25話 新たな力
「人間のくせになんで効かないんだ!さっきから攻撃してるってのに!!」
「そういう貴方こそ本当に魔族なんですか?それに魔導書を白銀龍幻から取り上げたところで貴方に使いこなすことは出来ないはず。誰の指示ですか?と聞いたところで貴方が何のメリットも無しに答えるわけありませんよね」
「わかってんじゃねえか。そうだな、答える気はねぇよ。まぁ、俺様を戦意喪失させたらお前の質問に答えてやってもいいぜ。ソイツは俺たち魔族にとって危険だ。今は記憶がないみたいだけどな、思い出したら厄介なんだよ」
(何の話をしてるんだ)
俺のことを話しているはずなのに、俺は何一つわからない。如月先輩は前から俺のことを知っているようだったが、アレンも俺の正体を知っているっていうのか。
如月先輩がアレンの攻撃を防ぐ中、俺は後ろでただ見ているだけ。だが、人間の俺に如月先輩の力になることは出来ないし、ましてやアレンを倒すことは到底不可能だ。
だけど、この気持ちはなんだろう。守られるだけじゃ駄目なんだと、俺自身が言っている。失ってからでは手遅れだと。如月先輩が俺に言っていたことでもある。
俺は何を失い、後悔したんだ?
「如月先輩。俺と同じようなものを持っていますが、それはなんですか。俺が持っているコレと瓜二つで、俺の魔術本と何か関係があるんですか?」
「……やはり、まだ思い出せていないんですね。僕の持っている魔導書と貴方のは同じです。もちろん、力の発動条件や能力は多少異なるところはありますが」
「でも、俺は大学の図書館で借りたんです。今までだって持っていなかったのに」
「それは貴方が必要としなかったから、魔導書もそれを察し、出てくることはなかった。だけど、貴方が召喚したいと思ったからこそ魔導書は再び貴方の前に姿を現したんです」
「……」
俺が魔導書を必要だと思った?そうか、俺はルリエを召喚する際に「召喚する本が欲しい」と願った。けど、そんな都合よく出現するってあり得ることなのか?
俺は大事なことを忘れているんだ。
「減らず口を叩くのも今のうちだぜ、人間。さっきから防御ばかりして攻撃はどうした!実は本調子じゃねぇんだろ、人間様よ」
「……」
「如月先輩、俺のことは放っておいてください。アレンの言うことが本当なら俺はここにいないほうが……」
俺を庇うことで精一杯なんだ。きっと、俺がいなければ如月先輩は全力で戦える。誰かを守りながら戦闘するというのは俺が考えているよりもずっと大変だ。
「白銀龍幻、貴方は馬鹿なんですか?」
「バッ……!この状況で俺に毒を吐くとか酷くないですか」
「むしろ、この状況だからこそ言ってるんですよ。さっきも言ったはずです。貴方は守るべき存在だと。それに貴方は死にたくないと答えた。なら、ここにいてください」
「だけど、俺がいたら邪魔になるだけです!」
最初はアレンに挑発するような言葉を言っていたのに、今では静かだ。それは、ただ冷静に振る舞っているのではなく、限界だから。呼吸が乱れているのがその証拠だ。
魔導書が光るたび、如月先輩が弱っていく。能力を無限に使えるはずがないんだ。俺は戦闘経験がないはずなのに、何故そんなことがわかるんだろう。
「僕が貴方を守りたいという気持ち、伝わりませんか?今の貴方にとって、僕は一度会ったばかりのただの先輩くらいにしか思われてないです。でも、僕にとって貴方は……大切な、大事な友人なんです」
「……如月、先輩」
「どんなに無謀だと、無茶だとわかっていても僕は貴方を守る。前のような失敗を二度としないために」
如月先輩が覚悟を決めたという顔をした。ここまで言われてしまったら、何も言えなくなる。如月先輩は俺を大事な友人だと言った。早く、一刻も早く思い出したい。その記憶を。
「死ぬ覚悟は出来たってか。じゃあ、そろそろ本気の攻撃を食らってもらうぜ。ただの人間にしちゃあ、よくここまで持ちこたえたと褒めてやるぜ」
アレンは右手を前に出すと、呪文を唱えだした。こっちの言語ではない。だが、今までとは違う、あきらかに大きい攻撃を放つ準備をしているのはわかる。
「如月先輩、大きいのが来ます。あれを防ぐほどの力は残ってますか?俺が不甲斐なくて、無力ですみません」
「仮に残っていなくても、貴方だけは全力で守るつもりなので平気です。だから、安心してください」
そんなことを言われたら、安心するどころか心配してしまう。自分の身がどうなってもいいから、俺だけを守ろうとするその意志の強さは一体……大事な友人とはいえ、普通ここまでするものなのか。
如月先輩も攻撃を防ぐため、詠唱し始めた。魔導書の光がさっきよりも輝きが増す。それと同時に如月先輩は吐血した。
「!?如月先輩、俺、支えてますから」
「……助かります」
もう限界ですよね?それなら無理をしないで、と声をかけようと思った。だが、それを言ってしまえば如月先輩がアレンに負けると同義だ。
必死で守ろうとしてる相手に対して使うのは不安にさせる言葉なんかじゃない。
力を使えない俺はただ如月先輩を隣で支えることしか出来ない。だけど、勝ってほしい!と心から願った。
自分の気持ちは、時に仲間の大きな糧となると、誰かに言われた気がしたから。
如月先輩は負けない。いや、俺たちは負けない。
「テメェら人間が魔族である俺様に歯向かうということか、どういうことか教えてやる。今すぐひれ伏せ、人間!!」
アレンの上には、大きな火の玉があった。それは徐々に竜巻の形になっていき、こちらに近付いてくる。
今までは小さな炎の玉を撃っていた。でも、今回のは違う。あんな攻撃をもろに受ければ確実に焼け死ぬ。
「俺、如月先輩に色々言われても、やっぱり思い出すことは出来ません。だけど、俺も如月先輩を守りたいんです。記憶を忘れたまま死ぬなんて死んでも死にきれませんから」
「龍幻……」
「かかってこいよ、魔族」
俺だって男なんだ。いつまでもクヨクヨしていられない。俺は一人じゃない。如月先輩と二人で戦っているんだから。
決意した瞬間、俺の魔術本が輝き始める。
俺の目の前に本は浮かんでいて、パラパラとページを開く。ピタッとページはある場所で止まる。
「炎よ鎮め。清き水よ、我に力を」
朝に読めなかった呪文。俺はそこに書いてある文字を詠唱した。
すると、俺たちの目の前に水の竜が現れ、炎の竜巻に向かっていく。竜はグルグルと竜巻に絡みつく。締め付けるように力はどんどん強くなっていった。
「なんだよ、コレ!!俺様の炎攻撃を止めようってのか!?」
「……っ」
「龍幻!?」
よろける俺に如月先輩はバッ!と危機一髪のところで受け止めた。このままだと頭から地面に直撃するところだった。正直、危なかった。
「急に貧血がして。如月先輩、俺が支えてあげないといけないのに、すみません」
「謝らなくていいんです。でも、こんなに大魔法を使えるなんて驚きました。魔法は体力を使います。それが強い力なら尚更。貴方は体力を消耗しているんですよ」
「なんで俺は力を使えたんですか」
「それは……僕にはわかりません。だけど、どうやら勝敗はついたようです」
炎の竜巻は水の竜に全て飲み込まれ消えた。つまり、アレンの攻撃を防ぐことが出来たということだ。
「龍幻、貴方はつくづく無謀なことをしますね。昔と何も……いえ、以前よりも成長しましたね」
「如月先輩……」
如月先輩は安堵した顔をする。その表情を見て、俺は思わず安心したのか腰を抜かし、その場に座り込んでしまった。
まだ戦いは終わっていない。だが、俺の体力はほとんど残っておらず、それは如月先輩も同じだった。
「よくも俺様の炎を……。だが、今ので魔力は空っぽみたいだなァ。俺様は、あと一撃食らわせる体力は残ってるぜ。勝ちを確信して休むにはまだ早かったようだな、人間」
小声で呟いていたアレンの言葉を俺たちは聞き逃していた。
戦闘経験がない俺は魔族の情報を知らなすぎたんだ。アレンの攻撃を防いだあとすぐに俺たちが安心するには早すぎたんだと、次の瞬間、早々に思い知らされることとなる。
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