13話 不可解な点が多すぎて

「掃除も終わったし、買い物に行くか」

「うん、行く!」


掃除が終わり一段落した俺はルリエと出かけることにした。


家を出る直前、俺は重要なことに気付く。それは俺が車を持っていないということ。


本来なら最初に思いつくはずだが、布団を買わなければならないという気持ちが先走り、運ぶ方法を綺麗さっぱり忘れていたのだ。


俺、どうやって運ぶつもりだったんだ?とさっきまでの自分に問いかけるも当然ながら答えは返ってこない。


「龍幻、どうしたの?」


「……」


こうなったら、最終手段……通販。それしかない。


だったら、最初からそうしろよという声も聞こえてきそうだが、俺は通販よりも実際に行って目にした商品を買いたい派なんだ。


今時の若者にしては、さぞかし珍しいタイプの人間に入ることだろう。最近では、クリック一つで……なんて言葉をよく耳にするくらいだからな。


が、しかし、それだと質感や手触り、大きさなどはわからない。実際、届いたら思ってたのと違うという声も少なからずあるわけだし。


基本的に休日は家に引きこもり状態だが、どうしても自分が欲しいものがあると、俺は意外にも行動力があったりする。


「龍幻?心ここに在らずって感じだけど、大丈夫?」


「……大丈夫だ。ルリエ、今日はやっぱり止めな」


「え、行かないの?せっかく龍幻とお出かけできると思って、楽しみにしてたのに」


声をかけられ、ハッとする俺。一番の目的である買い物の予定がキャンセルになったため、俺はルリエに外出することを止めようと提案した。


よっぽど楽しみにしていたのか、俺の言葉を最後まで聞く前にルリエは今にも泣きそうな顔で、こっちを見ていた。


そんな顔をされたら、断ることはできない。


「ルリエ。俺の用事はなくなったから、今日はお前の好きなものでも買いに行かないか?あと夕食の買い出しとか」

「ホント!?行く!ルリエの欲しいもの、なんでも買ってくれるの?」


「待てルリエ。なんでもとは言ってな……」

「わーい!龍幻とお出かけ!デート!!」


……俺の話を聞いてないし。まぁ、ルリエが元気になったから良しとするか。


って、デートだと?


「ルリエ、俺たちは恋人じゃないぞ」

「……?世の中では男女が出かけたらデートって言うらしいよ。龍幻、そんなことも知らないの?」

「……くっ」


無駄な知識ばかり覚えやがって。覚えたての言葉で俺を煽ってくる態度が少しイラッと来るが何も言うまい。


俺は、ルリエよりも年上で大人なんだ。ここで怒ってしまえば相手の思うツボ。年下相手に大人げないことをすれば、今度は挑発されるに決まってる。


幼い子は飲み込みか早いって本当だったんだなと改めて実感する俺であった。


とはいえ、これもデートになるのか。俺は童貞だけど、リア充イベントを体験する。


これは勝ち組といっても過言ではないのでは?


ルリエとは出かけたことはある。でも、男女でどこかに行くことをデートだと言うのなら意識してしまうのが男というもの。妙にソワソワしてしまう。それはまるで遠足に行く前日に眠れないような、そんな感じ。


だけど、また同じ店だと芸がない。それに見つかる可能性だってあるわけだし、近場を選ぶのはよくない。


「ルリエ、今日は電車に乗ってちょっと遠くまで行かないか?」

「ルリエ電車に乗るの初めてかも……。龍幻がそれでいいなら大丈夫!」

「なら、そうしよう」



目的地を決めた俺たちは最寄り駅まで歩くことにした。俺もルリエほどじゃないが、浮かれているのかもしれない。


夜からファミレスだし、近くのコインロッカーに預けてそのままバイト先に向かうとするか。帰りはルリエ一人になってしまうが、多分大丈夫な……はず。やや不安も、といったが不安しかない。


「龍幻はさ、ルリエのこと色々聞いたりしないよね」

「……まぁ、そうだな」


唐突にそんなことを言われた。聞きたいことがないと言ったら嘘になるし、本当は質問したいことも山ほどある。けれど、女の子に色んなことを聞くのは駄目だということを俺は知っている。


それに、誰にも知られたくないこともあるだろうし。俺だって過去のことを探られるのは嫌だ。ルリエに限って、実は壮絶な過去が……とは思わないが、これも俺の推測にしか過ぎない。


「あ、でも一つだけ聞いてもいいか?」

「うん?」


「ルリエの喋り方って誰に教わったんだ?外では普通だし、少し気になってな」


これくらいは大丈夫だろうと、俺はルリエに素朴な疑問を投げかけてみた。


「家でもね?普通なの。ただ魔界学校では、そういう話し方をしなさいって言われたんだ」


「それは……誰に?」


ルリエの表情が一瞬、暗くなった気がした。俺はもしかして地雷を踏んでしまったのではないか?とゴクリと唾を呑み込んだ。


「私の担任の先生。龍幻も知ってるでしょ?電話した女の人」

「あぁ」


「魔界学校は、中学生〜高校生まで担任は一緒でね。最初の頃は普通でも大丈夫だったんだけど、急に喋り方を変えなさいって言われてね?未だにその理由は教えてくれないんだけど、私はそれが不思議でね。けど、子供ぽっく振る舞えば先生は機嫌良いし、私のことも可愛がってくれるんだ」


「……もし、普通に戻したらどうなるんだ?」

「機嫌が悪くなるの。前に一度だけすっごく怒られた。それが怖くて、先生の前だといつもあんな感じなんだ。いつの間にか、それが癖になっちゃってて」


「……」


ルリエが嘘を言っているようには聞こえない。だけど、俺が感じていた違和感の原因が今解決した。最初は優しいと思っていたし、ルリエのことを本気で心配しているんだと声色で伝わってきた。


もちろん、顔を見たわけでも実際に会って会話をしたわけじゃないから、本当はどんな表情で俺と話していたのかはわからない。


電話が切れる直前の言葉。あれはルリエを雑に扱ってるようにしか聞こえなかった。あれから一度も連絡が来ないのがいい証拠かもしれないな。


だけど、教師がルリエにそうしろと言ったのは何故だ?そんな幼稚な口調で喋れば、高校生としては変だろう。


……いや、あえて、そうしようとしている?だが、ルリエの話し方が変わっても教師にメリットがあるとは思えない。


「龍幻、駅に着いたよ。切符?ってどうやって買うの?」

「それはな、ここのボタンを……」


「龍幻、怖い顔してる」

「え?いや、なんでもないんだ。デート楽しもうな」

「うん!」


そういったものの、俺の頭の中はルリエのことでいっぱいだった。


元々この喋り方なんだ!と、いう簡単な答えが返ってくると思っていたから、これは予想外すぎる。正直、何を言えば正解なのか。


頭を撫でて慰める?が、ルリエ本人はデートが今から楽しみで仕方ないといった表情をしている。楽しそうにしているルリエに、これ以上なにかを聞くのは野暮ってものだよな。


俺が教師とコンタクトを取るのは恐らく難しい。けど、ルリエのことを知ってそうな人物に心当たりがある。……暁月がタダで教えるわけないよな。普通に無理だ。


少しでもルリエの助けになればと思ったが、今の俺にはどうすることも出来ないのがじれったい。……って、なんで俺はこんなにもルリエのことで悩んでるんだ。


今はとりあえず一旦置いておこう。


今までのは教師から強制されてやっていたこと。だからこれがルリエの通常ってことになるんだよな。


そう考えると……今のルリエは、あまりにも可愛すぎないか?


いずれ、ルリエのことを子供として見れなくなる日はそう遠くはないのかもしれない。


手を繋いで電車に乗る。隣にいるルリエを見て動悸が速くなるのは、俺がますますロリコンになる前兆ではないだろうか。

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