第9話  計画とは 2

ロイドの瞳の剣吞な光が強さを増した。


「T.A.Cの内規では、休暇中に会社から、こちらに連絡が来ることは、まず無い。

公式オフィシャルとプライベートを分けるのは人権の見地から見て当たり前だろ?」


その通り。


余程の緊急事態でもない限り休暇中に呼び出しがくることはない。

プライベートな時間に仕事を持ち込まれては

せっかくのリフレッシュが台無しだ。


そんな事が頻発すれば会社に対しての

忠誠心に影響を与える事は明らかだし、

場合によっては有能な人材の流出に繋がる。

それに会社の評判も下がるし良いとこ無しよね。


「あの時はレタファ・ビーチへ行った。

一泊だけだったけど、完全にリフレッシュできたな。」


あぁ、あそこならぴったりよね。

完璧なサービスを誇る最高級リゾート。

料金も最高だけど。


「帰って来て出勤した朝。

室長に『明日のプレゼンは何時からだ?』と尋ねたら…

『昨日、執行役員会議でプレゼンを行いました。

皆さん、大喝采でしたよ。』

僕は愕然となったよ。

助手、いや部下の彼が勝手にプレゼンするなど

越権行為なんて物じゃない。」


ロイドにしてみれば単なる事務屋にして

上司から「共同研究者」にと言われて

渋々、肩書きを与えただけの存在だもの。

それが「上司」を差し置いて執行役員にプレゼンする。

確かに有り得ないわね。


「室長にプレゼン資料を見せろと迫ったら

『原本を含め企画開発部長にお渡ししました。』と来た。

慌てて部長の所へ行って資料を確認したいと言ったら

『君は実務担当者だろう?内容を把握していないのかね?』

まるで馬鹿を諭すような物言いだ。

いい加減、頭に来たから『とにかく見せてくれ!』と怒鳴ったよ。


部長が渋々出したプレゼン資料。

今回の世代交代変異薬の

発案・企画・開発者の名前は室長になっていた!

僕は開発実務担当者として名前が記されている。

つまり、この資料では僕が室長の「助手」になってたのさ。」


あらま。

事務屋さんに資料制作を任せたら

中抜きで美味しい所だけ持ってかれた訳ですか。


「頭に来たから、辞めてやる!と言ったら

『契約によると後10年は辞める事は出来ないな。

辞める場合は違約金が発生する。

君の年収の5倍相当になるが払えるのかね?』

僕は何も言えなくなったよ。」


ちょっと待った。

15年もの長期契約?

彼は今22歳よね。17歳で入社したって…

あぁ、「飛び級で卒業」して入社したんだわ。


このトライウェイでの成人年齢は20歳。

基本的には20歳まで各種学校で学び

社会人として巣立って行く。

しかし例外もあるのだ。


それが飛び級制度。

学校と行政府が認めた極めて優秀な生徒は

通常の教育カリキュラムを短縮して進級させる事が出来る。

それにより20歳以下でも卒業・就職が可能なのだ。


ただし、現在はこの飛び級はめったに認められない。

成人前に就職した生徒が

その才能と努力によって産み出した利益を

企業に搾取され、燃え尽きてしまう事例が多発したのだ。


若年者は社会的な契約には疎いし

厚待遇のオファーには飛び付いてしまう。

それに加えて、本来は彼等を守るべき両親が

金に目がくらみ子供を送り出してしまうのだ。

結果、企業側の詐欺的な契約を飲まされ

子供の才能を磨り潰されてしまう。

最悪なケースでは子供が鬱病から自殺に至る事もある。


さすがに政府も対策せずにはいられなかった。

優秀な人材を企業の利益の為だけに消費されては

国力の低下を招くのは必然だから。


よって、飛び級の審査は教育省によって厳格化され

めったに許可される事はなくなったのだ。


その「飛び級」で卒業・就職したロイド。

どんな手段を使って飛び級を認めさせたかは

ひとまず置く事にして。

彼は、T.A.C.の詐欺的契約に引っ掛かった

哀れなお坊ちゃんと言う訳よね。


まぁ、15年と言う契約年数は彼が契約した年齢を考えると

ことさら酷い物じゃない。

17+15=32。

32歳なら、まだ別のキャリアを積み上げる事も可能だし。


ただし、今回のようなトラブルがなければの話よね。


「部長との面会の2日後、あいつら二人の昇進と僕の異動が通達された。

僕の異動の名目は

『当社の利益確保の中枢たる品質管理部門の

強化の為』だとさ。

冗談じゃない!

製品の品質管理は各生産部門で厳格に行われてる!

品質管理部は無駄なダブルチェック、

あるいはトリプルチェックをやらされるんだ!」


あらまぁ。お気の毒に。


「おまけに僕の『倉庫管理責任者』ってのは

製品の入出庫数管理がメインだぞ。

品質管理なんてどうやればいいんだ!」


ロイドは話しているうちに、また怒りがぶり返して来たようね。


「分かっているさ。

あいつらは僕を研究から遠ざけて

これ以上の成果を出させないように

飼い殺しを目論んでいる。

そんな事は絶対にさせるものか!」



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

メタルナ -魔女達の微笑み― 隼 一平 @alex5604

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ