もふもふ大賢者の弟子〜聖女を目指していた私ですが、木登りして弓を構えちゃってます。楽し過ぎる森林生活!~
うみ
第1話 パーティを首になりました
「逃げるぞ!」
リーダーの掛け声でパーティの人たちが全速力で逃げていく。
だけど、私は腰が抜けてしまい動けずにいた。
初心者の私にでもわかる。圧倒的な気配に気圧されてしまって、体が言う事を聞かないの。
ど、どうしよう。
繁みがガサガサと動き、気配の主が姿を見せた。
「ひ、ひい……」
ペタンと地面にお尻を着けたまま情けない声しかでない私……。
一方気配の主は堂々としたものだ。
白と黒のまだら模様のふさふさの毛を持ち、ずんぐりむっくりした体躯は熊に似る。
熊より丸みを帯びていて、つぶらな瞳とむにゅっとした足先が結構可愛い……と思う。
な、何を考えているんだろう……私。
熊もよくよく見てみるともふもふしていて可愛いのよね。
だ、ダメだ。もう何を考えているのか訳が分からなくなってきちゃったみたい。
「ポーチに仕舞いこんでいる『笹』を全部放り投げろ!」
どこからともなく声がしてきて、首を左右に振って見まわしてみたけど、姿を確認することはできなかった。
そうこうしている間にも、白黒の熊みたいなモンスターがのっしのっしとこちらに迫ってくる。
「はやくしろ!」
「う、うん……」
このまま座して待っていても何も変わらない。だったら、声に従ってみよう。
ポーチの中に手を突っ込み、笹を入れた袋ごと白黒熊に向け放り投げる。
カサリ。
乾いた音を立て地面に落ちる笹が入った袋。
すると、白黒熊は口で袋を咥えてくるりと踵を返しゆっくりと立ち去っていく。
「た、助かった……」
ペタンと座り込んだまま、はあああと大きく息をはいた。
二度、三度呼吸を繰り返すと、ちょっとだけ心臓のどきどきが収まる。
あ、そうじゃなくて。
あの声の人に。
「ありがとうございました!」
大木の枝辺りから声がしたような……でも、声の主から返答はなかったの。
声だけだとどんな人なのか分からない。だけど、たぶん若い男の人なんじゃないかなと思う。
男の人にしては少し高めの、姿さえ見ることができなかった声の主に心の中でもう一度「ありがとうございます」と感謝の意を述べる。
「ゆっくりと座っていてはいけないよね……」
危険な目にあったばかりだというのに、自分の危機感の無さに呆れてしまい「はああ」と落ち込んでしまう。
両手を地面について、お尻をあげようと……こ、腰が抜けちゃって立てないや……。
で、でも動かなきゃ。
四つん這いになって近くの木の幹へ両手を伸ばしはりつく。
「う、うーん。い、いたたた」
腕の力だけで体を起こし、お尻を木の幹に預けて無理やり体を伸ばす。
よ、よっし。
腰を手で押さえながら、一歩動く。
それだけで額から脂汗がでてきて、ぶるりと肩が震えてしまう。肩の動きに合わせて肩口くらいまでの短い髪が揺れる。
こ、こんな時は何か別のことを考えたら気がまぎれると誰かが言っていた……と思う。
「で、でもおお」
腰に当てた手に力を入れてしまったら、更なる痛みが!
もう一方の手で思いっきり額を握りしめるとベッタリと手に汗が付着する。
せっかく虎の子の石鹸を使って綺麗にしてきたのに……。私は自分の髪の毛と目の色が気に入っていない。
どこにでもいるような明るい茶色なんだもの。
銀髪とかだったらカッコいいのになあ……。でも、カッコよくなるのはそれだけじゃあ難しいかも。
だって、たれ目で背も低い私が髪の毛の色だけクールでも、他がね。
「お、おさまってきた。あ、ありがとうございました!」
ペコリとその場で深々と頭を下げ、この場を後にする。
◇◇◇
「はああ……また首になっちゃった……」
ほうほうのていで街の冒険者ギルドまで戻ったら、ギルドのお姉さんから「私がパーティを首になったこと」を告げられた。
リーダーはバツが悪いのか私と会わずに彼女へ告げることにしたみたい。
ちゃんと理由まで教えてくれたんだ……。
『いざという時に腰を抜かして逃げることができない人は危なくて連れていくことはできない。他のパーティメンバーまで危機に陥ってしまう』
うん。何で! って食い下がる気になんてなれなかった。
その通りだもの。リーダーは私が生きて帰ってくることができるって思っていたのかな?
あの場で逃げおくれた……ううん、地面に座り込んでいた私のあの後を普通に想像したら。
こ、これ以上考えるのはやめよう。うん!
さああっと血の気が引いた私はグッと拳を握りしめ、ふるふると首を振る。
リーダーが何を思って私に「首」という伝言を残したのかは分からない。だけど、首になったという事実だけ分かればいいや。
落ち込んでいても仕方ない私はギルドのお姉さんに「パーティの募集があれば教えて欲しい」と告げて、採集依頼を受けた。
回復術師というパーティで重宝されることが多い職業に就いている私だけど、傷を癒す魔法がまだ使えないんだ……だから、今回首になったパーティでも雑用係として参加させてもらっていた。
パーティではお料理に荷物持ちが主な仕事だったの。
「こ、このままじゃ。冒険者としてやっていくのは難しいかなあ……。でも私は回復術師から聖女にランクアップして……それで、それで。秘宝を見つけちゃったりして! なんてことになったり!」
妄想に華が咲き、表情をくるくる変えつつハッとなる。
私は今、街の外に出てきているんだった。
街道を歩いているとはいえ、いつモンスターが姿を現してもおかしくない。ちゃんと警戒しながら歩かなきゃ。
そのままてくてくと歩き、街道をそれ進むこと40分ほど。
白黒熊に出会った「魔の森」入口まで到着した。
「ぜ、絶対に入り口付近から奥に行っちゃダメだよ。私!」
魔の森は人間を一口で食べちゃうくらい危険なモンスターが多数生息している。
だけど、奥に行かなきゃ大丈夫。
私の場合、狼くらいなら何とかなるけどそれ以上になると辛いんだ……。護身術くらいは学んでいるんだけど、情けないことに剣は重すぎて振るうことができないし。
だから、獲物は大振りのナイフを使っている。
でもナイフって便利なんだ。だって、これがあれば枝だって落とすことができるの。
じっと魔の森の木々を見つめていたら、タラリと冷や汗が流れゴクリと喉がなる。
「い、一旦落ち着こう。焦っちゃ大失敗しちゃうから」
採集依頼のために、お茶と固い丸パン、指先くらいの大きさの干し肉を買ってきたんだから。
節約……ううん、お金が心元無さ過ぎたから、一番安いお茶、パン、肉というちょっと悲しい品揃えだけど。
その場で座り、簡易燃料を地面に置いて、火打石で火を付ける。
小さなお鍋に水筒から水を注ぎ、買ってきたお茶を。
「に、においがきつい、ね。これ……。つーんとする」
ひょっとしてこれ、腐っているんじゃ……。なんてことが頭をよぎるが、お金を払った手前一度も飲まずにいられるかとそのままぐつぐつするまでしばらくの間、お鍋を見守る。
湯だったお鍋につーんとするお茶を入れて。
「も、もっとにおいがきつくなってきちゃったじゃない!」
こ、これはちょっと飲むのは、しんどいかも。
その時、突然声をかけられたんだ。
「それ、俺にも飲ませてくれないか?」
「え?」
声のした方に目を向けてみたけど、誰もいない。
うーんと首を捻り、左右を見渡してみたけど、やっぱり誰もいなかった。
でもこの声、どこかで聞いたような気がする。
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