第136話

 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


「ゴッドオブサドランの起動は?」

「滞りなく。いよいよですな」


 サドラン帝国、首都サドランのサドラン城にて、サドラン帝国の上層部の人間達が集結していた。

 サドラン城、会議室にて口を開いたのはサドラン帝国の頂点である帝王サドランとその部下、現在の軍事総括者であり、宰相職も兼任するバルバレチーノ公爵である。

 100人前後を収容できる会議室ではあるが、この場にいるのはこの2人だけであった。

 他の人間は皆、忙しなく動き回り、最後の戦へと備えている真っ最中である。


「これで始末できると思うか?」

「総監部の結論では2割もあれば良いところ…だそうです」

「そうか」

「いかんせん、対象の周りにいるゴブリンらしき生物の数が多すぎて、現状で運用できる兵器では殺し切るのが難しいとの判断です」


 サドラン帝国は巨大生物であるドラゴンを殺して発展していった国であり、巨大生物を殺すための巨大兵器は数あれど、彼らが異形のゴブリンと呼称する、魔王のホムンクルスのような中途半端な大きさの生物を始末する兵器群は数少なく、種類も少なかった。

 昔に作られ、今では一部の都市のみに配備されている…いや、何らかの理由で解体するのを後回しにされて、そのまま忘れさられた鉄球を連射するアドラールの矢と呼ばれてる、碌にメンテナンスをしていなかった兵器すら持ち出している始末である。

 それでなお、まるで火力が足りていなかった。

 圧倒的物量、そして1匹1匹の質の高さ。

 勝つどころか退けることですら難しいと言わざるを得ない状況で、成すすべ無し、というのが結論である。



「ジリ貧、というわけだな?」

「ええ。奴らは周囲の街にも同時侵攻、ゆえに他の街からの援護は見込めません。仮にあの影のような黒竜を仕留めたとして、あの異形のゴブリンに押されて負ける可能性が非常に高い、というのが結論ですな」

「なんとも…なんとも……うむ、言葉にならんな」

「せめてもう2ヶ月、いえ、1ヶ月ほどの時間が稼げればなんとかなったのでしょうが…」

「言っても仕方あるまい」

「…御子息の方々はすでに後方へ避難済みです。やはり、陛下も避難を…」

「くどい。

 もうすでにその論は終えたであろう?」

「………ええ、ええ、そうですとも。しかし、臣下足るもの御身を思うこと、如何な状況であれ、やむことはあり得ませぬ。敗色濃厚であればなおのことでありますれば」

「くくっ、口ぶりも含め無礼が過ぎるぞ?」

「申し訳ありません、失礼を言いました。が、思わず無礼な口をきいてしまう気持ちを察していただければ」

「皇帝たる私に察せよとは偉くなったものだ。嘯くにも程があろう?バルバレチーノよ」


 無礼な応答に対し、口では諌めるものの一切怒りを覚えぬ様子でサドランはバルバレチーノに応えた。

 その態度は会話の内容に反し、実に和やかで2人の気安い関係性が垣間見える。


「で、ゴッドオブサドランの起動が滞りなくと言ったが、具体的にはいつ頃だ?」

「3時間、といったところです。作戦の決行は3時間半後を予定しております」

「そうか。せめて、黒竜の方は仕留め切りたいところだ」

「御子息達は…大丈夫でしょうか?」

「私の息子達だ。も持たせてある。なんとかできる、と信じるしかあるまい」

「…詮無いことを申しました」

「かまわぬ。気持ちは分かるゆえな」

「…察しているではないですか」

「おっと、これは一本とられたか」


 2人は努めて和やかに会話を続ける。


 そして。

 3時間半が経過した。


 会議室にはサドラン皇帝とバルバレチーノ公爵を加えて、10数人が集合した。

 各部署の責任者達である。


 サドランが口を開き、


「それでは、これより黒竜掃討作戦を開始する。

 ゴッドオブサドランを起動せよ」


 その言葉に、会議室の皆が了解の意を示す。

 サドラン帝国、最後の戦いが今、口火を切る。

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魔王クリエイター 百合之花 @Yurinohana

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