踏み出した一歩の先
ちえ。
踏み出した一歩の先
幼馴染の友花が、学校一のイケメンに告白されたらしい。
友花は可愛いだとか美人というよりも愛嬌があるタイプで、もうすぐ18歳という今もクラスの男子に混じってばか騒ぎするような子だ。だけどさりげなく優しさや気遣いをみせる女らしさもある。流し見ればただの賑やかし要員だが、イケメンは友花に気づき、惹かれて、まだ人通りのある帰り道で告白したのだそうだ。このイケメンは近場の中学から卒業生のお姉様にまで人気があって、彼女ができたという噂は瞬く間に広まった。
俺の方が、ずっと前から友花の事が好きだったのに。
友花は同じマンションで三戸の隣。出会ったのは乳児の時、同じ年の子供がいたと母同士が仲良くなったらしい。
当然そんな出会いは覚えてないが、恋に落ちた瞬間は覚えている。
小学三年生。滑り台から顔面ダイブした俺が、あちこち痛くて鼻血を流して途方に暮れていた時に、慌てて手を引いていき、手当てして、親の迎えまで呼んでくれた。心配しながらまるで自分が痛いみたいに顔を歪め、必死に俺の為に手を尽くしてくれた友花が天使に見えた。
俺と友花は幼馴染で、昔も今も仲がいい。この気持ちが恋愛だと自覚する程に募る切なさはあったけど、今の関係性に満足もしていた。
だけど友花が誰かの彼女になると思えば、心臓をわし掴まれたように痛かった。息ができない、そう思った。
偶然一緒になった帰り道、普段通りの友花の顔を見れない。訝しがる彼女におずおずと口を開く。
「告白されたんだって?付き合うんだ?」
友花は僅かに間を置いて何か言おうとしたが、聞きたくなくて俺は言葉を遮った。
「お似合いかもな。でも、でもさ、」
この幼馴染を失うかもしれなくても、止められない。
「やっぱり付き合うなよ、俺の方がずっとお前のこと好きなんだから。」
自信なんてない。イケメンに勝てるものもない。踏み出す勇気もずっとなかった。
でも、なかったことにできない程好きなんだ。
ただただ気持ちに突き動かされ、俺はその一歩を踏み出した。
「ねぇ、そんなとこでまごついてたの、早く行こう?」
呆れたように笑い俺の手を引く友花は、今日最高に美しい。純白のタキシードの似合わない俺を見てはにかむ友花は、清楚な白のドレスを着こなしている、ずっと前から変わらない俺の天使だ。
踏み出した一歩の先にこれ程の幸せが待ってるなんて想像もできなかった。
今は友花の隣に並んで、この幸福な結末を大切にすることを全てに誓う。
踏み出した一歩の先 ちえ。 @chiesabu
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