22話 友人宅にて

(まさか、如月先輩の言ってる通りになるなんて……)


魔術本を返却しようとしたら「この本はうちの大学の物ではないです」と司書に言われ、「俺は確かにこの大学で借りたんです!」と何度も説明したのだが、結局信じてもらえず図書館を後にした。


検索しても俺が借りた本はヒットすることはなく、魔術本は自宅に持ち帰ることにした。


家に帰ろうかと思ったその時、後ろから「龍幻!」と声をかけられた。


「龍幻、聞こえてるかー!」


「いちいち大声で叫ばなくとも聞こえてる」


俺の名前を呼ぶのはキャンパス内では一人しかいない。友人である導だけだ。姿を見るなり、俺のほうに走ってくる。


人が少ないとはいえ、極力目立つ行動は控えてほしいと思っていてもコイツに伝わることはない。


「導、なんか久しぶりだな。姿は見ていたが、テスト期間が長すぎたせいでまともに話せてなかったな」


導は妙に真面目というか変なこだわりを持っている。学費を払っているのだから、「履修はできるだけしたい」「どこかで必要になるかもしれない!」と言って、かなりの数の講義を受けている。


俺は卒業出来るギリギリのラインしか取得する気はないのに。実はシラバスを見て、出席点やテスト内容が緩そうなものを厳選しているのはここだけの話。


大学生のほとんどが1年の頃はわからずにシラバスを詰めるが、慣れてくる2年からは俺のような学生がいてもおかしくはない。むしろ、大学に通ったことがある人なら共感出来ることだろう。


「龍幻はそんなにテスト期間長くなかったんじゃないか?俺はもうホント、テスト、レポート、テストの連続で疲れたよー。まぁ、今日でそんなテスト地獄からもおさらばしたけど」


「だから、大学にいたのか。って、テスト期間が長いのはお前の話をしてたんだ。俺は、まぁギリギリで卒業出来れば問題ないし。今までの成績だって悪くはなかったしな」


履修が多い分、課題のレポートやらテストが増えるのにコイツはそれでもアニメは欠かさず見ている。元々、優秀なのは1年の頃から知っていたが、未だにそれを続けているのは俺も色々と驚かされる。


「ギリギリだと単位落としたときに4年で困るぞー?あ、それよりも龍幻、お前に聞いてほしいことがあったんだよ!」


ガシッ!と肩を掴まれる。どうやら連日のテストで今日も徹夜明けらしい。テンションが心なしか普段よりも高い。


「あ、あぁ、聞くから……」


友人に久々にあった安心感からなのか、腹がぐうぅぅぅと盛大な音が漏れる。そういえば、朝食がまだだったな。


「もしかして、朝飯抜いてきたのか?じゃあ、俺んちでも来ないか!?話したいことがたくさんあるし、男飯で良ければ作れるぞ!」


「導の手料理、か……」


実はというと、導は何気に料理が上手い。


俺と同じく1人暮らしをしているのだが、親から貰っている小遣いをアニメ関連に使いたいとかで極力自炊をしているとか。1年の頃は時々だが食べに行っていた。


一ヶ月前から同居人が増えた俺は1人暮らしといっていいのか謎だが。お前の好きなロリと暮らしているぞ、といつ打ち明ければいいのかタイミングが難しい。


というか、俺の家に高校生の女の子がいる時点で大分ヤバいのだが、最近はルリエとばかり過ごしているせいで、「これが当たり前の日常」みたいな感覚に陥ってる自分が怖い。


「今から都合が悪いなら予定が空いてる日でも……って、まさか俺と会っていない間にリア充になったのか?そうなんだな!?白状しろ、相手はどのロリっ子だ!!」


「俺はロリっ子に興味は……」


以前までは興味がなかった。確かに見る分には可愛いと感じることはあったが、それ以上の感情を抱くことはなく、導の話も実は半分くらい聞き流していたり。


だけど、最近どこか違うのはルリエとクリスマスにあんな出来事があったからかもしれない。


「大体なんでロリ限定に絞るんだよ……。大学でロリなんて早々いないし」


「龍幻、お前は合法ロリというものを知らないのか!?」


「……そもそもリアルのロリは恋愛対象外だろ、お前の場合は」


「まぁな!って、今は龍幻がリア充になったかどうかの話をしてるんだ。それで、どうなんだ?クリスマスに一皮剥けたりしたのか?」


ニヤニヤと気持ち悪い顔をしながら俺をおちょくってくる導。


クリスマスに童貞卒業出来てるならとっくの昔にしてるわ……と半ば呆れながらため息を吐く。


リア充が一年の中で最も盛り上がる一大イベント、クリスマス。そんな中、陰キャの俺が卒業するなんてそれこそ無理な話だ。


「お前は朝から絶好調だな。テストから解放される達成感で頭の中がお花畑になったのか。いや、元々アホだったか」


「アホとはなんだ!アホとは。龍幻、お前よりは成績が良いのは確かだぞ」


「そういう意味で言ってるんじゃねぇよ……」


今年のクリスマスは性の6時間どころか、炎の中に飛び込み死にそうになった思い出しか残ってない。あれは軽くトラウマレベルだったな。


今思い返しても凄い体験というか、行動力があるって言っていいのか……。


「それで俺の家に飯食いに来るか?」


「……そうだな。たまには悪くないかもな」


「よっしゃー!なら、今日は一日アニメ鑑賞会だな!」


「待て待て。俺は朝食食ったらすぐに帰るからな」


「ちょ、それは聞いてないぞ!?」


「今、言ったからな」


ルリエにはすぐ帰ると言ったものの、コイツと話すのも久しぶりだからな。


出会った頃の幼稚なルリエだったら多少心配する面も大きかったが、今のルリエなら大丈夫だろう。


俺は導と一緒に家に向かった。



「今日はチャーハンにしてみたぞ。余り物で作ったが、味はわりと食えると思うから安心してくれ!空腹状態で冷たい物は良くないって聞くし、飲み物は熱いお茶にしておいた。ってことで、アニメでも見ながら食うか!」


「わざわざ俺のために気を使ってくれてありがとな。いただきます……ん、やっぱり安定して美味いな。久しぶりに食ったが、やっぱり導の料理は店で出してるやつと同じくらい旨いぞ」


「いくら褒めても俺が出せるのは、おかわりくらいだぞ?あ、龍幻はまだ神崎紅先生のアニメは見てなかったよな?俺の妹が世界を救う!?ってやつ。録画してあるのがあるから、これを見ようぜ!」


導も俺に褒められて満更でもない感じだ。誰かに自分の作った料理を美味しいと言われるのは嬉しいよな。


導は俺が黙々と食べてる隣でテレビをつけて予め用意してたアニメを流し始めた。


「一話目からめっちゃ神だから!あ、そうそう。それでお前に話そうと思ってたのがさ。実は神崎紅先生ってウチの大学の学生らしいんだよ。しかも、在学生らしくてな。まぁ、ただのウワサだけど今回のは信ぴょう性は高いぞ。なんたって神崎紅先生と同じ学科の人が言ってた話だからな!」


「へぇ、それは凄い話だな。それで、お前とは気が合いそうなやつだったのか?」


「それがさー。聞いてくれよ、龍幻。神崎紅先生ってリアルでは冷静沈着で常に表情は一定、誰に対しても敬語で、コミニュケーション取るのが難しいらしい。あの俺セカの原作者と思えないほど別人らしい。ロリっ子好きで俺と同じだと思ってたのになぁ……くっ、アテが外れた!!先輩だけど優しくてユーモア溢れる人だとイメージしてたのにぃー!!」


拳を作り、悔しそうな表情を浮かべる導。アニメオタクとはいえ陽キャなコイツはすぐに友達を作ろうとする。というよりは、アニメ友達ってやつだ。


「それで、導はそれを聞いて幻滅したのか?」


「まさか。そんなことあるわけない!俺と同じじゃなくても、きっと隠しているはずだ。オープンオタじゃないだけ。だって、あんなに素晴らしいロリっ子作品を書ける人が微塵もロリに興味が無いわけがない!」


「……」


ポジティブ思考どころか、導の回路は時よりぶっ飛び過ぎていると思うときがある。それと同時に神崎紅先生という人物に俺は心当たりがあった。

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