17話 デートにハプニングはお決まりコース?
「いらっしゃいませ〜。二名様ですね!こちらの席にどうぞ」
店員に案内され、俺たちは席に座った。
適当に入ったものの、客層は女性客が多く、男の俺としては気まずい。
「センパイ。さっきから、まわりばかりキョロキョロ見てどうしたんですか?」
「え?そんなに見てたか?」
「席に座ってから挙動不審っていうか、というより、お店の中に入った瞬間から、少し行動がおかしかったような……」
「それは、男の俺がこんなオシャレなカフェ似合わないだろ?店の外からはわからなかったし、だから……」
後半につれて、ゴニョニョと小声になってしまう。
「フッ、フフッ」
「暁月、なんで笑ってんだよ」
「だって、センパイが面白くて。……大丈夫ですよ、センパイ」
「なにが大丈夫なんだ?」
「私がいるじゃないですか。まわりからはカップルだって思われてるかもですよ?」
「なっ……!」
ガタッと勢いよく立ち上がる俺。あたりはその音に驚き、俺たちのほうに視線を向ける。
ヤバい、逆に目立ってしまった。「お騒がせしてすみません」と一言謝り、腰をおろす。
「お前が変なことを言うから……」
「私のせいだって言うんですか?普段の男らしいセンパイも好きですけど、こういう可愛いセンパイも私は大好きですよ」
「暁月、お前はまた公衆の面前で良くもまぁ小っ恥ずかしいセリフを……」
美少女に好きだと言われるのは悪い気はしない。だが、しかし、暁月はただの後輩で、それ以上の関係になる気は……ないはずだったのに。
こんな風に笑顔を見せてくれる暁月はとても幸せそうに見える。本当に俺とのデートが楽しいんだろう。
だけど、暁月は誰かに脅されている。その正体は俺じゃ検討もつかないし、人間である俺が魔界について知ってる情報はほぼ皆無だ。
このままじゃ、暁月を助けることは無謀に近い。
ルリエのことを知るために暁月のデートを引き受けた。ただ、それだけだったのに。
暁月の心の闇に触れてしまった。知らなくていい領域を知ってしまった。
俺はどうしたらいいんだ?
最初は許せなかった。友人である導の記憶を操ったことが。でも、真実を知ってしまった今、ただ黙って見ることなんて俺にはできない。
「……パイ、センパイ」
「!暁月、どうしたんだ?」
「それはこっちのセリフですよ。さっきから呼んでるのに返事しないでボーッとして、何か考え事ですか?」
「飯のことで悩んでててな……パスタもいいが、オムライスも悪くないなと思って」
「たしかにどのメニューも捨てがたいですよね。全部美味しそうですし」
良かった、なんとか誤魔化せた。と、ホッと胸を下ろす俺。
「……」
「暁月、俺はオムライスにするがお前はどうするんだ?って、暁月は普通の飯も食えるのか?」
「食べれますよ、ただ主食が違うってだけで。私はサンドイッチと紅茶のセットにします」
「わかった。すみません、注文いいですか?」
「はーい!」
「あそこの飯、美味かったな」
「そうですね。センパイ、あの……」
昼食を済ませた俺たちは、水族館のチケットを買うために並んでいた。
オムライスを食べている最中、俺は思い出していた。ルリエが家に来て初めて作った料理のことを。見た目はダークマターそのもので、味もまぁ……想像通りの味だった。
結局、あれがなんの料理なのかは今となっては聞くのが怖い。でも、そんな思い出も懐かしく感じた。ルリエが来て、1ヶ月も経っていないというのに。
「ん?どうした?」
「本当に奢ってもらって良かったんですか?私、センパイの彼女でもないのに」
「いいんだ、俺が先に飯にしようって言ったんだし。それに、俺が美少女とデートなんて一生かかってもできない経験をさせてもらってるんだ。だから気にしなくていい」
ルリエのこともデートが終われば話してくれるだろうから、尚更ここでお金を出さないわけにはいかない。
大体、暁月のせっかくの休日を俺なんかのために使ってもらってるから尚更申し訳ないし。
「び、美少女だなんて、そんな……。センパイの隣には私よりも可愛い子いるでしょ?例えばルリエちゃんとか」
「なんで、ここでルリエが出てくるんだ」
「これでもヤキモチ妬いてるんです。センパイは私のことを女として見てなくても、私はセンパイを一人の男として見てるんですから。私の愛情表現は気付きにくいかもしれないですけど」
忘れてたわけじゃない。暁月が俺に好意を抱いてくれているのはデートをする前から知っていた。
「気付いてるさ。それこそ、痛いくらいに毎日視線が……ルリエと会話してる時だって、近くで見てたんだろ?」
「そうですよ。複雑な気持ちでしたけど。でも……」
「……」
その先は聞いてはいけないと思った。
俺のことをただ好きで見ているとは違うんだよな。
「せっかくデートを楽しもうとしてるのに、重苦しい空気を出して悪かった。チケット買ったから中に入るか」
「いえ、私はセンパイとならどんな会話の内容でも嬉しいですよ。はい!入りましょうか。って、またセンパイは私の分のチケットまで……!」
「だから、気にしなくていいんだ。今日の分は出させてくれ」
「もう……こんなことされたら、もっとセンパイのこと好きになっちゃいますよ」
耳まで真っ赤に染まる暁月は本当に恋する乙女の顔を浮かべていた。
「水族館、綺麗でした。お魚さんたちが自由に泳いでるところなんて特に……」
「暁月、先に出て水族館出口で待っててくれないか?」
「え?はい、わかりました」
何故?といった表情を見せ、暁月はゲートを出る。
「これのほうがいいか?それとも、こっちか?」
俺はお土産コーナーにて、ルリエと暁月に渡すプレゼントを探していた。
ルリエには今回留守電させたせめてもの……導の家に行くのに水族館関連って怪しまれそうだが、導と行ったって言えばいいか。
暁月は一日付き合わせたお礼と、元気がなかったから……って、原因は間違いなく俺にあるんだろうけど。
「いやっ!やめてください!!」
店の外から女の叫び声が聞こえる。嫌な予感がする。
「何あれ?ナンパ?」
「私たちじゃ助けに行けない。警察呼んだ方がいいのかしら」
ザワザワとあたりが騒ぎ始める。
「まさか、暁月!?くそっ!」
俺は走り出した。
あれは、暁月の声だった。あんなに声を荒らげるなんてよっぽどだ。
「お姉さん、どうせ一人なんでしょ?見栄張らないで俺たちとどっか行こうよ」
「だから待ってる人がいるんです!」
「それって彼氏?のわりに来ねぇじゃん」
「俺たちと楽しいことでもしよ。そんな格好してるってことは誘ってるんでしょ?」
「これは……センパイのためにオシャレを。お願いですから、触らないでくださ……」
「待たせて悪い。羽音華」
グイッと暁月を自分のほうに引き寄せる。
草食系男子が多い中、今どきナンパなんて都市伝説並だと思っていたが忘れていた。暁月は美少女。
少なくなったとはいえ、肉食男子も存在しているわけで……。
「センパ……っ、ありがとうございます」
「テメェ、そいつの彼氏か!?アァ!?」
「お前たちこそ、この子に何の用だ?」
相手は三人。ここは逃げるが勝ちだが、囲まれてる以上、無傷で逃げ出すのは無理だ。
「俺たちは暇してんだよ。どうせ身体目的で付き合ったんだろ?俺らに貸せよ」
「それ……本気で言ってるのか?」
プツリ。俺のなにかが切れる音がする。
「は?(笑)マヂギレしてんの、怖ァ」
「俺ら三人に勝てると思ってんの?」
「ボコられるのがお前のオチです、ってな」
「好きなだけ殴ればいいだろ。それでお前らの気が済むなら……」
正直、手を出す喧嘩になれば俺が100%負ける。それははなから分かってることだ。
俺が弱気な発言をするや否や、ナンパ男たちはギャハハとバカにしたような笑いで俺を見下す。
好きに笑えばいい。俺は暁月に手を出されないなら、俺はどうなっても構わない。
「美少女ちゃんも、俺たちの方がいいよねぇ?」
「こんな優男、彼氏にするなんて勿体ないよ」
「君の株まで落ちちゃうよ、ほらこっちおいでよ」
「センパイは、優しくて強い男性です!」
「美少女ちゃん、もしかして震えてる?」
「必死に否定してても恐怖は隠しきれないってか」
「……」
駄目だ。このままじゃ、埒が明かない。
暁月を守りたい。俺はこいつの先輩なんだ。
こんな奴らに負けたくない。
「お前ら、いい加減にしろ!!!」
俺が手を出そうとした瞬間、猛烈な雨が降り出した。
「いてぇぇぇ!」
「なんだこれぇ!?普通の雨じゃねぇぞ!!」
「今日は運が良かったと思え!」
ナンパ男たちは一目散に逃げていく。
その雨はたしかに普通の雨じゃなかった。
氷のような、雹のような大きな塊がナンパ男たちを襲う。
だけど、それ以上に不思議だったのが、
「センパイは大丈夫ですか?」
「あぁ、俺は平気だ。暁月も怪我がなくて良かった」
雹はナンパ男たちにしか襲いかからなかったということ。
「来るのが遅くて悪い。あと、一人にしてしまって本当に申し訳ない……」
「私はセンパイが助けに来てくれるだけで……それに彼氏のフリで名前まで呼んでくれたので、私はそれがラッキーっていうか」
「あんなにひつこいナンパ男だったのに、ラッキーってお前……って、なんか視界が……」
「センパイ!?」
突然、妙な倦怠感に襲われた。
それに意識が遠のいていく。
これは一体なんなんだ?
俺の意識はそこでプツリと途切れた。
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