第3話

 ホイップクリームみたいな白い雲が、朝の空をおおっています。

「おはよ、千依ちよ

 なっちゃんが小走りに来ました。

「おはよう、なっちゃん」

「うわ、生徒会の人達、ヤバい」

 中学校の正門前には、いつものように生徒会の人達がいます。

 毎朝正門前で挨拶をする生徒会の人達。でも今日は、登校する生徒ひとりひとりが鞄とサブバッグを開け、生徒会の人達がチェックしているように見えます。

「なっちゃん、お菓子どうする?」

「あ、あれね。おばあちゃんにあげた」

 なっちゃんのおばあちゃんは今日、お友達と日帰り旅行に行くのだそうです。なっちゃんが昨日つくったお菓子は、おばあちゃんがお友達に配るのだそうです。なっちゃんは、「おばあちゃんが材料費くれた」と満足そうです。

 生徒会の持ち物検査をクリアーしたなっちゃんは、軽い足取りで玄関に向かいます。

 次は私が持ち物検査される番です。

「おはようございます」

 大人みたいに落ち着いた声が、私に、私なんかにかけられました。心臓が口からとび出しそうです。

 あの生徒会長が、私なんかに挨拶してくれました。

「おはようございます!」

 素直に嬉しいです。

「持ち物検査をします。鞄の中を見せて下さい」

 私は、言われるままに鞄もサブバッグも開けました。

「これは?」

 生徒会長は、サブバッグの中の紙袋を指差します。紙袋は真ん中がビニールになっていて、一目で中身がわかります。

「チョコクランチです」

 私は答えます。

「ミルクチョコと、マシュマロと、ビスケットを固めました」

 生徒会長が驚いたように目をまるくして、それから、優しい眼差しになりました。でも、落ち着きを戻して言います。

「あなたのクラスと名前は」

「1年2組、井俣いのまた千依です!」

「校則に基づき、没収します」

「はい! すみませんでした!」

 チョコクランチは生徒会長の手に渡りました。

 体が一気に軽くなった気がします。私は、なっちゃんを追いかけて玄関に向かいました。



 恋なんて、わかりません。

 つき合うなんて、わかりません。

 憧れと、好きかも、という、ふわふわした気持ちだけです。

 気持ち悪いと思われるかもしれません。

 それでも、やらないで後悔するより、頑張ったことを思い出にしたいです。

 持ち物検査が終わったら、きっと、本人は気づくでしょう。

 チョコクランチの紙袋に貼りつけた、小さなカードとメッセージに。



     🍫   🍫   🍫



『生徒会長 篠田瑛理様


 こんなやり方で、ごめんなさい。

 チョコを渡したかったんです。

 生徒会長は素敵な人です。

 これからも応援しています。


 チョコクランチの人より』



 【「甘々ほろ苦の爆弾」完】

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甘々ほろ苦の爆弾 紺藤 香純 @21109123

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