第3話 解説回【底の見えぬ者同士】

 両者共に、初手から間髪を容れずに飛び掛かる。


『まず仕掛けたのは、紅姫選手!!シンデレラ選手の懐へ飛び込むと、その勢いを殺すことなく手にした沙華の枝を振り下ろす!!』


 ドスッ!! 鈍い音が響き渡る。


 しかし、それはシンデレラの頭上に振り下ろされたはずの枝が、地面に突き刺さった音だった。


『そして、その一瞬後には……なんと、闘姫場が早くも半壊したぞ!!凄まじい威力だ~!!』


 解説員Bが冷静に状況を伝える。


『|ふむ、これは……中々に手強い相手ですね。油断していると、あっという間にやられてしまいますね』


『おぉっと!?実況席からも感嘆の声が漏れたぞ~!!』


『どうやら、早くも注目株同士の戦いとなったようだ~!』


『紅姫選手は、そのまま何度もシンデレラ選手へと攻撃を繰り出すが、全く掠める気配すらありません!!』


『まさに紙一重……否、といった様子で、全てを避けきっている。これが実力者同士の戦いという物なのか~!!』


『更には攻撃の合間に時折、化粧直しをする余裕だぞ!!』


『おお~っと!!今度は、まるで舞うような美しい動きからの一撃だ~!!』


 解説員Aの熱気に対してBは違う視点から切り込む。


『なるほど……この紅姫選手の高速連撃のパターンは相手の隙を見極め、そこをつく事に重点を置いているようですね』


『なるほ……ど?』


『ん?どうかされましたか?』


『いや、ちょっと待てよ。解説の旦那Aさんよ。確かに紅姫選手の実力は相当なものだけど、それでもシンデレラ選手の方は、まだ一度も手を出していないんだぜ?』


『つまり、どういうことなんだい!?』


『簡単なことですよ。彼女の実力は、まだほんの一握りも出してはないと言うことでしょう』


『な、な、な、なんですとーーー!?』


『シンデレラ選手が僅かに動きを見せると、紅姫選手は、それを察知するように攻撃を止めて回避行動に移っている。実に素晴らしい反応速度です』


『おっと!?シンデレラ選手の姿が、突然消えたぞ~!?』


『|あれはもしかして……噂に名高い魔法ですか!?』


『いえ、違いますね。恐らくはただの超高速移動でしょう。残像がちらりと見えましたから』


『なにぃいい!?』


『そ、そんなバカな!!あのシンデレラ選手の動きは、明らかに常人のレベルを超えているぞ!!』


『そうですか? 私には、そこまで驚くほどの事でも無いように思えますが……ほら見てくださいよ』


『なぁにぃぃ! 紅姫ちゃんも消えたぞ!一体どこに行ったんだぁあぁあ!?』


 解説員であるAは雄叫びを上げ右往左往する。

 観客も同様に両選手を見失ったようだ。


 しかし、解説員Bは腕を組んだまま一点を見つめていた――上空だ。


『やはり……。そちらでしたか。あ、また現れたね』


『くぅうう!!またしても見失った!!だが、次は逃さないぞ!!』


 血眼になって追いかけるが、思考も視線も常人では追いつかなかった。


『今度は、あちらの方角から……来ますね』


『何ィイイッ!? またしても先回りされているだと~!?』


『な、なんてスピードだ!! おいBさん!まるで次の挙動が見えているみたいじゃないか!!』


『それに、あの身のこなしは尋常じゃない!! 一体、どんな鍛え方をしたらああなるですか!!』


『おぉっと、ここで漸くシンデレラ選手の姿が見え始めたぞ~!!』


 リング場に降り立つ両者。

 何やら会話をしているようだ。


「さっきから避けてばかりだな。まるでお前の人生を見ているようだ。弱虫の灰被り女め」


「ふふっ、生憎様ですね。一夜で一国を滅ぼし、傷心する不幸自慢のメンヘラさん」



「「フフフフフフッあはははははっ!」」


 知略を必要とせぬ舌戦。

 先に動き出したのは防戦一方だったシンデレラだった。


 あまりにも速い動きは紅姫を貫く白い閃光とって襲いかかる。


『おぉっと、紅姫ちゃん、シンデレラ選手の拳をもろに受けてしまったぁああ!!』


『しかも、かなりの衝撃のようで、大きく吹き飛ばされてしまいましたね』


『おい、大丈夫なのか~!!』


 早すぎる決着に落胆する声もチラホラ起こる。

 中には観客席から物を投げる輩も現れた。


『おぉっと、罵詈雑言も沸き上がっていますが、皆様ご安心ください!』


『よく見ると、紅姫ちゃんは無傷の様子だ~!!』


『どうやら、咄嵯に沙華の枝を前に出して、ガードしていたようですね。それにしてもあまりダメージを受けずに済んでいるとは……』


『流石は紅姫選手と言ったところでしょうか。見事なカウンターを繰り出してきましたね』


『しかし、今の攻防を見ている限り、シンデレラ選手の方も、まだまだ余力を残している様子だ!!』


 汗一つ見せず余裕の笑みで埃を払うシンデレラ。

 対する紅姫は沙華の枝をクルクルと掌で回している。


 両姫の闘いはまだ始まったばかりだった。


 ☆


 次回へ続く

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