【朗報】勇者さん、やり方を変える

しかばねが転がっている、

至る所に。


魔族や魔物、魔獣、

それだけにとどまらず、

この異世界に存在する

ほぼすべての種族が屍と化して、

今まさに滅びようとしている。


ただ一つ、

人間という種族だけを除いて。



そこかしこに横たわる屍、

すでにその肉が腐っている物も多数。


損傷激しく腐乱している肉塊、

その醜悪なる様と

あまりの腐臭に、

生き残った人間達は恐れおののいた。



最初の内は、

死体に無数の蝿がたかっていたが、

その屍に触れてしばらくすると

その蝿すらも絶命してしまう。


今はその無数の蝿も

すべて地に落ち果てて、

大地の土へと還るのを待つばかり。


空を飛ぶ鳥は地に墜ち、

ドラゴンでさえも

それの前には膝を付き

倒れるしかなかった。


-


「おい、クソババァ!」


異世界に居る勇者天我からの呼び掛けが、

転生の間に居るアリエーネの元へと届く。


  ――!?


  なんで、こっちからの呼び掛けや

  千里眼はつながらないのに


  あっちからの呼び掛けはつながるのよ?

  どうなってるのよ、一体?


「ババァは、人間じゃあないよな?」


  ――はあっ!?

  今更何言ってるのぉ?


  ちょっと、あの子、

  そんなことも分からなくなっちゃったの?


  ボケなの? ボケ老人なの?

  それとも強く頭でも打った?

  とうとう魔王にしばかれちゃった?


  …………。


  私が人間な訳ないじゃないっ!


  ついに私が女神であることを

  疑いはじめたの?


  私が魔王の手先だとでも言いたいの?


  いやぁまぁ、そりゃちょっと

  以前、魔王の強さを力説したことは

  あったけども


  そんなこと未だに根にもってるワケェ?


  …………。


  そうか、とうとう私に

  喧嘩を売る気になったのね?


  いいじゃないのよ

  やってやろうじゃないのよ


  いくら勇者だからって

  女神に勝てるはずないんですからねっ!


失踪した前任者の女神が

過去の勇者と仲違いしたため、

その勇者に消されたという真実を

アリエーネが知る由もない。



「いいか、絶対こっち来んなよ!

絶対だからな! 絶対だぞっ!!」


  ――何よそれ?


  押すなよ、絶対押すなよ、的な

  前フリとかいうやつ?


  …………。


  ま、まさか、あの子、

  いかがわしいこと

  してるんじゃないでしょうね!?


  現地の美少女調達して

  ハーレムつくって

  キャッキャッウフフとか


  げ、げ、現地妻とか……


  ダメよ、ダメダメッ!

  そんなの絶対にダメッ!


  あなた、まだ高校生なんだから

  そんないかがわしいことしちゃ、ダメッ!

  ハレームなんて絶対ダメッ!

  

異世界ハーレムはむしろ

異世界転生のお約束なのだが、

新米女神のアリエーネは

やはりまだよく分かっていないのか。

ちょっと潔癖過ぎるのだろうか。



本当に危険だから来るなと言っているのか、

それともただの前フリなのか、

はたまた異世界ハーレムの隠蔽工作なのか。


しばらくは言われた通りに大人しく

じっとしていたアリエーネだったが、

その後、勇者から何の音沙汰もないので

とうとう痺れを切らす。


いつものように

転生の間から、あの異世界につながる

ゲートを開こうとしたアリエーネ。


だが、その前に突如

巨大なバッテンが顕現して

その行く手を阻止する。


  ――!?

  エェッ!! 何これ!?


  こんなの初めて見たっ!


  女神ですら

  行ったらヤバイってことなの?


  ちょっと!

  一体何しでかしたのよっ、あの子はっ!!


  あの子、最初にあそこで

  核ミサイル撃ちまくったのよ?


  もう三回もあの世界滅ぼしたのよっ?


  それ以上にヤバイこととかあるワケ?

  そんなこと有り得るのかな?


喧嘩を売られたのではないかと

少し疑っていたアリエーネだったが、

さすがにここまで来ると

心配のあまり動揺が隠せない。


-


「おい、クソババァ、

もうじきクリア出来そうだぞ」


ようやく勇者天我から来た連絡に

アリエーネの目からは一筋の涙が。


――女神の涙。


「はぁっ??


ババァ、何泣いてんだ?

頭でも打って、おかしくなったか?


あぁ、それとも、あれか

更年期障害が酷くてツライのか?」


そんな気持ちが、

天我に伝わるはずはなかった。


それが分かるのであれば、

今まで大虐殺を繰り返しては来ないだろう。


  ――アァッ、もうっ!

  心配して損したっ!


  乙女の涙を返せっ、このっ!


今ババァ呼ばわりされていたのに

自分で乙女とか言っちゃうのはどうだろう。


「天我くん、

今度は一体何をやらかしたの?

怒らないから、おねえさんに言ってみて?」


体面上、優しい女神を取繕うアリエーネ、

だがさりげなく

おねえさんアピールが入ってしまっている。


「女神ですら出入禁止になるなんて

よっぽどのことよ?」



「ウィルスの開発に成功した、

名付けて『人間以外を絶対殺すウィルス』だ」


  ――!?


  えっ!?エェッ!?


  ちょっと何よそれ!

  もうそれ、何でもありじゃない!?


  そんな能力あたし付与してないわよ?


  本当なら、そりゃ、

  出入禁止にされるわよ!


「『クリエイト能力』で、

試しにつくってみたら、出来た」


  ――ノリ、軽っ!


  そんな失敗したら

  自分も死ぬような実験、

  よくやったわね?


  頭おかしいの? 馬鹿なの?


無から有をつくり出す『クリエイト能力』、

本来は武器などをつくり出すのに使われるのだが、

そこは常人の発想ではない勇者天我、

そして、これが

掟破りだということすら分かっていない。


ここではそういうものなのだろう

とすら思っている。


知らないということは

最強でもあり、

最凶でもあるのか。


「これまでの天変地異シリーズが

上手くいかなかったからな、

ちょっとやり方を変えてみた」


  ――なんでこう

  極端から極端に行くのかしら、この子





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