第2話
女子のグループラインは、明日の持ち物検査の噂で持ちきりです。
『は?』
『持ち物検査って、本当?』
『最悪。バレンタインだって知ってんでしょ?』
『やめてくれって感じ』
『誰からの情報?』
『生徒会書記の西川先輩。今日、塾で喋ってた。生徒会長が独断で実行するって』
『うち、チョコ作っちゃったよ。クラス全員分』
『なっちゃん、まじか……無駄になっちゃった?』
『大丈夫。チョコの個数を減らして個装して、目立たない巾着袋か何かに入れて持って行くから。持ち物チェックされても、「ナプキンです」って嘘つけば、中身まで見られないっしょ』
『なっちゃん天才』
『生徒会長まじでムカつく! あたしもクッキー焼いちゃったよ! 他にもそうゆう人がいるかもしれないのに、苦労がわかんないの?』
『実は、私もラッピングまで済んでる』
『私も……』
『女だからって油断した! 最悪! 選挙のときに投票するんじゃなかった』
私はひとつも発信できず、嵐のように荒れるトークを見ていました。
情報が入り乱れています。国語の読解問題みたいに、まとめたくなります。
バレンタインデーとなる明日、学校で持ち物検査が行われる。
持ち物検査の中心人物は生徒会長。
ただでさえ持ち物検査は嫌なのに、すでにお菓子を用意してしまった人達は、一層嫌だと思っている。
嫌な気持ちの矛先は、生徒会長に向けられる。
……こんな感じでしょうか。
なっちゃん達の気持ちを考えたら、嫌だと思うのもわかります。材料とか時間とか、無駄にしたと思っている人もいるでしょう。もう少し早く情報が流れていれば、材料も時間も無駄にならなかったかもしれません。
意外なのは、先生達ではなく生徒会長が独断で持ち物検査を行うことです。
生徒会長は、頭が良くて真面目で、手際が良くて、先生の言うこともよく聞いて……もしかしたら、先生に言われて断れなかったのかもしれません。もしもそうだったら、生徒会長も気の毒です。
私はお菓子の準備をしなくてよかったと思ってしまいました。バレないだろうとお菓子を持っていったら、生徒会長をはじめとした生徒会の人達に没収されてしまうところです。
皆が心を込めてつくったお菓子は、生徒会に取り上げられてしまう……。
「あ!」
私は頭が良くないし、鈍臭いけれど、いいことを思いつきました。
これからやることは、中学校の成績に響くかもしれません。高校入試の内申点に影響するかもしれません。本人から気持ち悪がられるかもしれません。
でも、後悔したくないです。やらないで後悔するより、頑張ったことを思い出にしたいです。
スマートフォンも宿題も放り出し、私はキッチンに向かいます。
「お姉ちゃん!」
お姉ちゃんは、ガトーショコラと抹茶ケーキを切り分けていました。
甘々ほろ苦な空気を吸い込み、私はお姉ちゃんに聞きます。
「お菓子の材料、まだある?」
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