
人間には絶対感染しないはずだった。
だが、ウィルスは自ら進化したのだ。
人間以外の生命をすべて滅ぼし、
自らの寄生先が無くなった為に、
自らの命をつないで行く為に、
人間にも感染するウィルスへと
進化を遂げたのだった……。
「おいっ! クソババァ!」
転生の間に居る
アリエーネに呼び掛ける天我。
「聞こえてるかっ!?
計画は失敗した、
この世界をリセットしてくれっ!」
負けず嫌いで超強気な天我であったが、
この時だけは、自らが望んだのだ、
この異世界をリセットするようにと。
-
それから、体を完全に浄化された後、
異世界のリセットが完了するまで
一時的に転生の間に戻された天我。
それまで天我のやり方に
許容的だったアリエーネも
さすがに今回の件で、
ちょっと考え直したのかもしれない。
「……天我くん、
もうこういう奇抜な方法で
楽して攻略するような真似は止めて、
地道にコツコツ、レベルアップして
成功法でのクリアを目指してみたらどうかな?
剣の腕前を磨いて、魔法を鍛えて、
レアな武器や防具を揃えて、
共に戦う仲間を集めて、
人間達を率いて戦うような
もうすでに
いろんな能力が使える天我くんなら
きっとそれでもすぐにクリア出来るよ」
確かに、これだけ急成長して
能力を覚醒させている天我であれば、
むしろその方が早いのかもしれない。
天我を思えばこその
アリエーネの助言。
だが、そんな言葉を
素直に受入れる天我ではない。
「おい、クソババァ
いいか、よく聞けよ
クソババァは
楽しようとすることが
悪いみたいに言うけどな
どうすれば効率が良くなって
もっともっと楽が出来るか?
そういうことに
知恵を絞って来たからこそ
俺が居た世界の人間は繁栄してたんだよ
楽することを考えなくなったら、
人間の進歩なんかねえんだよ
ウィルスですら
常に進化し続けてるって言うのによ」
「それにだ、
お前らの言う
本来の正しいやり方と言うのが
どんなものなのかは知らないが
その今までの正攻法とやらが
通用しなくてダメだったから
今この世界は、
こんな酷い有り様に
なっているんじゃあないのか?」
――やだぁ、どうしよう
正論過ぎて、ぐうの音も出ないんですけど
天我は、異世界の慣例に迎合することなしに
あくまで元居た人間世界の
現代人、文明人として、
信念を貫き通すつもりでいる。
核汚染、氷河期、大洪水(海面上昇)、
そしてウィルス。
天我が、人類史に刻まれるような
歴史的な未曾有の危機を参考に
異世界の攻略方法を考えているのは明白。
となれば、
次が大規模戦争という発想になったとしても
おかしくはないはずなのだ。
むしろ世界大戦こそが
人類最大の危機だった
という考えに至っても不思議ではない。
しかしながら、皮肉なことに
これだけ人命を尊重していない勇者にも関わらず、
今のところ大規模戦争だけは
まだ起こしていない。
個々の生命では抗い難い
大いなる災厄をその手段として来た。
人間と魔族達が殺し合う、
そんな業を背負わせることなく
自らがただ一身に業を背負い大虐殺を行う、
もちろんそんな大それたことは
考えてなどいないだろうが、
結果としてはそうなってしまっている。
そう考えると、この勇者自身が
災厄の化身のようなものだ。
そして、彼は破壊者でもある。
『転移強奪』を使っていた過去の勇者が
神々がつくったシステムに抗う
破壊者であったように。
もしかしたら
『転移強奪』の能力が自らの意思で
破壊者である彼を選んだのかもしれない。
天我もまた
既存の枠組みやルール、方法論、やり方、
常識すらまでも打ち壊そうとしている
破壊者に他ならない。
彼が真のエンディングを迎えるのは、
いつの日になるのか……。
【悲報】異世界を知らない勇者さん、うっかり何度も異世界を滅ぼしてしまう ウロノロムロ @yuminokidossun
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