第8話 計画とは。1

ロイド・ワーウイック。

彼はトライウェイ有数の種苗会社「T.A.C.」の社員だ。

確か「種苗開発室・研究主任」と言う役職に就いていたはず。半年前までは。


不可思議な人事異動により現在は

「品質管理部・倉庫管理責任者」と言う閑職に回されている。

その彼が会社にバレないようにレンタルラボで開発したのが

「麦結実阻害ウィルス」と言う厄介極まる物だった。


「あんたが何をするつもりなのか?

こちらはちゃんと把握してるわ。

ウィルスを散布して小麦生産に

壊滅的ダメージを与えるって計画よね。」


ロイドはビクッとたじろいだ様子を見せたが

次の瞬間、口角を持ち上げ嫌らしい笑みを作った。


「ハハッ!この僕の計画がそんなチンケな物だと言うのかい?」


何ですって?


内心でざわめく感情を抑えつつ彼を睨み付ける。


「小麦?そんな物じゃインパクトが足りないよな。

ターゲットは人間だ!」


と言う事は…

人為的にパンデミックを引き起こすつもりなんだ!

「なぜ、そんな事をするの?白状なさい。」


ロイドの額に短針銃を付きつきて回答を迫る。


「いいさ。教えてやろう。復讐のためだよ。」


ロイドの瞳に剣吞な光が宿った。

この瞳の様子は私にも馴染みがある。

かつての私も同じ光を宿していたから。


「今の企画開発部長と種苗開発室長。その二人を破滅させるんだ!

奴らは僕から研究成果を盗み取り、自分たちだけ利益を得たんだ。

話が違うと抗議したら倉庫に飛ばされた!

あいつらは僕が2年かけて開発した新型「世代交代変位薬」を

自分たちの成果として上役にプレゼンしやがった。

その功績で出世したんだよ!」


世代交代変位薬。

これは種苗会社にとって命綱となるものだ。


ある作物で優秀な種苗を開発できた場合、それを農家に売って

会社は利益を得る。

だが、その作物が「そのまま」種を付けると以後は

その種を利用すればいいわけで、会社の利益とはならない。

そこで販売する種に世代交代変位薬を散布して販売する。

すると、新たな種ができても優秀な「親」とは違う物になる。

大体は劣化した種となり「親」とは品質・収量・病害虫耐性が大きく落ちる

物へと変化するのだ。


農家は優秀な「親」と同等の物を生産したいのだが出来ない。

ならばどうするか?

答えは「親」の種苗を再度購入することなのだ。


農家が毎シーズン「親」を購入する事で種苗会社は莫大な利益を手に入れる。

これが種苗会社のビジネスモデルな訳。


それに不可欠なのが世代交代変位薬。

新型と言うからには従来品より効果が高いとか、コストが下がるとか

大きなメリットがあったんだろう。


「興味があるから聞くけど。従来品に対してどの位の優位性があるのかしら?」


ロイドは訊かれた事が嬉しかったのか笑みを深めて答える。


「効果は1.5倍、コストは3分の1さ。」


つまり、種苗を今までの価格で販売しても利益が3倍以上になるわけだ。

だとしたら昇進に値する案件だわ。


「あれは僕が95%以上仕上げたんだ。

開発室長は僕の助手と言う感じのポジションだった。

しかし開発部長が

『長きにわたって会社に貢献してきた彼が若年の君の助手と言うのは外聞が悪い。

共同研究者と言う扱いにしてくれんか。』そう言われてね。

そう言う物かと受け入れたのさ。」


まぁ、ありがちよね。

ロイドは22歳。T.A.Cに入社して5年目だもの。

上役からそう言われたら従うでしょう。


「95%?残りの5%は室長が手掛けたの?」


ロイドはくしゃりと顔をゆがめて言葉を紡いだ。


「彼はデータ整理とプレゼン資料の作成、それしかしていないよ。」


あぁ、事務屋さんだったのね。

5%は会社組織では必須な煩雑な事務作業。

共同研究者と言うよりは本当の意味で「助手」だ。


「研究が完成し、後はプレゼンでお披露目するだけになった時。

室長が僕に提案してきた。

『随分と根を詰められていましたから、リフレッシュのため2,3日休んだらいかがですか?』

プレゼンは3日後の予定だった。

確かに疲労を感じていたからそうしたんだ。

リフレッシュして万全な状態でプレゼンに臨んだほうが良いに決まってる。

だけど、そのその隙を奴は狙ったんだよ。」













 






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