夏祭り
「今日は、夏祭りかぁ。そろそろ行くとするから。」
時計の針が5時30分を回っているのを確認して、着物に着替えて夏祭り会場に向かった。今日は夏帆と一緒に行く約束をした夏祭り当日であった。夏祭りの会場は、こないだ初めて夏帆と話した神社であった。
夏帆と約束をした時間は、6時であった。その時間までに神社にたどり着けばいいため、少し早い気はしたが待たせるよりはいいと思い早めに家を出た。神社についたのは、5時45分頃であった。待ち合わせ時間までまだ時間があったのでその場に座って待っていた。「お待たせ。待った?」
女の子の優しい声がした。その声の方に顔を上げると、その位置に夏帆がいた。夏帆が来た時間は5時55分頃であった。お互いに待ち合わせ時間よりも早い時間についた。
「6時前だから、気にしないでいいよ。」
「そう。それと、浴衣似合っていると思う?」
隆二は夏帆が浴衣姿になっていることは、さっき確認していた。夏帆のお浴衣姿がとても似合っており、言葉が出なかった。それはまるで、世界一美しい花を見てしまいその花にくぎ付けになってしまったように声など発する余裕が今の隆二にはなかった。
夏帆の浴衣は、水色で紫陽花の花が描かれた物を着ていた。長い髪を後ろで結んで、ポニーテールにしていた。更に、少し化粧をしていた。そのせいか、少しセクシーさが際立っていた。
「似合ってるよ。すごく可愛い。」
唐突に隆二の口から出た。そのことが、恥ずかしかったのか分からないが、夏帆は隆二がいる方向と逆に向いて顔を両手で少しの間覆い隠していた。なぜ隠しているのかを隆二にはわからなかった。
「大丈夫?」
「大丈夫だから、出店回ろ。」
そう言って、夏帆は隆二の手を引っ張り先に進んだ。出店にはりんご飴や焼きそば、焼きとうもろこしなどの食べ物が売られていたり、金魚すくいや型抜き、射的などの楽しめる出店もあった。
まず初めに出店の中で訪れたのは、りんご飴を売っている出店であった。
「いらっしゃい。おぉ、若いね。」
「二つください。」
隆二はりんご飴を売っているお爺さんに、値段を聞いて払った。りんご飴にかかった金額は、200円であった。払って店を後にするときお爺さんは『頑張れよ、兄ちゃん』と言って右手をグッとの形にした。
買ったりんご飴を夏帆に渡した。夏帆がりんご飴を食べているのをちらと見ると、少しエロかった。舌を使ってなめまわし小さくかぶりついていた。その様子を見た隆二は妙な気分になった。
「隆二は食べないの?食べないなら…。次ここ行きたい。」
何かを途中で言いかけ、次の出店へと向かった。次の出店はたこ焼き屋であった。隆二はまだりんご飴が残っていたため、たこ焼きを夏帆の分だけ買った。たこ焼きは8個入りで300円であった。たこ焼きを食べながら歩き始めた。夏帆が四つ目を食べようとしたとき、隆二のことを突っついた。
「どうしたの、夏帆?」
夏帆がどうして突っついたのか気になり、夏帆の方に振り返った。すると、口の中にりんご飴とはまた別の温かくて柔らかい物が入ってきた。それは、たこ焼きであった。隆二はそのたこ焼きが口に入っていると自覚した時、とても体温が上がった。
「こ、こ、こ、これは間接キスというものなのか?」
隆二は心の中で思っていた。そんな調子で出店を回った。花火が始まるまでまだ時間があった。この祭りは毎年最後の方に花火を打ち上げる。この祭りは花火大会と呼ぶ人も少なくないが、ポスターに記載されているのは夏祭りとなっている。
そのため、花火がよく見えやすいところを探すことにした。探すため一時的に二手に分かれた。見つけたら電話をすると言って探し始めた。5分位した後、夏帆から電話がかかってきた。
「たすけて…」
電話に出ると一言だけいい切れてしまった。明らかに異常であった。その声はとてもは震えていた。何かに追われて、怯える声であった。その声を隆二は聴いたことがあった。それは、あの日襲われそうになっていた女の声であった。そのことを思い出した隆二は探すために最後に分かれた方向に行って探し始めた。何分くらい探しただろうか、まだ見つからなかった。
「何処にいる?」
操作がしていると、少し先に人影が見えた。神にすがる思いでその方向に行った。すると、どこかで見た浴衣姿の少女がいた。それは、夏帆であった。夏帆の周りには何人もの男が夏帆をかこっていた。
「夏帆!」
隆二がそう叫ぶと、夏帆や周りにいた男たちもの隆二の存在に気づいた。だが、夏帆は少しいや、物凄く不安になっていた。それは、隆二一人で勝てるような人数と思っていないからであった。
「今助けてやる。」
「お兄さん、ヒーローっすね。女のためにわざわざ飛び込んでくるなんて馬鹿っすね。」
「俺は、バカだ。だから、少し待て。」
そう言って隆二は浴衣を脱ぎ始めた。そして、シャツとパンツ姿になった。何故なら、浴衣姿だと動きづらいためであった。脱ぎ終わると同時にナイフで攻撃を始めた。隆二はナイフで攻撃をしてくるものの腕を折った。そして、地面に落ちたナイフを広い髪をかき上げた。その仕草に驚いている者が何名かいた。
「お、お前はあの桜丘高校の剛田たちを倒した、桐生隆二だな。う、嘘だろ。お前ら早くずらかるぞ。」
「逃がすわけないだろ。俺の友達違うな。俺の大切な人をこんなにも怖い思いをさせたんだから、許すわけがないんだよ。」
隆二は逃げなかった者たちを動けないように、両腕両脚を折って夏帆を助けた。隆二は自分のせいでこんなにも他の人達に迷惑がかかると思うと、やはり一人でいるのがいいのかと心の中で思った。そして少し隆二は寂しそうな顔になっていた。
「隆二、助けてくれてありがとう。隆二は私は…」
何かを言いかけたが、花火が打ちあがった。打ちあがった花火の音で何を言ったか聞き取ることができなかった。そのことに気づいた夏帆は顔を赤らめて隆二の方から隆二いる逆の方向を向いた。
「ねぇ、夏帆。」
夏帆と呼んで、こちらに振り向かせた。そして、何も言わずに隆二は夏帆の前に行き顔に左手を添えて口づけをした。
「うん?!」
微かに声を漏らすのと同時に口づけをされた事で、鼓動が早くなっていた。それは、隆二も同じであった。隆二はなぜこのようなことをしてしまったのかは、分からなかった。
1分位口づけをしていた。口づけをしていた後、隆二は夏帆に言った。
「夏帆、君のことが好きだ。」
そう言うと夏帆は嬉しそうにうんと頷いた。そうして、二人は恋人になった。この時、二人は初めて恋愛というものをした。お互いは、恋愛というものを知らなかった。隆二は見た目から。夏帆は容姿端麗で文武両道のため、誰にも告白をされたことも、異性を好きになったことすらなかったのだ。
「隆二に一つ聞きたいことがあるんだ。君の初恋はどんな味だった?」
そう笑顔に言って、花火を夏帆と手をつなぎながら一緒に見ていた。それが、今まで生きてきた中で、一番の夏の思い出であった。
君の初恋は、どんな味だった? 永遠莉華 @Nobesan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます