オーナーのひとりごと
@BARRETTS
オーナーのひとりごと
大学生と連れ立った常連客と、入れ替わりの様に常連のカップルがやって来た。
「いらっしゃい。」
「さっきの方、『運動』してる人だよね?」
笑顔で席へ促す。
「私達には全くわからないから。ねぇ、一緒に暮らす人は辛くないのだろうか?」
二人はまるで自分たちのことのように真剣に考えている。
「あの人も考えがあってのことでしょう。十人十色、千差万別。……さあ、今日は何飲む?」
「MACALLANと、何にする? あとBOW MORE、チェイサーは、水と炭酸をお願いします。」
「はーい。」
ちょうどお持ち帰りの現場を見たら動揺するよね。子供に見えただろうし、鬼畜野郎って思うかな?
「はい。どうぞ。」
二人の前にお酒を置く。
「今回のお相手って、子供じゃないよね?」
やっぱりだ。
「大丈夫。学生証で確認させてもらったけど、成人してるよ。」
「なら、そこは安心だけど、やっぱりお家で待ってる人はどうなるの?って考えちゃう。」
「もし、あの人が養われてる人だったら?お家で待ってる側の人。」
「えっ?囲われてるんですか?」
「うーん。そうではないけど。一緒に暮らし始めて、もう10年ぐらいじゃないかな。二人には二人の形があるんだよ。……あなた達はお互いに浮気をされたら嫌?」
「もちろん!」
二人は声を揃えて言う。かわいいな。
「二人は充実してるの?」
「それが、最近仕事ですれ違いばかりで。ゆっくり話したいからここに来ました。」
「ゆっくりと本心をさらしてね。きちんと目を見て。ごゆっくり。」
このカップルは二人でここに来始めて、もう3年ぐらいだろうか。冷静に話し合うためにやってくる。つまらない事を穿り返したり、お互いにやってくれない事を恨んだりしない。
いい酒を飲みながら、自分の気持ちを吐露し合う。そうして、お互いの理解を深めていくんだ。
そうだよ。人は、どんなに心を尽くしても百%解ってあげることは出来ない。自分なりの百%、その人を理解したにすぎないんだ。
だから相手が自分の想定外のことをすると驚くかもしれない。でもそれは、相手が想定した自分の為にしてくれたことであって、自分勝手な行動ではないのだ。
本人の本心は全然違うところにある。きちんと本人を見なければいけない。
人は、そのすれ違いに、疑心暗鬼になり、時には、心にもない酷いことを言い合ったり、時には沈黙して、お互いの気持ちを押し殺したり、時には、暴力を振るう者もいるだろう。
好きな人がいて、一緒にいられるなら、分かり合えるまで言葉を尽くすしかない。何時間でも。何度でも。このカップルのように。
オーナーのひとりごと @BARRETTS
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます