まるで血の色みたいな恋

 同性の先輩に恋心を抱く後輩の男性が、いろいろ雑談しているうちにその先輩の片耳にピアス穴を開けてあげることになってしまうお話。
 BLです。血がドクドク流れ出たままの生傷みたいな恋のありようを、これでもかとばかりにゴリゴリ叩きつけてくる恋愛劇。効いたというか刺さったというか、読み進めるごとに「オアアアアーーーーッ!」ってなりました。いーやーこれはつらい……どうにもならない強すぎる想いが、でもただの「片思いの切なさ」なんて概念では到底収まりきらず、湧き出るそばから全部自罰感情に変換されてゆく描写の痛々しさ。お、おい! 死ぬぞお前!? もういい休め!(休めません)(恋なので)
 いやもう、ほんと凶悪でした。文章は一人称体で、それも主人公であるコーヨーくんの心情にかなり密着したもの、どこか歌の歌詞を思わせるウエットな美しさを感じる文体(節回し)なのですが、だからこそビリビリ伝わってくるこの擦り切れるような痛み! その根源は明らかで、「(思いを悟られることにより)好きな相手から強く拒絶されてしまうことへの恐怖」だと思うのですけれど、でもなによりすごいのが〝それが直接的に書かれていない〟ところ。
 彼の意識はあくまで『平和な現状を壊さない』ことだけに向けられており、でもそこに過剰な怯えが付随しているという事実ひとつで、彼の真に恐れるものを描き出してしまう——というか、書かないことで彼の逃避(直接的に想像するのを避けていること)を著し、そこからその怯えと痛みの度合いを、ひいてはその想いの大きさを浮き彫りにしてしまう。この書き方、一人称体だからこそのアプローチが見事にはまって、一文一文の熱量が見た目の数倍に跳ね上がるような感覚。恐ろしい……もう劇物ですよこんなの……。
 実はお話の筋そのものは結構シンプルというか、作中で起こった出来事だけを切り出すのなら、とても短くまとまってしまうように見えます。それこそこのレビュー最初の一文がほとんどすべてで、でもそう気づいて逆に驚きました。このシンプルな出来事の中に、こんなにも強いドラマを埋め込んでくること。キャラクターの関係性や距離感、その機微の作り方と動かし方でこちらの情動をギュインギュイン振り回してくる、その繊細さから生まれる巨大な波に惚れ惚れします。
 ほぼ全編を通して感じる不穏さのような感覚、語弊を厭わず言ってしまうのであれば、主人公のコーヨーくんがわりと危うい惚れ方してるっぽいところが最高に好きです。想いが成就することへの期待が低すぎるのか、恐ろしくナーバスかつ不安定な状態になっていること。ふとしたきっかけで簡単によくない結末に転げ落ちて行きかねない、そんな苦しく細い道を歩き通してのこの結末。強烈でした。ただ一語で『恋』と呼ぶにはあまりにも苛烈な、なんだか『錆びた釘と剃刀で作った団子のような何らかの感情』みたいなものを飲み込ませにくるお話でした。美味しいよ!

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