週末の電話越しに

 わたしたちはきまって授業が終わる金曜日の夜に電話をする。一週間お疲れ様、今週はどんなことがあって、これが面白くて、なんて他愛もない話をすることが多いが、何しろ週末の夜、二人とも疲れていることが多い。


 たまに、電話を始めて数十分後には二人とも沈黙してしまって、そのまま寝てしまうこともある。どちらが先に寝てしまうことが多いかというと、それはもちろん(?)わたしである。


 トウマは夜型で遅い時間に起きていて朝も遅い時間のことが多いらしく(特に今はオンライン授業だからなおさら)、基本寝落ち電話の翌朝起きるのはわたしのほうが早い。おはよぉ、と声をかけると、すごく眠そうな声ながら、おはよぉと返してくれる。わたしは寝ている最中嵐が来ようがネコちゃんが鳴きわめこうが、絶っっっっ対に起きないので、まだ眠い時間に電話からの声で返事してくれるなんて、最初はびっくりしてしまった。


 トウマは、「カヤの眠りが深すぎるだけやん」と言って笑うのだが、わたしから言わせればトウマの眠りが浅すぎて心配である。彼はよく夢を見るというのでどんな夢か聞いたら、悪夢ばかりだと言う。内容もなかなか怖いので、本当にわたしのぐっすり睡眠を分けてあげたい、と思うのだ。


 またまた、時にはこんなこともある。

 実はわたしは、自分でも訳も分からず落ち込むことがある。何が悲しいのかわからないけど悲しい、何がダメなのかわからないけど自分はダメな人間な気がする……

 そんなふうに弱気になっているときに、電話中なのにため息ばかりついてしまって、彼に心配をかけてしまった。「どうしたの?」と聞いてくれても、気遣わせてしまった申し訳なさが悪い方向に働いて鼻の奥がツンとする。話し始めたら溢れる気持ちが止められなさそうで、黙って鼻をスンスン言わせていると、「なんでも話してくれていいんやで、話すだけで楽になることもあるから」とトウマは言った。


 そんなことを言われたら涙を抑えきれるはずもなく、なんだか自分でもわからなくて、と話し出すと、自分で気づかなかった思いが言葉になって出てきた。話すことで心の中のごちゃごちゃが整理されて、話し終わるころには涙とともに嫌な気持ちが流されて少しだけ落ち着けるのだった。


 ごめんね、せっかくの電話なのに、と謝ると、彼は「俺はそんなことで怒らんよ、ていうか、俺が怒るのはカヤが傷つけられた時だけやし、カヤに怒るのは、あなたが自分を大事にしなかったときだけ、わかった?」と言う。


 そんなの、また泣いていいですか??

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彼と会えば。 椀戸 カヤ @kaya_A3_want

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